作家女王と萌え豚魔王(その1)
「今すぐ馬車を用意してください!私自ら魔神王殿を迎えにウォーレン砦に向かいます」
「……は?」
それは耳を疑う言葉だった。
あの魔神王に渡された気色の悪い書物を目にした瞬間、カーラーン王は即断即決で魔神王の謁見を許したーーどころか、自ら魔神王を迎えに行くとまで言い出した。
剣聖は敵総大将の申し出をほいほいと引き受けてきた自分は叱責されて然るべきと覚悟していたが、まさかの反応である
当然家臣達も引き止めたが、王は聞く耳持たず、出立の準備を自ら進めていく。
カーラーン王は普段は家臣の言葉に耳を傾ける穏やかな人物であったが、まるで別人のようだ。
「王様ーー恥ずかしながら申し上げます。兵を連れていないとはいえ魔神王、無双闘神の二体が揃っている現状、その御身を確実にお護りできる保証は私には出来かねます。お会いになるにしても、万全の体制を整えた上でこちらの領域にーー」
「そのような心配は不要ですよセシリア。このような奇天烈な罠がありますか?和平の申し出はきっと本心です」
そう自信満々に言い放つ王の心が、剣聖には全く理解できなかった。
これから敵の総大将の元へ向かおうというのに、カーラーン王はまるで恋する乙女のように目を輝かせている。
確かにカーラーン王は温和な平和主義者ではあるが、それにしても何百年と殺し合いを続けてきた魔物の王を、なぜそんな簡単に信じてしまえるのかーー?
ただ、この王の頑なさは、もう自分には止められないことは分かった。
ならば、自分の役目は騎士としてーーカーラーン最強の剣聖として、何が起ころうとも王をお護りすることだと、剣聖セシリア・フィリスは覚悟を決めた。