カーラーンと和平案(その2)
「無双闘神!貴様、なんだその本は⁉」
「それは私のセリフだ!カーラーン王!この本は何です⁉我らオークを侮辱するか⁉」
「はきゃあああ⁉」
カーラーン王は奇声をあげながら顔を真っ赤にして、慌ててケリーの手から『オークの女騎士調教日誌』を奪い取った。
「ちーー違うんです!これは違うんです〜‼う〜やっぱり捨てるべきだった〜‼封印してたのに何で出しちゃったの私のバカ〜‼」
どうやら彼女は他の自作漫画と一緒に、出すつもりのなかった己の黒歴史をうっかり披露してしまったようだ。
「王様、その女騎士私に似てませんか?似てますよね?気のせいですか⁉」
「カーラーン王!貴方はオークは皆こんな不埒で野蛮な生き物だと誤解しておられませんか⁉」
「「何故こんなものを描いたのです‼」」
涙目になっているカーラーン王をケリーとセシリアは容赦なく問い詰める。長年殺し合いを続けてきた仲ではあるが、今は息ぴったりである。
「あ……あの……私、実はコミマに漫画を出品し始めた頃は全然誰にも買ってもらえなくて……。頑張って描いてるのに誰にも読んでもらえないのが悲しくって。そんな時、コミマではえっちで刺激的なもの程よく売れると聞きまして……。出来心だったんです〜‼私の描いた本を手にとってもらえる切っ掛けになればと魔が差したんです〜‼」
王の威厳を欠片も無くし、おずおずと、泣きながら懺悔するカーラーン王。
「まぁまぁ、二人共そう責めるでない。ただ楽しむために生み出したものに無理矢理悪意を見いだそうとするな。どのような性癖を持っていようと他人がとやかく言う事ではないし、お前達とて表には出していない秘めた欲望の一つや二つはあるだろう?ところでカーラーン王はMなのですか?悔しい!けど感じちゃう!とかそういうのが好きなのですか?もしもーーもしもなのですが、よろしければ私がお相手致しましょうか⁉私がそのオークの役目を致しましょうか⁉この魔神王、きっと貴女を満足させてみせましょう‼どうですか?どうなのですか⁉」
魔神王は息を荒げながら、もの凄い早口でカーラーン王に迫る。
「おい、魔神王。それ以上王様に汚らわしい言葉をかけてみろ。その首たたっ斬るぞ」
「剣聖の言うとおりです。これ以上我々魔族の品位を落とさないで頂きたい。ぶん殴りますよ?私と剣聖の二人がかりならば敵わぬまでも一発ぐらいは殴れますよ?」
カーラーン王を庇う体でセクハラ全開の魔神王を、これまた息ぴったりに無双闘神と剣聖が嗜めた。
「おいおい、ユーモアだ、ユーモア。私が身を削って場を和ませようとしたのが分からんか」
白々しくそう言う魔神王を、二人は白い目でじとりと睨む。
「冗談……だったのですか?」
「冗談じゃなくても大丈夫なのですか!!??」
目を潤ませながら問いかけるカーラーン王に、ひょっとしたらイケるのかと可能性を感じ魔神王は体裁を一瞬で捨て即座に食いついた。
「貴様……」
剣聖がいざ殴りかかろうと思い切った直後、部屋の扉が開かれているのに気付いた。
「あ……あのーー」
そこには大臣が困惑した表情で立っていた。どうやらこの騒ぎで気づかなかったが、少し前からそこにいたらしい。
「失礼……。ノックをしても返事がなかったもので……。王様、我らの話し合いは終わりましたので、お迎えに上がりました」
「答えは出ましたか。ならば聞かせてください。皆の返答を」
カーラーン王はまるで今までの馬鹿騒ぎが嘘のように、キリッとした表情で姿勢を正した。
ーーが、当然その姿に威厳を感じた者は、残念ながらこの部屋にはただの一人もいなかった。