共闘(その1)
「見えたぞ!」
無双闘神の使い魔に先導され、セシリア率いる百騎の天馬部隊は遂に無双闘神の亜人軍との合流を果たした。
現状、亜人軍はリザードマンの騎兵部隊を先頭に敗走。騎兵部隊は走りながらも後方に向け矢を斉射し続け、屍兵による追撃を直接受けている足の遅いオーク達歩兵部隊を援護している。
「剣聖殿!」
先頭を走る隻眼のリザードマンが天馬部隊を見留め、声を張り上げた。
セシリアはそのリザードマンに見覚えがあった。彼は亜人軍の副将を務める猛者であり、その片目を潰したのは他ならぬセシリアであった。
「事情は将軍より聞いております!援軍かたじけない!そのまま上空から我等と共に援護射撃をお願いしたい!ただし、屍兵は並の弓矢では傷もつかぬ頑丈な兜を被っておりますゆえ、手足を狙ってくだされ!奴らは頭以外砕けようとも再生しますが、それで追撃の手を弱める事はできます!」
リザードマンの言葉に、剣聖は思わず眉をひそめた。
屍兵との戦闘経験の無いカーラーン兵に、その情報を伝えるのは当然の事ではあるのだが、今まで殺し合いをしてきた人間に向かって、それも自分の片目を奪った人間に向かって、よくも平気で言葉を交わそうと思えるものだ。しかも敬語で、さらには援軍の礼まで言うとは……。
「チッ!」
セシリアは自分でもよくわからない謎の苛立ちを覚え、思わず舌打ちをした。
「無双闘神はどこか⁉」
「将軍は自ら殿を務めておられます!」
「大将自ら殿だと⁉バカか、アイツは……」
セシリアの中で、更に苛立ちが大きくなる。本人には、まだその理由は分からない。
「第一、第二部隊は私に続け、屍兵の後ろに回り込み挟撃の形をとる!残りはこの場に留まり上空安全圏から援護射撃!リーデル副長に指揮は任せる。敵にも飛び道具はあるだろう、くれぐれも敵射程圏には入るなよ!」
「ハッ!」
「よし!行くぞ‼」
セシリアのその挟撃作戦は、亜人軍を少しでも多く屍兵の追撃から救い出そうとして発案したものではなかった。
結果的には追撃戦のはずが後から矢を打たれれば、屍兵は混乱し追撃の勢いは弱まるだろうが、それはセシリアの第一目的ではなかった。
彼女は単純に、魔物と肩を並べて闘うことを嫌ったのだ。
挟撃の形をとることで、共闘を避けたのだ。
セシリア率いる天馬部隊は更に上昇し、敵の後に回り込む。
その途中、地上から無双闘神が何かを叫んだようだったが、セシリアは気にも止めずそれを無視した。
独断行動ではあるが、挟撃に全部隊は使わず、リーデル達に亜人軍の望むように援護射撃はさせているし、そもそも魔物に天馬部隊の指揮に口を出されるいわれは無い。
セシリアは国に仕える騎士だ。命令には従う。
けれども、感情を抑えることはできても、無くすことはできなかった。
彼女は魔物の救援に向かいながらも、その心には魔物への憎しみが燻っていたーー