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死にたい少年の憂鬱

昨晩は夢のようだった。いや、悪夢のようだったのだろうか。

ともかく、現実離れした出来事だったのは確かで、それが夢ではなく現実であった事も確かなようだった。

鼻の中に微かに残る血の香りが、真実を教えてくれているようで──

昼夢(ひるむ)!起きてるなら早く降りて来なさい」

僕は渋々、その声に応じる。

はあ、とため息をつき一言。

「また、今日も生きている」


「最近どうなの、学校は?」

母のありきたりな質問に、僕はただ、ありきたりな答えを返す。

「変わらないよ。いつも通り、楽しいよ」

そう、と少し訝しげな視線をこちらに向けられる。昨日帰りが少し遅かったのが、そんなに気に入らなかったのだろうか。

仮にも自分の生みの親である女性に、このような事を言うのはとても不本意なのだが、母はいわゆる『過保護な親』というヤツだ。

あれは中学一年生の事、当時僕は、いじめを受けていた。厳密に言うと、「いじめ」はもっと昔からあったし、今も少なからずそのような空気はある。

担任の教師から連絡を受けた母は、すぐに学校に向かって…ではなく何故かまず連絡網を回し、保護者達に事情を聞いて回ったそうだ。

その結果、事情を全く把握してない保護者の一部が騒ぎ立て、後日、地方紙の一面を飾るニュースにまで発展した。

その後僕が、校内の生徒、及び職員にどのように扱われたかは言うまでも無いだろう。教室内では、自分の周辺に一定範囲以上の空間が形成され、教師陣からも腫れ物扱いだった。噂では、うちの母親についての職員会議が開かれたなどとも言われるくらいだ。

他にもエピソードはあるのだが、ここでは割愛させてもらう。話出したらキリが無いし、現状が問題なのであり、過去は終わったことだからだ。どうしようもない。

そんな過去を多かれ少なかれ知ってる現在のクラスメイトは、そんな僕を空気、いや、そこにいないものとして認識してる節がある。こんな事なら、まだいじめられていた頃の方がマシだ。

そんな現状が僕の「死にたい」という願望の一因になっていて、その要因が、今こうして目の前で食卓を共にしている母にあるワケなのだが、母はそんな事、考えた事すら無いだろう。

かといって、僕から「あなたのせいで僕は学校に居にくいのです」と言っても、現状は良くならないし、むしろ悪化する未来しか見えない。

はあ、とため息をつく。こんな事考えている暇があるのなら、早く死にたい。

地球の裏側では、貧困や飢餓で生きたくても死んでいく人々がいるというのに、どうして僕は生きているのだろう。出来る事なら彼ら彼女らに僕の命を明け渡したいくらいだ。

「どうしたの?ため息なんかついて」

「ううん、何でもない。今日の体育の種目が嫌だなって考えてただけだよ」

脈絡が無さすぎる気もするが、この程度で母は容易に騙されてくれる。多分だが、何かと余計に気を使うタチなので、疑うことに疲れているのだと思う。まあ、僕にとってはただの好都合なのだが…。

因みに、今日の時間割に体育は無い。


朝食を食べ終え、最低限の会話を母と交わし家を出る。

「今日は部活遅いの?」

「どうかな、もしかしたら居残り練習とかして遅くなるかも」

「そう、気を付けてね」

少し不安げな母の顔。普通の息子が見たら「心配してくれている」とか考えるのかもしれないが、残念ながら、僕にはそのような感情は無いらしい。

今日も母は自分を見ていない。何処を見ているのか解らない虚ろな目、という風に僕は思った。

僕の通うの学校では、部活動は夕方6時まで、それ以降は大会等の本番直前など、具体的な理由が無い限り活動厳禁なのだ。

昨日僕が帰宅したのは夜九時頃。通学路は片道で長くても一時間なので、どう考えても辻褄が合わない。学校説明会などで母もその説明を受けているはずなのだが、気付いてる素振りすら見せない。僕には裏があるように感じられて、恐怖しか感じられない。

さらに言えば僕は確かに、吹奏楽部に所属しているが幽霊部員である。なので部活動にすら参加していない。それくらい本番の日程か何かで気付きそうなものなのだが…。

学校到着。

いつものように余鈴と同時に学校に着いた僕は、いつもと同じように上履きに履き替え、いつもと同じように教室に向かい、いつもと同じように誰とも言葉を交わさずに席に着いた。

そしていつものように、将来役に立つのかわからない授業をただ聞き流すのだった──もっとも、僕にはその『将来』があるのかが怪しいのだが。


ホームルーム終了後、僕は真っ先に家に帰る──事は無い。

部活動をやっていないにも関わらず、帰宅時間が遅くなる理由、それは寄り道だ。

別に母に「部活がしている」ように見せる為の工作ではない。むしろ逆だ。寄り道のために部活動をしているように見せているのだ。

寄り道の理由は沢山あるが、その一つに「殺される」事がある。通りすがりの殺人鬼、なんてものが都合良くいるわけもなく、当たらないと解っていながらくじ引きをするようなものだ。

だが確率は0では無い。現に昨日、殺人鬼ご本人様にも会えた。

そんな経験があったお陰で、心なしかテンションが上がっている。有り体に言えばワクワクしている。

寄り道する場所はいつもズラしてはいるが、殆どが徒歩で行ける場所だ。

徒歩で片道二時間も歩けば10キロくらいある。それくらいが僕の行動範囲だ。広い。そのせいで随分と脚に筋肉が付いた。

今日進む方向はおよそ決めてある。

僕は真っ直ぐと寄り道を始めた。


歩いて一時間程たった頃、喉が渇き、丁度近くにあったコンビニに立ち寄った。

この辺りは人口が少ないらしく、店内にも外と同じような静けさが漂っていた。

レジに店員がいない。暇なのだろうか。

僕は適当な飲み物と軽食をチョイスし、レジに向かった。するとそれに気付いてか、慌てた様子で店員さんが中から出てきた。

「すみません!いらっしゃいま…せ?」

何故語尾に疑問符がついてるような言い方をするのかと、ふと顔を上げて見るとそこには、

「あ、昨日の」

 昨日出会った殺人鬼が、そこにはいた。

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