作家女王と萌え豚魔王(その3)
「この話はこの場にいるこの四人だけの秘密にして頂きたいのですがーー」
そう言ってフィオーナが視線を向けると、三人はこくりと頷いた。
「セシリアは知っているかと思いますが、カーラーンにはコミマという書物販売イベントが年に二回催されているのです。
そのイベントには誰でも自由に参加でき、あらゆる規制が免除され、皆が思い思いに己の描きたいものを好きに描き、好きなように配布したり販売したりできるのです。
私は信頼できる侍従にお願いして、そこで自作の漫画を配布してもらっていました。
もちろん身分は隠して。誰でも参加できるとは言っても、王族が参加すれば騒ぎになりますからね。
ーー何より、あの漫画を描いたのが自分だと知られては顔から火が出ます。
今も凄く顔が熱いです。
……あの漫画は私の理想です。
私は父がーー先王が嫌いでした。
あの方は、戦に取り憑かれていました。魔物を滅ぼすことが人生の目標になっていた。
幸せを求めて戦うのではなく、只々怒りと憎しみをぶつける場所を求めていたのです。
私はそれが嫌だった。
深い悲しみがそうさせたというのは分かります。でも、理想を持たない戦いは只の殺戮でしかないと、私は思うのです。
私の理想は、魔物も含めて皆が笑って暮らせる世界。
私は、魔物の全てが人間の思うように、悪意しか持たない存在ではないと、知っています。
だからそれを、せめて紙の上でだけでも創りたかった。
そして、ひょっとしたらーーもしかしたら、誰かがあの漫画に共感してくれないかと、少しだけ期待して……そうしてあの漫画を、私は描いたのです。
まさか、魔物の王様が共感してくださるとまでは、思いもしませんでしたけれど」
そう言って、目を潤ませながら微笑みを見せたフィオーナを、魔神王は心底美しいと思った。
「私の一番の目的は、実は和平ではなくあの漫画なるモノを描いた人間に会うことでした。あの書には私が想像した通りの想いが込められていたーーそれを今、確認できた。共に理想実現を目指しましょう、カーラーン王」
魔神王とカーラーン王は互いの手を強く握った。
その裏で、魔神王は『オークの女騎士調教日誌』の方は一体何を思って描いたのかフィオーナに訊きたかったが、空気を読んで今は止めておくことにした。