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親愛なる未練  作者: 紅ト
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3.3 この盾は絶対にイブを守る

 

 イブの振りかざした短剣はゲンに向けられた。かと思うとすぐさまイブに引っ張られベンチから離される。


すると後ろから何かを叩き割る様な大きな音が聞こえてきた。


イブに肩を支えられる状態になったためすぐには背後の確認が出来なかった。けれど足元には買ったばかりの食料の缶や中身が無残に転がったのがみえた。そして穏やかだった広場の人々は悲鳴を上げながら音から逃げ始めた。路店の店員も品物を置いて次々と姿を消していく。


「ホテリさん、ここから離れてください。能力が使えないのですよね。ティアナを連れて来てくださいませんか?」


 イブは耳元で囁くように話した。振り返るととイブは身長と同じ高さの大きな盾を片手で支えていた。だがその盾は金属製ではなく青がかかった半透明の盾の形をした物だった。盾の一部分は先程の攻撃を受けた為か縦に稲妻のような亀裂が入っていた。

そして俺の肩を支えていた手には短剣、いや、折り畳み式のナイフが握られていた。彼女は器用に武器を使いこなし守りの体制を作っていた。


「でもイブさんひとり置いては行くなんて」


「安心してください。この盾は絶対にイブを守る、そうティアナが言って与えてくれたものです。わたしが引きつけます。その間にホテリさんはティアナのところへ」


「分かりました。連れて来ます」


「お嬢さん、騙すのは良くありませんよ。それは神宿る短剣ではなく只のナイフです」


「ホテリさんお願い致します!」


 イブからすぐさま離れ駆け出す。すると鋼がぶつかる様な重たい音が何度も響いた。


「逃がしませんよ」


「なっ!?」


 すぐ隣を勢いよく手斧が飛んできて前方に突き刺さった。石畳みなのによく刺さったな!ほんと危なかった。もう少し左を走っていたら当たっていたかもしれない。足を止めずに振り返ると、ゲンとイブの攻防が見えた。ゲンは新たな手斧を振り回しイブはそれをひたすらに受け止めていた。どうやら(武器)は一つではない様だ。明らかに此方側の劣勢だ。


「はぁはぁ、っ……。嘘はついていません。これも短剣で……っ。貴方は短剣が欲しいと仰ったではありませんか」


「護身用でも登録された武器以外は持ち歩いてはいけない。国の決まり事ですがご存知ではないのですね。ふむ、もしかしてお嬢さんは旅人(たびびと)ですか?」


 イブと対峙する青年はにこやかに笑っている。斧なんて物騒な武器を持っていなければ降霊術士よりも聖職者に見えただろう。ゲンには負傷が見当たらない。逆にイブは言葉を詰まらせ疲れを見せていた。長くは持たなさそうだ。


 もしここで俺が引き返して能力を使えばどうなる?能力が使えないという事になっている。その話さえ広まっている。不意をついて引き返し能力を使えば隙は出来るかもしれない。だがイブが作ってくれた時間を無駄にしてしまうかもしれない。

 自分だってどうして能力が使えるか分からない。ティアナの時のように上手くいかなかったら?確かではない能力を使ったところで失敗するより確かな勝率を信じた方がいい。


 イブはわたしの武器は必ずわたしを守ると言っていた。その言葉を信じるしかない。土地勘のない俺は来た道を戻るしかなくティアナのいるホテルに向かっていく。


 気のせいか?さっきより人が多い気がする。というか前からやって来る人もいる。流れに逆らっているだけでなく壁のように立ちはだかって見物している奴もいる。こいつら野次馬か!出来るだけ人混みのない道を選んで通って行く。逃げる流れに乗り始めた頃とある声が聞こえてきた。


「みんな落ち着いて!大丈夫よ、警察を呼んだからすぐに来てくるわ!」


 人混みの頭上、広場付近の建物の窓から女性が叫んだ。その女性の言葉で人混みは喜びの声を上げながら移動していくが、早く安全地帯に行こうとする押し合いは変わらなかった。ただでさえ広場の周りは細い道に入り組んだ建物が続き、簡単にはひらけた所に出れない。


 なんだ?

 少し前の方にいる男が横へとずれ、姿を消した。近くに行き、すぐに確認する。見ると建物と建物の僅かな隙間があった。奥行きはそれ程無く、向こう側の出口から光が見えた。それにそこには先に行った男一人だけ。

 すぐ隣の路地ぐらいだったら迷わずホテルに辿り着けるだろう。

 俺は飛び込むようにその男に続き、後を追う。そこは体を横に曲げなければ通れない道だった。だがなんとか進めそうだ。壁を睨みながら進むと何かにぶつかった。それは先に行っていたはずの男だった。そして出口側からは入口側の様な騒ぎ声が聞こえていた。

 しまった、そっちも人混みで混雑している。しかも俺のいた道より人の流れが早い。引き返そうとするとまた何かにぶつかった。同じ考えの者達で行き詰まってしまった。


「早く出ろ!」


「押すな危ないだろうが!」


 身動きが取れずに焦る者達の罵倒が飛び交い始めた。


「すみません!俺、急いでいるんです、通してください!」


 罵倒に混じって意見を発しても無意味、カオスな細道で騒ぐのは意味がないのは分かっているが本当に急いでいるんだ。せめて此処から出なければ、、。


「メガネのお兄さん、急いでいるのー?なんで?」


 後ろからトントンッと肩を叩かれた。横ではなく、壁だと思っていた後ろからだ。精一杯に頭を捻りそちらを向くと窓があった。そこには若い男がいた。


「広場で連れが戦ってるんです。早く助けを呼ばなくちゃいけないんで……ってうわっ!?なにを!?」


 跡がつきそうなほど強く肩を掴まれた。


「大人しくしてね、頭打っちゃうよ?」


 相手はそういうと俺を思いっきり引き上げた。窓枠に腰がひっかかったがそのまま部屋に引きづり込まれた。無理な体勢だったため尻で着地してしまった。


「はい、大丈夫?」


「大丈夫です。あの、もう離してくれません?」


「ごめんねー」


 肩も尻もヒリヒリする。危なかった一歩間違えれば尻に写真立てにあたるところだった。よく見れば椅子やランプ、本などが床に落ちている。てかひどい散らかりようだな。


「お兄さんの助けってどこにいるの?」


 小柄の男はニコニコ笑顔でこっちを見ていた。


「俺、ここに住んでるから最短ルート教えられるよ?ちょっと変なとこ通るけどねー」


 地元の人間なのか。ならホテルまで道案内してもらえる!入り組んだ道が多いこの町は迷子になりやすい。買い物をしていた時に看板を見ながら進んだが名所も店の名前も、とにかく多くの矢印で混乱した。ごった返す通りではまともに看板も読めなかった。


「ありがとうございます。じゃあミチシルベホテルって分かりますか?森の近くにあるんですけど」


 ここは慣れている人に頼むのが最善ルートになるだろう。


「勿論。ってうわぁ、他の奴らもこの家に入ろうとしてきてる。早く行こー」


 眉を下げて彼は窓の方を見ていた。振り返ると窓から手が伸びて誰かが家に入ろうとしていた。狭い道だからか少し高い位置にある窓に届かないのか。この男はよく俺をあげれたものだ。


 こっちと男は手招きした。部屋の出入り口の扉を出ると彼は扉を閉めた。そして近くにあった棚を引きずり封鎖した。ずいぶん厳重だ。彼に続き開いていた玄関から出たところの階段を登り屋上まで駆け上がった。


 屋上に辿り着くと快晴の空から太陽が眩しく光っていた。ここらの建物は同じ高さで建てられていてしかも屋上には柵がない所も多い。すでに彼は隣の建物に飛び移っていた。それに続き隣へ隣へと追いかける形で進む。進むにつれて中心街から離れている為か建物の間の距離が開いていく。しかし前にいる彼は物ともせず飛び越える。助走をつけて超えた彼の真似をして端まで走って行くがそこまでいく前に己の限界が分かり止まってしまった。


「おーい。まだこっち来ないのー?」


 向こうから呼びかける声と大きく振る手が急かしてくる。下を覗くと路地にはほとんど人はいなかった。


「この距離は俺には飛べないです。下はもう人通り少ないんで此処からは下道を通って行けませんか?」


「勿論いいよー。じゃあ階段で下まで降りて。下で合流しよー」


 相手から大きな丸のジェスチャーが送られてきた。俺も同じく返して階段を探した。この建物は屋内でなく屋外に石の階段が備え付けられていた。急ぎ足で階段を下り、彼を探す。先に降りていた彼は路地裏から顔を出していた。距離が近づくと路地に顔を隠した。その隙間に入ると前方を進む彼が見えた。先程の細道よりはマシで手を広げても十分に通れる広さだ。だがここも入り組んでいる為、曲がり角が多い。見失わない程度に距離を保ちながらついていく。右に左に、また右に複雑だ。太陽の光がまともに入らない暗いところまできてしまった。しばらく誰ともすれ違ってない。


「もうすぐですねー」


 先をいく彼の声が聞こえた。けれど視界の中には居なかった。しまった、少し見失ってしまった。曲がり角は右と左。どちらかに曲がれば辿り着く。


「本当ですかー!?」


 声を張り、大声で話しかけた。


「あとちょっとですねー」


 左角から聞こえてきた?駆け足でそちらへ行くと勿論、彼はいた。しかしそこは行き止まり。高い壁に囲まれた空間の中で彼はにこやかに笑った。


「ホテルまではあと少しなんでー。二度目の人質、体験していきませんか、ホテリさん?」

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