第2節
数週間、突然、信はアイドルになると家族の前で宣言した。
その日はたまたま私の両親が遅くなる日で、信の家で夕飯をご馳走になっている時だった。
サクサクの唐揚げが、箸から転がり落ちて、テーブルに落ちたところを信に横取りされる。
信の話しを聞く限りだと、まだ正式には決まっていないようで単にスカウトを受けただけらしい。
何でもそのプロデューサー曰く、自分が働いている大手事務所で、現役高校生のアイドルユニットを複数進出してお互いを競わせる“アイドル育成バトルロワイヤルプロジェクト”なるものを社長自ら考案されたと言う。
社員たちに異議を唱えたり断る権利はなく、プロジェクトは進められていったが、如何せん人手不足も相まって、企画を受けた上司たちはまだ下働き中のプロデューサー志望の新入社員たちに、現役高校生をスカウトし、新人アイドルとして半年間育て上げろと言い渡した。
信に声を掛けたのも、プロデューサー志望の新人で、プロデューサー1人につき2ユニットも担当しなくてはいけないそうだ。
「聞くも涙、語るも涙、それと相まって面白そうだから受けてみた」
親指を立てて宣言する信に、信の父親は唖然とし、母親は楽しげに手を叩いた。
「あらやだ。そしたら、うちから一流アイドルが誕生するのね。デビューはいつかしら?」
「プロデューサーさん曰く、最後の1人が見つからないらしく、見つかり次第、ユニット結成するとか言ってたなぁ」
「あらあら、そうなの? 早く見つかるといいわねぇ。そしたら一緒に応援に行きましょうね、皐ちゃん」
話題を振られ、私は咄嗟に反応できず、「え?」と聞き返してしまった。
「信のお披露目ライブ。もちろん、行くわよね? 皐ちゃん」
「……あ、はい。もちろんです。すみません、少しボーッとしちゃって」
しどろもどろに話す雫の前に、信は自分のお皿から唐揚げを1摘まみして私の口元に運ぶ。
「なんだ、なんだ。貧血か? 肉を食え、肉を。そして大きくなるんだぞ~」
「あはは、ありがとう」
心に居座る靄を飲み込むように、私は信の唐揚げを一口で食べた。
肉汁がジュワっと広がり、とても美味しい。
少し舌を火傷したのだろうか。目尻に涙がうっすらと浮かんだ。




