オークと女騎士(その1)
「ほう。これがウォーレン砦か。渓谷を利用した見事な要塞だ。ふっーーこうして実物を見てみれば、お前が何年も落とせぬのも納得がいった」
「はーー。敵ながら見事なものです……」
魔神王は無双闘神に自身の意向を伝えるやいなや、早速和平を結ぶべく隣国の一つであり、伝説の書物『ロリィちゃんとリザどん』の発見された地でもあるカーラーンへと足を向けた。
しかし、長年争い続けた魔物が人間の王に謁見しようというのはやはり容易ではなく、二人は国境を守るウォーレン砦で要求を伝えることも出来ずに足止めをくらっていた。
「でーー彼らはいつこの無駄撃ちを納めてくれるのかな?」
足を止められはしているものの、砦から放たれる矢の雨を魔神王の創り出した障壁は容易く弾き続け、既に彼らの足元には万を超える矢が落ちていた。
「気の小さい人間共め。我が王が恐れを取り除くため兵も連れずに出向いてくださったというのに、要件も聞かずに撃ってくるとは……」
「この距離では声を張り上げようと届くまいな……話を聞いてもらえんことには、正に話にならぬ」
「我が王よ……申し上げにくいのですが、やはり人間との和平など無謀なのではありますまいか。手を取り合うには、我らも人間も血を流しすぎました」
「そう答えを急ぐな無双闘神よ、こちらが反撃してこないことにいずれは彼らも違和感を感じよう。でなくとも、彼らの矢が尽きるまで気長に待てばーー」
不意にピタリーーと、激しく降り注いでいた矢の雨が止んだ。
しかし、それは攻撃の手が止んだわけではなく、一矢ーー眩い光を纏った矢が魔神王の障壁を貫き、無双闘神の脳天目掛けて天より降ってきた。
「ケリー!」
「御心配には及びませぬ!」
ケリーは背の剣を瞬時に抜き、光矢を切って落とした。
「剣聖かーーまさか我が王の障壁を貫くとはな……」
ケリーが鋭い眼光を向けたその先ーー純白の鎧を身に纏い、天馬に跨った女騎士が天空に座していた。
「無双闘神……。たった二人でこのウォーレン砦に攻め入ろうとは、なんのつもりだ?」
その女騎士の姿を見て、魔神王のフードの奥の瞳が大きく見開かれた。
「けーー剣聖だと⁉君があの噂に聞いたカーラーンの女騎士‼無双闘神とも互角に渡り合ったというからゴリラの化身のような女だと思っていたが、まさかの美少女だと⁉なんだこの萌展開は⁉美しい金色の髪にスラリと伸びた四肢!僅かに幼さの残った端正な顔立ち‼何ということだ!素晴らしい‼私が知らぬうちに世界にはこんなに萌が溢れていたのか‼」
「なーーなんだこの気持ち悪い奴はーー⁉」
俺もそう思うーーと、うっかり剣聖の言葉に同意しかけて、ケリーはなんとか言葉を飲み込んだ。