異世界でゴスロリ龍とドタバタ商売旅日記(テスト版)
拙作「異世界でも商売!商売!」の2話途中あたりから別展開するテスト作品です。長編用のプロットを無理矢理短編仕立てにしてますので、読みにくい点もあるかと思いますがご容赦願います。
「馬車なんて、ほとんど見たことすら無かったんだったんだけどなぁ」
ゴトゴトギシギシガッコンガッゴン、揺れる馬車にゆられながら
森の中を通る石畳で整備された街道をのんびり進む。
元の世界で慌ただしい毎日を送っていたのに比べると、ここは時間がゆっくり進むような気がする。
まぁ時計も持って無いし、あったところで元の世界の時間とどれくらい違うのかもよくわからないが。
現代日本に生きていた筈の俺は今、幌付馬車に商品を詰め込んで旅をしている。
しかも、異なる世界を人ではない存在の少女とともに――
――なんでこんな事になっているかと言うと
「銃で撃たれて死んだ!と思ったら若い体(別人)に生き返った上に『ここは異世界』だと言われました」
短くまとめるとそういう事なのだが、あまりにも端折りすぎか。
大型総合スーパーの部門長だった俺こと「菊池 原」(年齢50歳)は
深夜の職場でATM強盗に出くわし愛車の軽自動車で逃げたものの、
モンスターカーに追われて追いつかれて殺されてしまったのだが、
気がついたら異世界の若い旅商人「ダニール・アルテミエフ」の体に入り込んでいた……
うん、こんな事他人に話したら正気を疑われそうだな。
「おぬしがどう思おうと、これが現実なのじゃ。ま、あきらめたほうが良いぞ」
……この世界に俺が来ることになった元凶がこいつだ。
「リーディヤ」という名前のドラゴンだが、俺はいつも「リーナ」と呼んでいる。
現在俺の記憶から得たイメージを元に、いわゆるゴスロリを着た
10歳くらいの北欧系少女に姿を変えている。
ちょっとおデコが大きいのが特徴か?
「しかしまぁ、まさか死んだ若者を蘇生魔法で生き返らせたら、間違えておっさんの魂が入ってしまうとはのう」
「俺だって、死んだと思ったらこんな若者になるとは思わなかったぞ」
なんでも蘇生の時に魂を取り違えたのが原因らしい。
病院で新生児の取り違えというのは聞いたことあるけど、魂を間違えるって一体。
しかも異世界ですし。
ドラゴンもいれば、魔法もある世界。
そして俺にも髪の毛が豊富にあり、腹の脂肪はほぼ無い世界。
すばらしい。シックスパック万歳。
「まぁよい。例の反応はまだ先じゃ。暗くなる前には次の街に到着しておきたいのう」
「『例の魔法使い』の可能性がある人だな。今度こそ当たりだと良いけどね」
このドラゴンの「リーナ」は、人の世界を調査しに来た。
最近この大陸で2つの国が争った時、異様なほどの威力をもつ魔法が使われ、
それが何なのか?ドラゴン達にも影響があるのか?を確認するためにリーナは派遣されたらしい。
その調査を俺は商売で生活費を稼ぎながら手伝っている。
当面の目標は、その魔法を使った「魔法使い」を特定すること。
「すまんの。わらわの調査のせいで面倒をかけるのぉ」
「別にいいぞ。リーナの魔法のおかげで俺もずいぶん助かってるし」
「この姿で下界に一人なのは色々と差し障りがあるのじゃからこちらも助かっておるわ」
「しかし、本当に人間の大人の姿には変更出来ないのか?」
「大砂漠と違うて下界は魔素が薄くてのぉ。体を大きくすると負担も大きくなるのじゃ」
ドラゴンの体は魔法の元である魔素で出来ているのだが、
下界は魔素が薄いため、消費を少なくするために大きなドラゴンの体を小型化して適応している。
それはわかるのだが、どうせ女性に変身するなら、こう、ねぇ。
もっとボン・キュ・ボンのセクシー体型の方が良かったよなぁ。
日は昇り朝が来て、また落ちて夕暮れとなるのは異なる世界のここでも同じこと。
いくつかの街を見てきたが、人の営みはそう元の世界と大きく変わらない気がしている。
眠くなるから眠るし、出来れば仕事したくないけど奥さん怖いからやむを得ず働くし、
「……そして腹も減れば喉も渇く。と」
「まだ時間には余裕あるから休憩するかのぉ」
正直、乗り心地が良いとは言えないので、
運転にはほとんど気を遣わなくていい馬車でも疲れる。
でも街道に馬車止めると、なんだか「駐禁」切られそうで微妙に落ち着かないんだよなぁ。
休憩できそうな場所があれば止めようと思ったら、森から人が出てきた。
「おおーぃ!止まってくれぇ!」
出てきた人は右手をぐっと上げて親指を突き出してる。
元の世界では古典的なヒッチハイクの合図だが、ここでも同じ意味なのか?
よく見ると、ヒッチハイカーは上下ツナギの作業服?みたいな格好をした案外若い女性だ。
しかも、
(ツナギ着ててもわかる胸のデカさって一体!!!!)
厚ぼったい体のラインを消し去るツナギの作業服なのに、それでも主張する巨乳。
これはものすごいですよ!?
もちろん問答無用で馬車を止める。
「お嬢さん、どうなさいました?」
「いやぁ、薬草探してたら思ったより奥に入り込んじまっててよぉ、往生したぜぇ」
「それは大変でしたね。よかったらお送りいたしましょうか?」
「おお、そいつは助かるぜぇ。街まで頼めるかい?」
「もちろんですとも。狭いですがどうぞ中に」
いったん降りて巨乳ヒッチハイカーの手を取り、馬車に乗せた。
やれやれ、とリーナが肩をすくめる。
「おぬしはこーゆーのが大好きなのか。いくつになろうと人間の男はどうしようもないと聞くが本当じゃのう」
*****
「ほぉ、ララガさんは薬草学の先生ですか」
「そんな偉いもんじゃねぇさ。ただ同業相手に図鑑作ったり薬草の展覧会やったりしてるだけだぜぇ」
馬車を街に走らせながら、ララガと名乗るツナギ巨乳さんと楽しくお話しする。
いくら年をとっても、若くてきれいな女性と話すのは実にいい。素晴らしい。
しかも胸が大きいとなればなおさらだ。
ちなみにこの世界の薬草学というのは漢方のようなもの。
「教会が処方するヤツは安心だけどよ、ありゃ軽い症状向けでしかねぇ。でも強い薬草は慎重に扱わなきゃなんねぇんで、薬草学のみんなで教え合って知恵を出してるわけさぁ」
なるほど。情報を共有して全体のレベルアップを図るわけか。
顔も広そうだし、何気なく聞いてみる。
「ところで私たちは旅をしながら商売しているのですが、何か良い商材はありませんかね?」
「商売のネタだね。それなら是非ウチに来てくれよ。色々あるぜぇ!」
いくら薬草学の先生でも、一般人の家にある程度のモノじゃなぁ、
とも思うが、まぁ送りついでだし寄ってみようか。
「ええっと、この先でよろしいですか?」
「おう、もうすぐだからよぉ」
街道から街に入り、ララガの道案内で自宅まで向かうが
賑やかな通りを過ぎ、閑散とした街外れまで来てしまった。
というか、畑も多くてほとんど田舎の風景だ。
「このへんは何もねぇだろぉ?おかげで静かでいいんだぜぇ」
ようやくララガの家に到着。
「おう、今帰えったぜ」
ララガがドアを開けるとクールな感じの美少女メイドが出迎える。
「お帰りなさいませ。御主人様。で、こんな遅くなったのは何やらいかがわしい事でもしてきたのか」
「アデルぅ、そんな事いわないでくれよぉ」
むぎゅ、と音が聞こえてきそうなほど、ララガがメイドのアデルを抱きしめる。
ちょうど胸に顔が当たってるようで、正直うらやましい。
「で、そちらの今ひとつピリッとしない感じの男と……その女は誰?」
「今ひとつで悪かったな!」
「くっくっく、中々面白い女じゃのうぉ。わらわはそのピリッとしない男の妻のようなものじゃ」」
「違げぇよ!」
「なんじゃ、おぬしはそんなにピリッとしておるとは思えんが?」
「そっちじゃねぇ!誰がおまえの夫だ!」
「なんだ、ただのロリコン野郎だったか。いたいけな少女を夜な夜なもてあそぶとは極悪非道」
なんだかこの子、キツイなぁ。
うちのリーナもまぁ美少女と言っても良いが、タイプが違いそうだ。
「アデルよぉ。この人達は迷ったおいらを送ってくれたんだぜぇ。とりあえず色々商談したいからメシ用意してくんねぇかなぁ?」
ボリボリ頬をかきながらララガが懇願する。
どうやらこの家の力関係はうちと似たようなモノかもしれない……
*****
「これは美味い!」
「ほぉ、中々じゃのう」
アデルがサーブしてくれた鳥の香草焼きを頂いたら本気で旨かった。
まず肉の味が濃いうえに、ニンニクのような香りが効いててアクセントに。
そして何より火の通し方が絶妙!皮目はパリッとしてパサつきやすい胸肉の部分もしっとり仕上がってる。
「山奥鳥を近所の爺が持ってきてくれた。先日の薬の礼」
「あの爺さん、狩りに出れるようになりやがったんか。しぶてぇなぁ」
「疲れやすくて目も悪くなって、口が渇くからチー・バク・チーの処方だったがよく効いた」
「ま、ジジイにはあれ飲ませとけばだいたいOKなんだけどよ。それでも知り合いが元気なのはいい事だわな」
食後に出されたハーブ茶(疲れをじんわり和らげる効果があるらしい)を飲みながら
ぼちぼち商談に入る。
「ところで、ロリコン商人は何を買いに来たのか?はっ……!まさか美少女の私を高値でお買い取り?!」
「すまねえが売れねぇよ。アデルがいなくなったらおいらのメシはどうなるんでぇ」
「いや、さすがにヒトは売り買いしないから!」
この世界に奴隷はいない。
基本豊かなのだ。普通の農家ですらけっこう余裕がある。。
まだ大陸の開拓が続いており、それに伴って経済も拡大を続けている――と俺は分析しているが、どうもそれだけでは無い気もする。
「とはいえ薬は売れねぇ。こいつぁ、教会のありきたりな薬とは訳が違うんでな」
「さすがにそれは俺も扱う気ありませんよ」
現代でも薬の販売に資格が必要なのは伊達ではない。
「となるってえと、さて。あんた今何を扱ってるんでぇ?」
「ああ、今はこういうのを少々」
馬車から仕事鞄を持ってくる。
(馬はアデルが世話してくれてた。助かる)
「知っての通りあんまり大きな馬車じゃないものでしてね。小型で単価が高く、どこでも売りやすいという理由でこれにしたんですが」
自作した商品見本の冊子をララガに渡す。
よく工務店さんが持ってくる壁紙のサンプルのようなヤツだ。
違うのは壁紙じゃ無くて
「ほぉ!ボタンかい。こういう風に見せるとは工夫したなぁ!」
「こうするとわかりやすいかと」
「種類でページ分けて価格順に並べて、さらにひとつひとつ説明文つけるってえのはあんたが考えたのかい?」
原案は元の世界のをパクっただけだし、説明文は実際にボタンを作る職人さんや内職の人に全部書いてもらった。
作る本人のほうが説得力が出るというのは表向きで、俺が面倒なだけだったりする。
なお、この世界ではほとんどの人が文字を書けるし計算も出来る。
小学校よりはゆるそうだけど、義務教育がしっかり機能している証だ。
「元は別の人が考えたものを応用してますがね」
「商売に限らねぇけどよ。こんな工夫出来るってぇのはおめぇ、大したヤツだなぁ」
「ただ、これだけだと問題が」
「販路が限られるってことか。仕立屋相手だけなら高級品といっても売れる量が足りねぇ」
驚いた。ノータイムでこっちの問題点を確実についてきた。
流れの旅商人だから、個人相手の商売は難しい。
そこでたいていの街には何軒かある仕立屋に卸しているのだが、相手が少ない分商売も細い。
だからある程度値段高めの品のみに絞っているわけだ。
それにもうひとつ問題があって
「あと仕立屋それぞれに商品分けてるんだろ?面倒だわなぁ」
「ほぉ、どうしてそうお考えに?」
全力でポーカーフェイスを貼り付ける。
といっても商人のそれは笑顔なのだが。
「簡単でぇ。さっき乗せてもらった馬車の荷物には数字の他にいくつかの記号が書いてあったろ?」
でもこの見本には数字は順番にあるのに、記号はひとつしか無ぇ。ということは記号別に見本が分けてある筈だわな」
「……ご炯眼、恐れ入ります」
「理由は値切り防止かい?『あなたの店だけにこの商品はお売りするのです』とでも言ってるんだろ?」
駄目だこりゃ。全部お見通しとは。
白旗を挙げるしかない。
(リーナ、これって何か魔法使われてるわけじゃぁないよな?)
(魔法探知の『ぱっしぶせんさー』には何の反応も無いのじゃ。これは素じゃのう)
この世界の人は科学技術が劣るからと言って「なめてはいけない」と戒めていたが、
どんな時代、どんな場所でも傑出した人物は出るものだとつくづく思う。
さて、こんな人物が何を売る気なのか?俄然興味がわいてきた。
「こちらの手の内はすっかり丸裸にされてしまいましたね」
「いやぁ、大抵のやつはそこまで考えてねぇアンポンタンばっかだ。それに比べりゃぁ、あんたは上出来の部類だぜぇ」
それは褒められてるのかどうなのか。
「気に入ったぜ。おいらのとっておきを見せてやるからついてきな」
ララガに連れられて奥の部屋へ。
「この工房には誰も入れたことが無えんだよ。あんた達が初めてさぁ」
「ただ単に片付けしてないからララガが恥ずかしいだけ。気にしなくていい」
「どこに何があるかは、おいらがわかってりゃぁいいんだよぉ」
ララガ、それは片付け出来ない人間がよく言う台詞だ……!
実際、かなり広い工房に入ってみたら
「それで、ララガさん。見せたい物とは一体どれのことなんでしょうか」
「ちょっと待ってくれよっと。えーっと、たしかこの辺に置いておいたんだけどなぁ」
本当に乱雑に物や工具が散乱してます!
足の踏み場もない、とはこのことだ。
回りを見てみると、緑色の陶器や書き殴ったわら半紙の束とか鉱石らしいものとか、
いろいろ脈絡なく転がってる。
そうそう、本物の「わら半紙」をこの世界で見つけたときは
あまりの懐かしさに涙が出そうになった。
麦わらを煮溶かして作るので、茶色く、またわらの形が残ってたりするのがいい。
「あったあった。これだよ」
ようやく掘り出したブツを俺に見せる。
「これ何だかわかるかい?おいらが発明した今はまだ『オモチャ』だ」
これはっ!まさか……!
それは、軽い木で出来たフレームに薄い紙を貼り付けて作られており
主翼と尾翼を備えた、どこをどう見ても「模型飛行機」だ。
しかもプロペラまで完備し、ゴムを巻いて動力とする昔懐かしいタイプ。
今でも模型店に吊されて売られているのだろうか?
こいつ、自分でこれを思いついたのなら本物の天才だ!
「さぁ、こいつが何かわかったらおめぇも天才だぜ」
俺は返事のかわりに、プロペラをめいっぱい回してゴムを巻き手を離す。
模型飛行機は散らかった部屋の中を飛んだものの、案の定何かに当たって落ちた。
「よくわかったな! おめぇ、やっぱりバカじゃねぇな」
「……これ、何か参考にするものがあったんですか?」
「いいや、全部おいらが考えたよ。空を飛びたい、と思ったことは無いかい? 飛行魔法なんてこの大陸でも100人いねぇ位珍しい能力だしよ。さりとて人は鳥にもなれず、じゃぁ飛ぶ道具をつくっちまったらいけるんじゃねぇか?と思ってな」
ま、肝心の動力の目処が立たねぇんで今はオモチャにするのがせいぜいだ、と笑うが、
ここまで来ればこの天才はエルロンやラダー、エレベーターという
飛行機の基本操縦システムなんて簡単に思いつきそうなんで、
本当にエンジンさえあれば、飛行機ができあがりかねない。
「このあたりでよく生えてるキリーの木はとても軽くてよ。それに最近、このゴムが出回ってきたんで何か作れないかと思ってな。これが売れりゃぁ、このあたりの爺婆が暇なときに内職出来るからいい小遣い稼ぎになるってもんだ」
「ほぉ、これは面白いのう。鳥にも似て異なる形じゃ」
リーナも興味津々のようだ。
「ああ、鳥の形をよく見て形状を練ったんだぜぇ。本当は戦争始まりそうな時に本物作って軍に売りつけたかったんだが、すぐ収まっちまったからなぁ」
「ララガ、しゃべりすぎ」
「……おっと、いけねぇ」
来た。
この国の民衆には伏せられており、ごく一部しか知らない事実。
つい先日、戦争が始まりかけて終わった事。
「ああ、あの件ですよね。私も何か商売になるかと思ったのですが、遅すぎましたよ」
大丈夫、私も知っている人間ですよ、とアピール。
この件に関しては少しでも情報を引き出したい。
「お、おめぇさんも気がついたクチかい?さすが商人は耳が早いや」
ララガ達の元には薬草の大量発注があったらしい。
それも、傷の消毒や鎮痛剤といった外傷に備えるものが多ければ、
「発注元はいろいろだったけどよぉ。全部貴族や国の機関からだと『こりゃおかしい』と思うわな」
「それはそうですよね。私は郵便運送の御者の噂からです。開拓最前線では郵便物がいつもの10倍になったとか」
「お、なるほどねぇ。そこにも影響出るのはよくわかるってもんだ」
例の件は知っているか、探ってみる。
「ところで、それが収まった原因って何ですかねぇ。ケンカだって、始まる寸前になったら普通収まりませんよね」
「それよ。それ。おいらが診てる患者に軍の偉いさんがいるんだけどよ。何でもえらく若い女性の魔法使いが教会から前線へ派遣されてきた直後にピタッと収まったらしいんだぜ。何か関係あるんじゃねぇか?って話だが、教会が敵さんボコる筈もねぇしなぁ」
!!!!
思いもかけないところで手がかりが手に入った。
この国の教会とはカウジー教団のことで、ごく普通の宗教活動のほかに
薬の処方や、治水、土木、農業技術の指導といった妙に実務的な側面も持つ教団だ。
この世界に魔法使いはそこそこいるので教団にも当然いるだろうが、前線まで派遣したというのは怪しい。
怪しまれないよう追求はそこまでにして、あとは商談を進める。
「ところでその模型飛行機ですが、どれくらい数がそろいますか?」
「そうだなぁ。刈り取りも終わったし、人手はあるからよ。5日待ってくれたら50は揃うぜぇ」
商売にするにはボリュームがいくらなんでも足りなさすぎる。
「あと1ついくらで卸して頂けますか?」
「そうさなぁ。子供のオモチャだからよ。あんまり高くしたくねぇが、1つ5000ってとこか」
「規格化してそれぞれ内職さんが1人1つの部品だけ作ればいいようにして効率化しましょう。お客さんが組み立てる箇所を増やしてパッケージは出来るだけコンパクトに。これで数200あれば単価2000で買い取ります」
「安すぎらぁ。手間がかかってるしこれまでに無い発明でみんな飛びつくぜ。数80で単価4000」
「子供のお小遣いで買えないものは売りにくいんです。数150で単価3000」
「親に売っちまおうぜ。子供への贈り物にいかがですか?ってなもんだ。数100で単価3500」
「出来るまでこちらに泊めて頂けるのであればそれで手を打ちましょう」
「よっしゃ。決まりだな」
話は決まり、ララガと握手する。
こういう「値切り」はこの世界では毎回で、みな駆け引きを楽しんでやっており
言い値で買う、なんてのは場合によってはむしろマナー違反になるくらいだ。
「詳しい話は明日として、とりあえず飲もうぜぇ!」
「お近づきの印に頂きましょう」
リビングに移ってゆったりしたナイトウェアに着替えたララガと2人きりで呑み始める。
お子様達はすでにお休みの時間だ。
……ちょっとドキドキしてきた!
ララガが注いでくれた酒は透明でかなり強く、ちびりちびり舐めるように呑む。
なんだろう。これに似たのを昔呑んだことがある気がするが……なんだったか。
あ、かすかなブドウの香りで思い出した。グラッパだ。
「これは、ワインの『絞りかす』を原料にしていませんか?」
「正解。おめえさん、本当に大したもんだなぁ。よく気がつくし理解がほんと早えぇよ」
元の世界の知識を使ってやっと、なんだけどね。
「いい味ですね。これは売られているのですか?」
「こいつもおいらが考えたんだぜ?醸造所がどうにか『絞りかす』を再利用できないか相談してきたんで試してみたらうまくいったのさ」
醸造にも精通してるのか!
本当に恐ろしい天才ぶりだな!
「で、おめぇさん。あれをどう売るつもりなんでぇ?」
「正直、今はまだぼんやりとしたイメージしか無いんですけどね。目新しいので子供をもつ貴族や富豪向けに販路を作れないかと思っています」
「目の付け所はいいんじゃねぇか。あとは色々工夫してみな。おめぇさんならやれると思うぜ」
いろいろ話をしながら呑んでいたら、だんだん2人とも酔ってきた。
それも悪い方に。
「で、あのリーナちゃんとおめぇもう毎晩***してんのか?」
「いやいや、子供ですよ?***とかあるわけないじゃないですか」
「けっ、意気地無しかよ。あの子、どう見てもどこかの貴族だろ?おめぇみたいな若い商人男と旅なんて、駆け落ちにしか見えねぇってのに」
「いやいや、リーナとはそういう関係じゃなくてですね」
「かーっ、やだやだ。自分に正直になれよ?貴族ならあの歳だと結婚しててもおかしくねぇ。本当は***してんだろ?」
「いやいや、その。ララガさんとなら***したいと思っていますが」
「はっはっは、冗談うめぇなぁ!」
思い切って言ってみましたが、あっさり流されました……
「なんじゃ、振られたのかぇ?」
あてがわれた客室に入ると、リーナはまだ起きていた。
「……いや、明日もあるさ」
「それはどうかのぉ。おぬし、結構気に入られておったのじゃから、可能性あるなら今夜だったのにのぉ」
「明日もあるからっ!」
くっくっ、とリーナは笑うと
「それじゃぁ仕事の時間じゃ。昼間に探査魔法で記録したデータを分析するぞい」
「……やっぱ、脱がないとダメか?」
「接触面積が広くないとデータがうまくそっちに送れない、と毎回言っておるじゃろ。あきらめぃ」
「わかったよ。便利な魔法だけど、これだけがなぁ」
俺は下の下着以外、全部脱ぐと
リーナは掛け布団をめくってここ、と言わんばかりにポンポンする。
はぁ、とため息ひとつついて布団に潜り込むと、リーナが抱きついてきた。
その感触が
「おま、まさか?!」
「なんじゃ、おぬしもコレ取ってしまえ。今日のデータは多いからの」
抵抗する間もなく、するっと剥ぎ取られる。
「それ、潜るぞ。目をつぶるのじゃ」
あきらめて目を閉じると、リーナから送られたこの街の映像イメージが流れ込んできた。
リーナの探査魔法「ばーどあい」が得たものだ。
これをストリートビューというよりも、VR映像のように「その場にいる雰囲気」で見ることが出来る。
しかも音付きだ。
この探査魔法でドラゴンさえ驚かせた強力な「例の魔法使い」の情報を探すついでに、
商売に役立ちそうな情報も探すことで、
異世界から来たばかりの駆け出し商人である俺がなんとかやっていけてるのだ。
もちろん、元の世界の知識もフル活用してはいるが。
ようやく、今夜の分の分析が終わった。
やれやれ、これでやっと眠れる。
「お疲れじゃったの。でもこっちもお疲れのようじゃのぉ」
布団の中でリーナがぴんっ!と指ではじく。
「痛てぇ!やめんか!」
「おやおや『優しく』ナニしてやる方が良いのかのぉ。ご希望ならやぶさかでは無いぞ」
「ほんと、勘弁してください」
「遠慮せんでもええのにのう。まぁ、おやすみなのじゃ」
「おまえ、自分のベッドにいけよ!」
「こっちがわらわのベッドじゃ。おぬしがあっちに行けば良い」
「なら手を離してくれよ。これじゃぁ動けない」
「まぁまぁ、いつも一緒に寝ておるではないか」
リーナはドラゴンのくせに、妙にベタベタするのが好きなようだ。
もう本当に眠かったのでそのまま寝てしまうが、
正直、誰かのぬくもりがあるというのは悪くない。
そして翌朝、突然早いうちから来客があった。
すごい剣幕でドアを叩く。
「ララガ!あなた昨日男の馬車に乗ってたんですって!しかも若い女もいたって聞いたわよ!」
なんだなんだ?とあわてて服を着て出てきたら
「あれは今、ララガと付きあってる女優。以前ララガが書いた脚本で主演したのがきっかけ」
ほーん。さすがララガ。舞台の脚本まで書いてるとは……
え?あれ?
アデルさん、今なんと?
「だからララガの彼女。ララガは女同士でしか付き合ったことがない」
この世界、カウジー教に性のタブーは少ないため、いろいろお盛んだとは知識で知っていたけど。
結構本気でララガ狙ってたんだけどなぁ!
「なんじゃ。朝から騒々しいのう」
「ふゎぁ、飲み過ぎたところにこれじゃ頭が痛くなるぜぇ」
リーナが出てきたタイミングでララガも自室から出てくる。
そして、ちょうどそのタイミングに合わせて、アデルがドアを開けてしまった。
「ちょっ!あなたたち!やっぱりそうだったのね!」
リーナは昨夜寝たときのままの姿。すっぽんぽん。
ララガも寝相が悪いのか、ナイトウェアが乱れてあらわな姿に。
うぉ、例の巨乳が半分ぽろり気味だ!
「あ、あれ?なんでおめぇさんがここに?」
「この浮気者ぉ!」
女優の彼女さんがヒートアップしてララガに襲いかかる。
そんな状況をリーナが面白がらない筈はなく、
「昨夜は本当ぉーに楽しかったのじゃ」
にたぁ、と笑って言い放つ。
「キーッ!」
うわぁ、リアルでキーッ!とか言う人初めて見た!
「ダニール、こいつら処理してほしい。これでは朝食も作れない」
アデルはアデルで冷静すぎるし!
ああもお!
俺はのんびりこの世界を楽しみたいのに!
神も仏もこの世界にはいないのか!
「あ、わらわ達龍族は神に等しいといわれておるのじゃが?」
「マジで?」
「マジじゃ。カウジー聖書も読むが良いぞ」
「今までで一番信じられん話だ……」




