死にたい少年と殺したい少女
僕は死にたい。
殺してくれる人がいたら、金を払っても良いと思う程に。
でも、世の中そう都合の良い出来事は無く、僕は今日もこうして生きながらえてる。悲しいことに。
そんな僕にも、春が訪れた───
いや、まるで恋が始まる予感のような出だしになってしまったが、決して恋に落ちた訳では無い。断じて。
僕の場合の春というのは、気持ちが晴れるような出来事という意味だ。普通そんな使用法しない?知るか。僕にとっては、まさに春のような出会いだったのだから。
その少女は、路上のど真ん中に一人、堂々と立っていた。その後ろ姿は凛々しく、返り血に染まったブラウスが禍々しくも綺麗で、未だ血が滴るナイフは、街灯に照らされて鈍く輝いていた。
「彼女なら」と思った僕は、一切の迷いも躊躇いもなく、彼女に声を掛けた。
振り向いた彼女の顔を見た感じ、僕と同じ、十代半ばといったところだろう。近くで見ると、顔もとても綺麗で、こんな出会いでなければ、僕じゃなくても声を掛けるのではないだろうかという程の美人だった。
こちらを一瞥すると、ニヤリと笑った。
「あの、僕を殺してくれませんか?」
その一言に彼女の顔が曇った。
興奮気味に見えたかも、引かれたかとも思ったが、しかしそうではないらしい。
「君みたいな人は初めて見た」
彼女は驚きを口にした。
「駄目、ですかね」
「決めた」
彼女が独り言のように言った。そして
「君を殺すのは後の楽しみに取っておく。だから…」
その言葉だけでも充分に驚いたが、続けられた言葉に、僕は唖然とした。
「だから私と、付き合ってくれないかな」
──私は、俗に言う殺人鬼だ。
最初はリストカットだった。この世の中が、退屈で、退屈で、退屈で、飽き飽きしてた。でも血を見てる時だけは、心がとても安らいだ。腕から滲み出て、ドロリと流れる、赤黒い液体に救われた。
でもそのうち、段々足りなくなってきて、もっと沢山の血が流れるところが見たくて、私は他人に手を伸ばした。
今までに三人、殺してきた。なるべく勢いよく刺して、血が噴き出す光景を眺めて、快感すら感じた。そうしてる間だけ、私は「生きていて良かった」と感じていられる。いられる、はずだった───
唐突に「殺して下さい」と懇願してきた少年。多分私と同い年くらいだろう。
そんな彼を見て、私は初めて人を「傷付けたくない」と思った。
「ああ、これが恋」なんて考える程、単純な思考回路ではないが、しかし彼に、運命的な何かを感じたのは事実だった。
それは──理由はともかく相手も同じようで、だから私は試してみたくなった。
刺そうと思えばいつでも刺せる。その上で敢えて、彼を近くに置いておいたら、私は、何か新しいものを見つけられるような気がして、だから私は、彼にこう言った。
「私と、付き合ってくれないかな」