モデル
長身で首まで伸びた髪に鋭い目に、黒縁の丸メガネ。奇抜な服装をした男が私の前の座席に座る。
「どうも。遅れました。この子ですね?」
見た目に反して、礼儀正しそうだが、どこか変わり者の雰囲気が拭えていない印象だった。とりあえず2人の話を黙って聞こうと思い、聞き耳を立てた。
「そうそう。あんたが言ってた通りじゃない?可憐で儚そうな究極の美。」
ろくろ首のすみれが自慢げに紹介する。きっと、これだ!という反応を待っていたようだが、男の反応は少し違った。
「うーん、確かに美しい。今すぐにでも抱きたい。でも何か黒いのが見えるな。何だろ。擦れてるとでも言うのか。」
首をかしげながらぶつぶつと言ってる男の言葉に私は驚いた。初対面でここまで私の事を分析した人間は初めてだ。
「はぁ?お前、わがまま言い過ぎなんだよ!こんな美人なかなか連れてこれないぞ!」
すみれが怒鳴り散らす。
「あー、いやごめんなさい。絵にしたいのはもっと純粋な雰囲気を持ってそうな子が良かったんですよね。」
この言葉でだんだん話が見えてきた。そろそろ質問をしてみようと私はここで初めて口を開いた。
「あの〜、、」
と緩やかに会話に入ろうとしたが、男が遮る。
「あ、ごめん。自己紹介がまだだったね。僕は田中響也。画家を目指して、絵を描いてる。まあ何となく分かってるだろうけど、この人に絵の題材となる純粋で可憐で儚そうな女の子を連れてきてくれって頼んだんだ。呼んできてくれたら、報酬を払うって言ってね。」
なるほど。人間の世界で生活してるすみれさんにとっては紹介だけでお金がもらえるのは美味しい話かもしれない。期待にそぐわなかったようだが、、
「もういいでしょ。これで3人目よ。これ以上、美人を紹介してくれってのは無理ね。大体、それあんたの中のピュアであって、他の人は違うかもしれないからね?」
男が少し考えてから口を開いた。
「それもそうですね。うーん、まあ確かにこの人は今まで見た事ないくらい美人だ。前の2人はそうでもなかったけど。よし、分かった。この子を描いてみますよ。はい、報酬の3万です。」
「よっしゃあ!!ありがとぅうう〜。」
何やら私を蚊帳の外のままで話が成立しているようだが、もともとすみれさんを助けるためだったし、まあ絵のモデルくらいならいいか。そう考えていた時、男が話しかけてきた。
「勝手に話を進めて、ごめんね。モデルやってくれる?もちろんお金は払うよ。あ、それと名前とか聞いてなかったね。」
「いや、お金はいいです。すみれさんを助けになれたのならそれで。名前は小宮蘭です。それより、すみれさんとはどういった関係なんですか?」
ここでようやく私が気になっていた事を聞けた。
「小宮蘭さんね。よろしく。すみれさんと僕は同じ会社で働いてて、僕の上司だったんだ。すみれさんにはよくしてもらってたんだ。まあ、僕は会社に属するのが合わなくて、2年前に辞めちゃったけど。その後も仲良くさせてもらってるんだ。」
「こいつ、めちゃくちゃ使えなくてな!ほんとにどうしようもないやつだったんだよ!」
「はは、まあ確かにひどかったですけどね。すみれさんいなかったら、やばかったよ。」
さすが、すみれさん。予想通り、人間の世界でも上手くやってるようだ。この人の人徳というものは妖も人間も関係ないようだ。
「なるほど、そうなんですか。それで会社をやめて、画家に?」
「えぇ。もともと絵が好きで、ずっと描いてたんですけど、会社辞めてすぐの時に行った美術館で名前とか作者名とかは全部忘れちゃったんですけど、1枚の絵に凄く感動というか心を動かされたというか、、とにかく物凄い衝撃を受けたんです。それで自分もそんなのが描きたいと思って、始めたんですけど、なかなか上手くいかないもんです」
男は笑いながら、話していた。恐らく、人間の世界の構図が変わっていなければ、ここは笑える状態ではないはず。なのにこの男は笑ってる。それも苦笑いとかではなく、この現状を楽しんでる。やっぱり変な男だ。
その時、人間に興味を持っている自分に驚いた。この500年の間に、色んな人間を見てきたが、ここまで興味を惹かれたのは初めてだ。気付くと3人で和気あいあいと会話していた。それも物凄く楽しかった。
そうこうしている内に、別れの時間が訪れた。
「いや〜、今日は楽しかった。また3人で集まろうよ!」
「そうですね、すみれさん。あ、そうだ。蘭さん。携帯持ってる?」
ここに来る前にすみれさんに渡されたあの小さくて四角い物か。
「あ、これですか?私、使い方分からないですけど、、」
「今時、珍しいね。まあでも、すみれさんが教えてくれると思うよ。とりあえず君の番号を登録しておきたいんだ。ちょっと携帯貸してくれる?」
不思議そうな顔で私の携帯を見ながら、自分の携帯と私の携帯を交互に見ながら、何やらポチポチと画面を叩いた後に、私に返した。
「これでOK。モデルを頼みたい時に電話するよ。僕もバイトとかあるから、決まった時に連絡したいし。」
「私はいつでも、大丈夫です。なので、適当な時に電話、、をしてきて下さい。」
「わかった。じゃあ今日はありがとう。すみれさんもありがとう。それじゃね。」
響也はそう言って、走り去って行った。
「おう!またな!」
すみれさんがそう言った後、私に顔を近づけてきた。
「今日はありがとね。最近、出費が多くて困ってたんだ。また人間の世界の何か奢るよ!」
「いいですよ。すみれさんには良くしてもらってるし。それより、モデル大丈夫かな?」
私が少し不安そうにしてると、すみれさんが私の肩を叩きながら、こう言った。
「大丈夫だよ。あんたが今まで会ってきた男とは、違うのが今日でわかっただろ?あいつは変だけど、他とは違う凄いやつだからな。ひょっとして好きなったりした?」
「ないですよ、、」
一瞬、ドキッとしたが、私が人間を好きになるわけがない。すみれさんにキッパリと否定して、そのまま、妖の世界へと一緒に帰った。
そしてその数日後、彼から電話がかかってきた。




