オークと女騎士(その2)
「魔神王ーー⁉そのキモいのがか⁉」
「え……キモーー?」
「そのとおり。カーラーン王に会うため、魔神王自ら足を運んでくださったのだ。我等に戦う意思はなく、我が王は話し合いの場を御所望だ」
「え、そのとおり?スルー?無双闘神スルー?今お前の主ディスられたよ?気づいてる?」
「なんですかその喋り方は。漫画の登場人物の影響を受けないでください、キモーーいえ、威厳が損なわれます」
「え?今キモって言った?言ったよな?」
「魔物の王が話し合いだと?一体何を企んでいる?まさか中々砦を落とせぬ部下に痺れを切らして、降伏してくださいとでもお願いに来たか?」
「安い挑発はよせ……。戦いにきたのではないと言ったろう」
「おいーーちょっと、私を無視するな。私を蚊帳の外にしてシリアスになるな」
「そんな言葉がーー信じられるものかっ‼」
剣聖はそう言い放つと天馬から無双闘神目掛けて飛び降りた。
「エンチャント・オブ・ライト!」
剣聖の持つ両刃の剣が光を纏い、彼女はその剣を着地を待たずに全体重を乗せ振り下ろす。
「愚かなーー!戦いに染まり言葉を交わす理性も失ったか‼」
オークでありながら人の知力を持って剣技を納めたケリーは、剣聖の一撃を鮮やかに捌き、そのまま二合、三合と激しく剣撃を交わしていく。
「化物と言葉を交わすための舌など、もとより持ち合わせていない‼」
「私を無視するなーー!!」
激しく剣を交わす二人の間に魔神王はあっさりと入り込み、その剣を制した。
『バカなーーこれが魔神王!なんという業前!』
魔神王の技量に驚嘆し、その動きを止めた剣聖に魔神王は小さな木箱を差し出した。
「語り合う気も主に会わせる気もないというなら、せめてこれをカーラーン王に渡してくれまいか。これこそが私に人間との和平を決断させた偉大なる書物。これを読めばカーラーン王も私と同じ想いとなることだろう」
「ーー偉大な書物だと?ふん、では中身を確認させてもらおう。我が主にお渡しするかどうかは、それからだ」
『ま、まさかあの箱の中身はーー!』
ケリーが恐れたとおり、剣聖が箱から取り出したのは『ロリィちゃんとリザどん』だった。
パラパラとページをめくる剣聖ーー。
「ーー⁉こ……これがお前の心を変えた書物?……これを……カーラーン王にお渡しするだけでよいのか?」
「ああ、お願いする。それを読めばきっとカーラーン王も私と共に和平を望まれるだろう。返事はこの場で待たせてもらうぞ、かまわぬな?」
「わかった……お渡ししよう。ただ、どうなっても知らんぞ?」
書物に目を通した剣聖は困惑し、心無しか魔神王を見るその目から敵意は薄れ、むしろどこか哀れんでいるようなものへと変わっていた。
しかし、結果的には恐らくそのおかげで事はうまく運んだのだろう。
誰しも、自分より下の者に対しては幾分寛大に振る舞えるものだ。
そんなことにも気づかず、天馬で王都へと飛び立つ剣聖を満足気に見送る魔神王に、ケリーはちょっとだけイラっとした。