愛と罰
約束の時間より早く来てしまった。
小さい子と母親達が仲睦まじく、遊んでいる公園。皆、いい表情をしている。彼の絵にぴったりな顔だ。
少ししてから、彼が来た。
「すみません。お待たせしました。」
「いえ、大丈夫ですよ。時間よりも早いです。」
軽い雑談を交えながら、公園を隅まで見渡せるベンチに腰をかけ、彼が絵を描く準備をする。
思えば、彼が絵を描く姿をこんなに間近で、しかも、描いている過程を見られるのは初めてだった。
「いい絵が描けそうです。皆、いい笑顔だ。」
「そうですね。子供たちが特に可愛らしい。」
「子供好きなんですか?」
「はい、好きですよ。いつか自分の子供が欲しいものですね。」
昔からの夢だった。自分の子供を持つ事が、でもこの呪いのおかげでそれは叶わぬものとなった。どれだけ頑張っても自分は子供が出来ない体になってしまったのだ。この事を散々、嘆いた時期もあったが、今となっては受け入れている。
「きっと可愛いお子さんを授かれますよ。蘭さんならね。」
彼は笑顔で私にそう言った。嘘のない笑顔だった。私はまた彼の魅力にハマりそうだ。
そうやって談笑しながら、彼は絵を描き始める。公園の風景から描き、子供たちの1番いい表情を捉え、それを紙に映し出す。母親の和やかの表情も一緒に。
2時間くらいたった頃、絵が1枚完成し、私はそれに見惚れてしまっていた。他にも公園で遊ぶ男の絵やおままごとをする女の子の絵を描き、全てに愛が溢れているような絵だった。
「やっぱり、凄いですね。響也さんは私、感動しました。」
「そう言って貰えると嬉しいです。」
「感動しすぎて、泣いてしまった時は少し恥ずかしかったですけどね。」
「あはは。僕も最初は驚きましたよ。自分の絵でこんなに泣いてくれるのかって。でもとても嬉しかったんですよ。初めて認めて貰ったような気がしてね。僕、ずっとそういう承認欲求みたいものがあって、誰かに必要とされたいというのがあるんです。それが叶った気がして。それから、蘭さんは僕の中では特別な存在ですよ。」
驚きのあまり、口を開けていただろう。同じ事を考えていてくれた事に。
「でも、すみれさんは?」
「すみれさんは持ちつ持たれつみたいな関係なんです。会社でもそうでした。上手く言えないですけど、蘭さんは少し違ったような感覚なんですよ。」
照れくさそうに言った彼に私は笑顔を向けた。
「その笑顔残しておきたいくらい、いい笑顔ですよ。」
「からかいは通じませんよ。」
こんな冗談を言いあいながら、1日を共にした。
彼と確実に距離を縮める事ができた。
でもその幸せは長く続かない。
呪いを解くため、私の元に死神やってきたのだった。