魔王が萌えた日(その2)
「無双闘神よ……それを読んでみよ……」
「は⁉ははっーー!」
ケリーは魔神王が静かに見守る中、木箱から本を取り出し読み始める。
それは、口減らしで親に捨てられた人間の少女がリザードマンに拾われ、ほのぼのと日常を過ごしていくという内容の漫画だった。
「それはお前の部下からの献上品ーー人間の集落を落とした際の戦利品に紛れていたものだ……。どう思う?」
「ど、どうと言われますとーー?」
自分の部下がこのような下等な書物を魔神王の目に触れさせてしまったことを咎められているのだろうか?
しかし、我が王はそんな狭量な人物ではないはず……。
ケリーには魔神王の質問の意図が検討もつかない。
「素晴らしいと思わないか⁉」
「は⁉」
「可愛いだろう!ロリィちゃん‼癒やされるだろう⁉このもどかしい感情の高まり!これは萌というものらしい‼お前にはまだ分からぬか⁉ならばもう一冊読んでみよ!読み進めロリィちゃんに愛着が湧いてきてからが本番だ‼種族を超えた親子愛!同族と仲違いすることになろうともかまわず敵対種族のロリィちゃんを拾い育てようとするリザードマン!彼に自分の気持ちを伝えるためにシチューを作ってあげようとロリィちゃんが奮闘する話は神回だぞ‼」
「はーーはぁ……」
不敬ながらなにやら気持ち悪いと感じてしまう程の早口でよく聞き取れなかったが、どうやら魔神王は自分の気に入った書物の感想が訊きたかったようだ。
オークでありながら人間に育てられたケリーには確かに感じるものがあったが、なにやら魔神王の求めている応えと自身の感じたそれは大きくかけ離れているように思えた。
「こんな素晴らしい物を人間は生み出せるのだーー!その人間を私は今まで滅ぼそうとしてしまっていた……なんと愚かな‼無双闘神よ!私は人間と和平を結ぶと決めたぞ‼」
「えぇ〜っ‼⁉」
ケリーは不敬なから思った。
大丈夫かコイツーーと。