選択
幸せな気持ちと共に私は彼とどう向き合っていくか考えていた。死ねない私の秘密をバラしてしまうか。それとも、秘密のまま旅立つ彼を見届けるか。いろんな事が頭に浮かび、好きと言えない自分に情けなさも感じる。
そんな葛藤をよそに転機はなんの前触れもなく現れる。そして、部屋の中で突然声がした。
「小宮蘭。人魚の呪いに戒められし、人の子よ。」
驚いて顔を上げるとそこには黒い死装束に長髪で青白い顔をした男が立っていた。
「だ、誰、、、?」
「私は死神。お前の呪いを解きにきた。500年の現世での務めはこれで終わりだ。あの世へ連れて行ってやろう。」
私は突然の事で頭がパニックになった。私は死ぬ?今、死ねるのか?それともただのいたずらなのか?いろんな考えが頭を駆け巡る。
「え、え?な、何?どういうこと、、、?」
「ふむ。少し唐突すぎたか。やはり、すみれに伝えてもらうべきだったか。まあいい。つまりはこういう事だ。お前は死ぬ事ができる。」
私はまだこの状況を理解出来ていなかった。でも私はようやく死ねる。でもなぜ今なのか?さらに様々な疑問や考えが頭を駆け巡った。
「ふむ。まだ理解出来ていないようだな。致し方あるまい。少し落ち着いたら、話そう。」
しばらくして、落ち着いた私に死神はことの経緯を聞かせてくれた。
人魚の肉を喰らい、不老不死になってから、500年。地獄の神が、遂に私に死ぬ事を許した。死神曰く、500年というのは地獄の中では大きな節目らしい。そして、呪いを解くために冥界から、死神を使いとして送り、すみれさんに接触。少し待てと言われたが、あまり遅れるとまた500年待たなければならないため、あんな唐突な宣告となったという。
「つまり、今から私は死ぬ事ができるの?」
「ああ、そうだ。怖がる必要はない。眠りに落ちるように送り届けてやる。ただ、今すぐにとは言わない。別れを惜しみたい者もいるだろう。あの人間の男にもな。」
一瞬、このまま無かったことにして、あの世へ行き、思い出として心の奥にしまおうと思った。しかし、そう考えた瞬間、ひどく心がいたんだ。私も人並みに恋して、子供を作って、暖かい家庭の中で死にたかった。ようやく、素敵な人間と出会えたというのに、また私は大きな選択を迫られる。その瞬間、少し怒りみたいなものを感じた。
「不機嫌そうだな。死ぬ事をやめるか?」
でもこのチャンスは恐らく1回。それかまた500年間待たなければならない。死神の言葉を聞いて、怒りは焦りへと変わる。
「まだ、待ってもらえるんですよね。」
「ああ、ただ長くはない。すぐに決断しろ。次にお前の前に現れた時がその時だ。」
「わかりました。」
このあと。死神は私の元から消えた。私は死ぬか。それとも彼と共に暮らし、永遠にこの世を見続けるか。残り少ない時間で迫られる選択とその時間で何をするかを考え始めた。