和平と四神将(その1)
四神将が一人、屍魂導神デスレイブ。
彼は生物の屍を素材とした、様々な魔法効果を備えた魔導具の製造を得意としている。
そんな彼が生み出した魔導具の一つに『同命珠』というものがある。
これは、複数ある同命珠の内一つを砕けば、連動する同色の同命珠も砕けるという効果を持った魔導具である。
主に遠方に居る味方に合図を送るために使われる。
不意にデスレイブの持つその同命珠の一つ、紫色の同命珠が砕け散った。
紫の同命珠は魔神王のみが砕く事を許される、四神将緊急招集の合図である。
「なんと。これはこれは驚いた。紫が砕けたのなぞ何年ぶりのことか」
驚いたと口にはしていても、その表情は全く読み取れないーー白骨の体にまるで霞の様に揺らめく黒のローブを纏った、死神を連想させる風貌の魔物、屍魂導神デスレイブ。
魔族の支配地と人間の国の一つイルリムとの境で、彼は血のように赤いワインを片手に、自身の造り出した屍兵とイルリム兵とが激しく争う様を眺め酒の肴にしていた。
「カカカッ、遊びはここまでよ。急用ができた故な……」
デスレイブはワインを一気に飲み干すと、グラスを人間の骨で作られたテーブルに置き、同じく人間の骨で作られた椅子からゆっくりと立ち上がった。
「良い屍ができるのをここで待ちたかったのだがのう……。しかし、魔神王様の呼びかけに応えぬわけにはいかぬ。残念だが、この小競り合いはここいらで幕引きよ」
デスレイブの背後に巨大な魔法陣が浮かび上がり、そこから皮も肉も失い、骨だけとなった七匹の竜が顔を出し、その口から一斉に、次々に火球が吐き出され、デスレイブの目の前は瞬く間に火の海となった。
万を超えるイルリムの兵士達は皆、デスレイブの屍兵ごとその炎に包まれ、逃げ惑い、やがて物言わぬ屍へとその姿を変えていく。
「カカカ。戦力は拮抗していると錯覚したか?この地を我等魔族から取り戻せると期待したか?ただワシは良い素材を得るために品定めしていただけのこと。
我は屍魂導神デスレイブーー死を操り生を支配する者なり!ワシがその気になればこの通りよ」
パチン、と、デスレイブが白骨の指で音を鳴らすと、骨でできた天幕やテーブルと椅子は、ずぶずぶと地面に沈んで姿を消し、それとは入れ替わりで白骨化した大きな馬が地面から這い出した。
「さて、果たして此度の招集はワシの心を踊らせてくれるものかのう」
骨の体を持つ愛馬に跨り、デスレイブは屍兵とイルリム兵の亡骸を一瞥もせずに、魔王城へと馬を走らせた。