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殺したい少女の『初めて』

彼女からの突然の提案に、僕は文字通り口をぽかんと開けて驚いた。

「つ、付き合うって何処まで…」

「あはは、今時そんなボケ方する?」

彼女は腹を抱えて笑った。僕には何が可笑しいのかがさっぱり解らない。一般的に見たら、僕も大概ではあるが、しかし彼女の言動は、そんな僕のものよりも異常だと思えた。

「い、いやだって、ただ断るならまだしも、それって殺さないからあなたとこ、交際してって事ですよね」

「ああ、そういう事になるかな。けど私は別に『殺さない』とは言ってないよ」

うーん、と少し考える素振りをしてから言った。

「あ、そう。君を殺すのはなんだか惜しいから、本気で殺したくなるまでは取っておく、って意味だよ」

何か台本に書かれた台詞を読むようなわざとらしい言い方で、最後に

「保存食みたいなものだね」

と付け加えた。いや、納得出来るかそんなもの。

僕は確かに、物心ついた頃からずっと自分の『生』について疑問を持ち続け、十代に入ってからずっと『死にたい』と思い、重い、想い続けていた。だからこれはチャンスとも言える。だがしかし、現に死ねてない、その一番の要因が『苦痛』である。自傷するにも痛みに対する抵抗感が生まれる。自殺ならもっとだ。要するに痛いのが嫌なのだ。

日本の現代社会において安楽死は認められていない。その上今の身分上、そう容易く薬物などが入手出来るワケもなく、ならばどうすれば、と考えて出した僕の結論、それが『殺される』事である。痛みは確かに伴うかもしれないが、自分に生じる『痛いのが怖い』という抵抗感とは関係なく自分の身体が痛め付けられ、殺される。更に相手に、明確に『殺す』という意思がある事で確実に『死ぬ』事が出来る。

こんな考えを論文にまとめ、学会や大学教授に提出したところで、理解はおろか読まれる事すら無いだろうが、それでもこれが、僕の、僕による僕のための『最適解』だったのだ。

それ故に、長期間かけていたぶり、殺されそうな彼女の提案は、飲み込みにくいものだったのだ。

そんな僕の考えを見抜いてか彼女が

「あ、殺す時までは傷付けたりしないから。だって、ジワジワいたぶるよりも一気に殺した方が血が噴き出して綺麗でしょ」

と言ってきた。妙に説得力がある。いや解らないけど、彼女の美学なんて。少なくともその言葉が嘘じゃないとは思えた。

「でも、わざわざ付き合う必要無くないですか…」

「んー、あ、ほらアレ、好きな人を殺す方が楽しいっていうのあるでしょ?ソレだよ、ソレ」

なんだか取って付けたような言葉だが、そういう話は確かにある。彼女もそういう趣向の人間だったのか──

「いや、付き合うのは君が初めてだよ」

は?何を言ってるんだ。

「人とそういう、えっと、レンアイカンケー?になるのは君が初めてって意味」

いや別に、その意味に疑問を持ったのではなくて、何故、どうして───

彼女は僕と付き合おうとしているのか?


結論から言うとフラれた。

当然だろう。自分を好きでもなく、自分が好きでもない異性にコクられて、二つ返事で「はい、付き合いましょう」と言う人がいるワケがない。

結局、あの時の感情の正体が何だったのかは解らないまま、私の心の中にモヤモヤが残った。もしかしたら本当に恋だったのかもしれない。

私は生まれてから今日この日まで、人を『好き』になった事が無い。それは恋愛的な意味もそうでない意味も含めて、だ。私自身も好きじゃない、むしろ嫌いだし、他人なんて気にも留めすらしてなかった。だから、あの時の感情が好意的なものなのか、恋愛的なものなのかという判断材料が無かった、というのが本音なのだ。

今まで人を殺してきたが、この人は殺したくなくなるかも、或いは物凄く殺したくなるかもしれない。それくらいにしか最初は考えていなかったが、いざフラれて、冷静に考えてみると、案外単純に、彼に『恋』をしていたのかもしれない。

まあでも、今となっては確かめようの無い事なのだが…。

「さて…」

取り敢えず一旦帰らないと。今日は前の二回に比べて派手にヤってしまったから、服も身体もぐしゃぐしゃだ。

証拠隠滅は怠らない。そのポリシー?のお陰でこれまでの二回も、私のところまで捜査の魔の手が伸びる事は無かった。私の方が『魔の手』という感じだが…。

家に帰って事件が露見する、という心配も無い。何故なら私には、家族がいないのだから。


と言っても別に、両親が事故で亡くなったとかいう、お涙頂戴な話があるワケではなく、単に家族とは別居状態にあるだけである。まあそれも、見る人によっては十分異常なのだろうけど。

私のリストカットの件などで、母が心を病んでしまい、家庭崩壊しかけた。それを見かねた父が、私に生活費を出すから一人暮らしをするようにと言ったのだ。要は厄介払いだ。

それ以降、家族─両親と妹とは一度も顔を合わせていない。私も会いたくないし、会う必要も無い。生活費なら私もバイトをしているので、むしろ仕送りが丸々残る程潤っているし、会わない方が、互いの幸せのためになる。家族が今元気かどうかなど正直どうでも良い。

閑話休題。

家に着いた。取り敢えず汚れたブラウスとスカートを脱いで、適当なビニール袋に放り込む。下着と靴下も脱いで、シャワーを浴びて、返り血と1日の汗を流す。この時間も、血を見る事の次に至福の時間である。

汚れた服の処理については、想像にお任せするが、一人の子供が出来る範囲、とだけ言っておこう。重要かな、その情報?

浴室から出てまず、私は冷蔵庫からいつも飲んでる炭酸飲料を取り出す。シャワーからこれを飲むまでが、私の日課なのだ。

口の中が甘ったるくて蕩ける。幸せな時間。殺しの後の味は特に格別だ。

「恋も、こんな味なのかな」

何処かの誰かが、恋は甘くて蕩ける、みたいな事を言っていた気がする。そんな余計な事を思い出して、さっきのモヤモヤした感情がまた戻ってくる。

今日はもう寝よう。そう思い、パジャマを着て、布団に入った。


それからしばらく寝付けず、結局眠りについたのは、布団に入ってから一時間くらい後の事だった。

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