カーラーンと和平案(その1)
魔神王の期待どおり、カーラーン王は和平をあっさりと受け入れてくれた。
けれども、それはまだあくまでカーラーン王個人の話である。如何に国王とはいえ、独断で魔物との和平を結ぶなど、とてもじゃないが無理な話である。
カーラーン王は和平を結ぶ為には、家臣達を納得させることができなければならないのだ。
しかし、数百年に渡り争い続けている魔物と人間との溝はやはり深く、会議は平行線。
「私は皆がなんと言おうと、決して譲るつもりはありません。和平の道がこのカーラーンに生きるすべての人々を幸せにできると、私は確信しているのです。私に着いてきてくれるのか、それとも私を王座から降ろすか、道はもうその二つだけです」
最終的に、カーラーン王は家臣達にそう言い放ち、席を立った。
そして魔神王達は、家臣達がその答えを出すまでの間、カーラーン王の自室に招かれそれを待つこととなった。
「す、素晴らしい!私の知らない『ロリィちゃんとリザどん』がこんなに‼」
「あはは、目の前で自分の描いた物を読まれるのは、なんだか照れちゃいますね。きっとまだまだ時間がかかるでしょうから、どうぞ遠慮なく寛いじゃってくださいね」
魔神王は喜々としてカーラーン王の描いた漫画を読み漁っている。
そして、その姿をケリーとセシリアは白い目で見ていた。
「あ……あの、良かったらお二人もどうでしょうか?未熟な出来栄えでお恥ずかしいのですが……」
そう言って、カーラーン王はそんな二人におずおずと自作の漫画を差し出した。
「え⁉あ、はぁ。では、読ませて頂きます」
それを断るわけにもいかず、二人も黙々と漫画を読みふけることとなってしまった。
ちらり、と、セシリアはカーラーン王の表情を覗う。
カーラーン王は夢中になって漫画を読む魔神王の姿を、嬉しそうに見つめていた。
セシリアは見たこともないその王の姿に、思わず笑んだ。それはカーラーン王が初めて見せた、年相応の少女のそれだった。
そして今度は魔神王の方に目を向ける。
萌漫画に悶えるその姿は、気持ち悪くはあるものの、とても殺戮を好む邪悪な王とは思えない。
思えば魔物と人間が争いを始めたのは千年近くも前のこと。どうして争うことになったのかも、セシリアは知らないし、深く考えたこともなかった。
魔物は人間の敵。
生まれた時からそう決まっていた。
だから、それを殺す事を疑問に思ったことなど一度もなかった。
セシリアは今度は父の敵である無双闘神を見た。
「ーー⁉」
すると、無双闘神はとんでもなく険しい顔をしていた。
わなわなと震えるその手を見ると『オークによる女騎士調教日誌』と書かれていた。