和平と四神将(その4)
四神将緊急招集の理由ーーそれは人間との和平を結んだという報告だった。
想像もしていなかった魔神王のその言葉に、デスレイブの纏う空気が変わった。
それは、殺気に近い、とても主を前にしているとは思えないものだった。
「事後報告になってしまったのは、すまないと思っている。しかし、先に言えばお前達は私がカーラーンへ向かうのを止めただろう?和平など絶対に不可能だと決めつけてな」
「……本当にそれだけですかな?我等四神将にお話くださらなかった理由は。
我等が可能か不可能か以前に、和平そのものに反対する可能性を、貴方様は少しもお考えになりませんでしたか?」
「屍魂導神!貴様、我等が王の指針に異を唱えるつもりか⁉」
主に対して攻撃的な気配を隠そうともしないデスレイブに、ケリーもまた怒りを隠そうとはせず声を荒げる。
「無双闘神、貴様は和平を受け入れるというのか……。魔神王様が我等が和平を拒む可能性を少しも考えなかったと思うか?
その可能性に思い至りながらも和平を強行されたということは、それはつまり、我等を切り捨てる覚悟を持ってことに挑まれたということだ。
和平が成立し、我等がそれを受け入れなければ、我等を滅すると、そう覚悟されているということだぞ!
……これは、裏切りだ」
「寝ぼけるなよ、屍魂導神。王に裏切りなど存在しない。王の決定に従えぬというなら、それはつまりお前が我等が王を裏切ったのだ」
「ならば、これは反逆だーー」
デスレイブは、遂に口にした。
辛うじて内に押し留めていた魔神王に対する敵意を、覚悟を持って吐き出した。
「貴様ーー!」
「まて、無双闘神!お前は急ぎラピス砦に向かい、部下達を連れてカーラーンへ向かえ!」
「ーー!?」
敵意を露わにしたデスレイブを前に、ケリーは背中の剣に手をかけたが、魔神王の言葉にその手を止めた。
ラピス砦とは、カーラーンの要所であるウォーレン砦を攻めるために建てられた陣城である。そこには現在、ケリー配下の亜人軍の全てが駐留している。
何故このタイミングでそのような指示を出すのか?
魔王城を捨て、屍魂導神達従わぬ者は放置して、従う者だけを連れてカーラーンへと渡ろうというのだろうか?
「急げ無双闘神!屍魂導神が屍兵をラピス砦に向けて動かした!事情を知らぬお前の部下が蹂躙されるぞ!」
戸惑い動きを止めてしまっていたケリーは、魔神王のその言葉を聞いて即座に駆け出した。
反逆を宣言したデスレイブを前に、主君を一人にしてしまうのは後ろ髪を引かれる思いではあったが、部下達を見捨てることはできなかった。
ケリーが玉座の間を出るためにはデスレイブのすぐ横を抜けなければならなかったが、デスレイブはそれを妨害しようとはせずあっさりと見送った。
「カカカ、流石は魔神王様。魔力の流れは隠したつもりでしたが、感知されてしまいましたか。遠方召喚は魔力の消耗が激しいというのに、やり損だったのう。
無双闘神の部下は、奴の命令にはなんであれ首を縦にふることしか知らぬ愚か者ばかり。可哀想だが、生かしてはおけぬ」
「考え直せ、屍魂導神。今ならばまだ許そう」
「許しなど必要ありませぬ。ワシには和平など……下等な人間と対等になるなど、考えられぬ。たとえ、貴方様に逆らうことになろうとも」
「待つのだ。せめて時を置け、答えを急ぐな。四元法神と天獄界神も、今はまだ答をださずに悩んでいる」
「たとえどれほどの時が経とうとも、ワシの答は変わらぬ。魔神王様!選ぶのは貴方の方だ!貴方に従い共に闘ってきた我等魔族か、今まで多くの同胞を屠ってきた下等な人間か!今一度問おう‼貴方はどちらをとる⁉」
一瞬の静寂。
その後に、魔神王は重く、静かに、言葉を返した。
「すでに和平は成った。私はカーラーン王を裏切る事はできん」
「ならばワシに迷いは無い!覚悟せよ!魔神王‼」
デスレイブは咆哮と共に、その背に無数の魔法陣を生み出した。
それは覚悟の咆哮。
デスレイブは忠誠を誓った主との決別をーー命の奪い合いをすることを、覚悟した。