死
「ごめん。」
帰ってくるなり、突然謝るすみれさん。
死神と接触していた事を、隠していた事、幸せを掴みそうな私を助けられなかった事を謝罪したかったそうだ。
「気にしないで下さいよ。まだ答えは出てないですし、そもそも響也さんとは付き合ってる訳でもない。彼に思いを告げるのが先だと思っています。それから色々決めたいなって。」
すみれさんの目は真っ赤になっていた。こんな悲しい顔をしているのは初めてだ。
「何で蘭ばっかりがこんな目に、、、」
この言葉を聞いて思ったのは、私の人生は人から見れば、不幸の連続かもしれない。両親に捨てられ、売られ、人魚を食べて呪われる。それから好きになった男性は呪いのせいで自殺したり、遠くから眺める事しか出来なかった。好きでもない言い寄ってくる男と結ばれたが虚しくなり、妖の世界へやってきた。そして、ようやく好きだと思われる男性と出会ったと思えば、思いを告げる前に死神が現れた。自分でも笑ってしまうほどの悲劇のヒロインだ。でも、なんだかんだですみれさんや響也さんとも出会え、楽しい日々を過ごしてこれた。感謝はしきれないほどに。
そして、それをすみれさんに伝えた時、すみれさんは初めて涙を流した。今まで強気で笑顔を絶やさなかったすみれさんが泣いている。自分をここまで思ってくれる人がここにいたという事を改めて実感し、泣きそうになったが、何となく涙はまだ流さないでおこうと思い、堪えた。
これから私がやらなければならない事は、まず響也に自分の思いを伝える事だ。何故かこの時、私は響也さんと共に生きたいという思いが消えた。何か心のつかえのようなものが取れ、すみれさんや響也さんを思って死にたいと思ったのだ。
「私は死ななければならない。響也さんにとっては後味悪いかもしれないけど、後悔はしたくないし、すみれさんのためにもそうしなきゃならない気がしてます。」
「そうか、、、。蘭がそう決めたのなら、仕方ない。お前に死ぬ事や一生生き続ける事を強要する資格は私には無い。でも、ひどいもんだな。世界というものはどうして、善人が消えていくんだろう。」
「さあ。何ででしょうね。すみれさんも誰か大切な人を失ったんですか?」
今まで聞いたことがなかったすみれさんの生前の記憶。なぜか聞いてはいけない気がして、聞かなかったがこの時初めてそれを聞いた。
「うん。私も大事な人を失った。生きてた頃も死んだ後もね。」
すみれさんがゆっくりと口を開いていく。私はそれをゆっくりと耳をたてた。