すみれ
人と人との恋。いくつもの奇跡が折り重なって起きる出来事。彼女が生きていた頃、彼女は有名な遊女として名を馳せていた。男達を次々と虜にし、そして骨の髄まで彼女に染めてから捨てる。そうやって金を稼いで、遊郭から出るための算段立てていた。
ある日、大金持ちの若い男が現れた。その男は商業で成功し、大金を掴んだ。しかし、それと同時に周囲との関係を失っていた。寂しさを紛らわす程度に来たらしい。彼女は自分に靡かない男に惹かれ、男も優しくしてくれている彼女に惹かれていった。男は救いの気持ちで彼女を遊郭から出そうと金を工面してきた。
しかし、それを良しとしないお偉いさんが邪魔をする。何かと難癖をつけ、仲間との関係も引き裂いた。ボロボロの彼女を男は救い出すため、自分の身も顧みず、彼女を遊郭から出した。
彼女は彼を探した。
しかし、彼の姿はどこにもない。彼の店もない。遊郭へ戻ると、彼は殺されていた。自分の命と引き換えに彼女を自由にしたのであった。
悲しみに打ちひしがれたのも束の間、遊郭のお偉いさんは彼女を引き戻すため、執拗に追った。そして、遂に彼女は無理がたたり、病魔に犯される。そして、人知れず息を引き取り、神主からすみれ色の美しい着物が彼女を引き立て、より一層麗しく魅せていた事から、すみれと名付けられ、埋葬された。
すみれはその後、人々を恨み、妖となって、かつての遊郭や人の里で暴れ回ったが、神主に男の魂を呼び出され、鎮められる。そして、償いとして、妖の村をつくり、行き場を失った魂や妖をあの世へ行けるようにする役割を閻魔大王からもらったのであった。
今もすみれは楽しく過ごしている。蘭という自分とよく似た後輩と一緒に笑顔を絶やさず暮らしている。その幸せが今、崩れようとしていると思うと、少し悲しくなった。そして、それが蘭の望む形では無いという事がより一層、悲しみを引き立たせているのであった。