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ソラノカイナ  作者: 夢月
第1章 異世界(?)へと
8/61

第7話「バイクなのか!?/電車でのこと。」

 第7話です!ちと、長くなってしまいました。電車でのこと。の方が。

 分けようかな?とか思ったんですけどやめておきました。

 はい、ので、今回は長めでございます。

 「おい、起きろテール」


 何度か体を揺さぶってみるが起きる気配がまるでない。


『ん~…あと5時間…ムニャムニャ…』


「あと5時間も待ってたらテールが起きたとき僕たちかっちかちだからな!?」


 死んじゃうわ!!

 こんな辺境の地で死にたくないわ!!こんな意味わからんとこに骨を埋める気はなくってよっ!


「おい!!ホントに起きろって!!」


 何度もテールの体を揺さぶるが起きない。

 寝たら起きづらいタイプか!?

 うちの姉と一緒じゃないか…

 ちなみに姉は大体寝る前に、

 予定があるから~時に起こしてね?と、言い寝る。

 で、その時間帯に起こそうとするけど起きない。

 起こそうとしても起きないから…「もう、これが起こすの最後だからな!!」って言うと。

 「うっとうしい。あーわかったわかった。」と夢うつつで言われる。僕はわかったと言われたから起こすのをやめただけなのに起こられるんだよ?

 間違った。怒られるんだよ?

「起こせよ。何で起こしてくれなかったの!?もーだるい!!」と。

寝ぼけながら起こしてくれなかった苛立ちからか、泣きそうな声でそう言われる。はぁぁあ!?ってなる。

 ところでテールは。


『ムニャムニャ…フアァア~ン…』


 どんなあくびだ。


『はぁ…』


 起きて早々ため息を吹っ掛けられた。


「おいこらぁっ…!」


 僕は眠っている人を起こす時、必ず苛立たなければならないのだろうか。

 何?これ。新手の嫌がらせ?

 僕の人生において集団で嫌がらせしてんの?ねぇ。


「休憩できましたかー?」


 テールが起きたのに気づいた志甫が声を掛ける。


『あぁ!行こうか~』


 寝起きは普通で良かった。たまに悪質なのがいるからな。寝起きは機嫌が悪いやつな。

 テールは伸びをした後、肩を回し、


『よーし!行こうか。』


 

 先程とは少し違うニュアンスでそう言いテールは荷物を持つかのように僕らを持った。掴んだ。


『Let's go!!』


 その掛け声と同時に飛び立つ。

 発音がいいな。英語かと思ったわ。

 ……英語じゃん!!やばい…かなりヤバさが深刻化してる。レッツゴーを(発音が悪いのはご愛敬)英語じゃないと認識するとは。

 高1だぜ?


「さむ…」


 志甫が呟いたのがギリギリ聞こえた。風が冷たい。耳の奥が冷えている。

 それに加えて志甫はさっきまで寝てたんだから体温が下がってるだろう。

 見えない鎖から遠ざかっていく(さっき居たであろう場所から)。

 真横に。


「真横に!?」


『え!?何だ!?』


「何で真横に行くんだよ?」


 一旦落ち着いて僕は疑問をぶつけた。

 そのまま、この空中都市の、えーネフティス?(正※ネブィテス)かなんとかの底にそってのぼればいいのに。

 ちなみにだが空中都市の底は岩肌が目立っている。


『あー…まあ、何となく?』


「あ、別に理由ないんだ…」


『まあ、強いて理由を付けるなら』


 深呼吸をするテール。

 真上には空中都市の淵が見えている。


『いっきにのぼれるからかな!!』


「うっわ…!」


 さっきまでのんと比にならない。

 どんどん速さ更新するな…最高速度どうなってんだ?


 と、ものの数秒で淵にたどり着いた。そのまま空中都市に着地する。


『さて、降りてくれ。』


 抱えられていた腕を離されて、地面に四つん這いに落とされてしまった。痛ぇ。膝が…コンクリートじゃないか…


「さて!」


 あれ?志甫は平気な…


「おい、テール。」


『何だ?』


 志甫立ってんじゃん。地面に足着いてんじゃん。えらく丁寧だな?


「何で僕だけこんなにも扱いが雑なの!?」


『えー…男だから?』


 差別的だ!!非道だ!!非人道的だ!!


「ねぇ、私が面白いこと言おうとしたのに笑いどころ潰さないでよ。」


 面白いこと?


「なんのことだ?」


 自信満々に言って絶対滑るやつだからな。


「よし、じゃあ今着いたと想定しよう。」


 パンッと手を鳴らし。


「さて!」


「?」


「で、どこ行くの?」


 と、手を鳴らした志甫が言った。

 はぁぁぁあ!?何!?今の!?え!?いちいち仕切り直してまでしてすることじゃないよな!!

 て言うか。


「こっちの台詞だわ!何がしたかったんだよ!!

自分で仕切り直しといて、どこに行くの?って何!?

志甫が描く笑いの着地点がいまいち理解できない!!」


「はぁぁ…分かってない…貴方は…分かっていないよ…

今の笑いは、着いた時に。

さて!とかいかにも今から何かをするのを先導する人。みたいなポジションの人が実は何も分かってなかったって笑いだろうよ?」


 いちいち口調を変えてホントに面倒な奴だ…

 大体あの流れでいったら。面白いことを言う自信のあるって言ってるやつが実は何も考えてなかったって笑いだろ。

 あー…でもどこに?じゃ繋がらんか。


『ギャハハハハハハハハハハハ!!

ヒィーーアッハッハッハッハ!!』


「笑いのツボあったか今の!?」


 何が面白いの?


「私の笑いは万国共通なのさ…」


「なんかキャラクターがうぜぇ…」


 さらっ!と、志甫は髪の毛を払う。何気取り?


『アッハーッハァッハーー!!』


 どんな笑いかただよ!!


「ふぅ…じゃ、気がすんだので行きましょうか。」


「ど…」

 志甫がどこに?と、言おうとした瞬間。僕は志甫の言葉に被せた。


「どこに、だろ?」


「あ…あぁぁああ!!またもや笑いどころを!!今のは続けるながれだろ!!」


 何かキャラクターぶれぶれじゃない?


『ヒィーー!ハァー…フゥェー…よし!とりあえず進もうか!』


 文だけでみたら顔はキリッとしてる印象を受けるけど、実際はニヤニヤしてるからね。


「…まあいっか」


 志甫が呟く。

 自分で蒔いた種を今壊したな…あんだけ荒らしといてこれか。

 でもこのまま立ち止まってる訳にはいけないだろーし…

 僕たちは歩き始めた。


「はぁ…」


 思わずため息が出てしまう。


「ねぇカイナーここ暖かいね?」


 ん、そう言えばそうだな。暖かい。

 この空中都市ネブティス?(誤)(正、ネブィテス)に入ったときから寒さが無くなった。


『あぁ、そういう力で覆ってるからここは寒くない。

その力は外の気温を通さないようにしているんだ。』


 へぇー、便利だねえー。そういうってどういうのか分からんけどな。


「へー、そうなんですか。」


 あーそうだ。お風呂入りたい。頭がべたべたしてんだよ。意味不明な気候のせいで。何だよあの気候(今さらだけど)。


『……先に言っておくが街の主要な場所までは大体歩いて1時間だから。』


1時間!?


「何か乗り物とかない…?」


 僕は希望を乗せて望みの話をする。


『あるっちゃあるが…』


「お!それだったら何分!!」


『5分★』


「「えぇ!?」」


 ハモったわ!!5分!?1時間と5分ってかなり違うよ?嘘でしょ!?


『使うか?』


「ぜ、是非とも!!」


 志甫が言ってくれた。もう歩かされるのは嫌だしな!


『しっかたがないなぁ~!!(WAKWAK)』


 え、めっちゃわくわくしてるじゃん…一体何が起こるんだ。


 数分後…


「…?」


 首をかしげた。


「ナニコレ?」


『え!?見ての通りナチュラルートーヘンテコビーフバイクだが!?』


「バイクなのか!?これ!?」


 て言うかヘンテコって言ってるじゃないか!!

 て言うかビーフって何!?

 て言うか見ての通りじゃねぇ!!


『最高速度は結構はやいぞ。』


「あ…スピードはわからないんだね…」


わかっちゃったら色々面倒だからだよ…求めようとすれば求めれるのかもしれないが。


『じゃあ乗ろう!』


「大丈夫なのかよ…」


 え…二人乗りなの?席は2つしかないし、まさかお前は歩いてこいという理不尽発動か!?


『お前は、向こうのん使え。』


 歩かされる方がましだった…

 僕は嫌々ながらバイク(?)にまたがる。免許とか…大丈夫…だ…よな?


「操縦の仕方は?」


 ハンドル…?無くね?ハンドルは何処に。よくあるバイクの持つ部分はあるにはあるのだが左右に動かない。全く。微動だにしない。固定されてるのか、そういう設計なのか。


『あぁ、体重移動でよろ。』


「え?」


『よーし!!いっくぞー!!』


 そして僕に近づいてきたかと思うと僕の乗ってるバイク(?)の何かのダイヤルを思いっきり回したテール。

その瞬間、景色が一気に進んだ。

 景色が進んだ?いや、僕が動いてるんだ!!


「ってちょっとまって!?」


『大丈夫だ!!一本道だから。』


「いや、じゃあ体重移動関係なくね!?」


 速さはこのダイヤル…あれ?ダイヤル多くね。20個位あるんだけれども。どれだ…どれが速度を落とすダイヤルなんだ…分からなくなった!!


『体重移動は左右に動く時だけだからな。だからむやみやたらに体を動かすと死ぬぞ?』


「きゃっほーい!!」


 めっちゃくちゃハイテンションだな。志甫。テールだから安心してるんだろうな…

 でもな!猿も木から落ちるんだ!!


「そう、河童だって溺れるんだッッ!!」


「河童なんかいないよー?」


 冷たい!!もうちょっと優しくしてほしい!!居たっていいじゃん!!夢を持とうぜ!!何でそういうとこ現実的なのかね!!


「だから!テールミスれぇぇ…」


 小声で呟いた。


『あーそろそろだなー』


 テールが何かを引いた。するとスピードが落ちていく。

 こっちから見えるから右側のレバーだ…レバー多くね?何本あるんだよ。30本はあるだろ…無駄な設備!!

 あ、何か塔がみえる。


「おい!!どこで止まればいいんだ?て言うかどこでとめんの!?これ!!」


 テールがどんどん後ろになっていく。

 後ろ向いて話したいけど後ろ向いたらバランス崩してさようならだから。だめだな。さようならは嫌だわ。


『人の目をみて喋りなさい!!』


 母親口調うぜぇ!!

 そう言ってる間にもどんどん塔に近付いていく。


「いぃぅぃぃ!!そんなん言ってる場合じゃねぇぇ!!いいから早く答えらッーーーーーッッ!!」


 舌噛んだぁぁぁ!!


『全部引っ張りゃ止まるんじゃね?』


「適当…」


 舌の痛みで頭が冴えた。落ち着こう。

 とっっととりあえず全部引こう!!

 ガ…ガガガチャガン…と鈍いめの音がした。


『おー!!』


「スピード上がったじゃねぇか!!」


 やばい!!何で!?前の塔に激突する。

 あぁぁぁぁ…どうしよう!?

 適当にいっぱいあったダイヤルをガチャガチャいじる。

 音がなったりいいにおいがしたり、何か水出てきたり。意味が分からない機能満載だな!!と、回したダイヤルがよかった!

 パラシュートが後ろに開いた!

 これなら止まるんじゃ!!


「おー宇宙すごーい!」


「え?」


 何か志甫に驚かれるようなことしたかな…あれ?何か地面遠くないか?

 え…もしかして…


「飛んでる!?」


 すっすごい!!全く嬉しくねぇ!!

 こんなにも嬉しくないのは初めてだ!!


「誰かたすけてぇぇぇ!!」


 夜空に舞う一人の男。

 構図的にはいいだろうけど!!

 この世界の月明かりに照らされて…男は…


「あぁ!!だめだこれぇぇ!!」


──────────


To be continue.


To be continue.だがしかし!私だよ。わ・た・し!

 やっほ!2回目、いや、3回目だね!

 いやはやー語り忘れていた悲劇をふと、思い出してね。

 悲劇、と言うか、うむ。まあ感じ方は人それぞれか。

 ただ、それはとある人物の生きていた証であり、とある人物の人生でもある。人の命はいつか必ず終わる。それが、どれだけ喜劇的でも悲劇的でも。

 さて、では語ろうか。


─────


 私こと佐藤(さとう)幸子(さちこ)の人生の物語に耳をお傾け頂けることをありがたく思います。

 私は、私の人生はひどく平凡で、並みで、小並みで、もし私の人生を小説にするとしたなら、恐らく原稿用紙一枚にも満たないであろうと思う。

 名前が平凡で、行動も、言葉も、人間関係も、見た目も、人並み。普通。平均的。特徴的なものがなく、誉められもせず、貶されもせず生きてきた。

 そんな全てが普通の私だったのだけれど、けれど、そう。けれど、だ。恋愛という面においてはそこらの女子よりもいい経験をしたと胸を張って言える。

 そう、あの人に出会ったからだ。顔がよく、性格がよく、仕事ができ、人のことを気遣えて、色々な国の言葉を話せて、周りのことをよく見ていて、会社の中で知らない人は居ない。そんな絵に描いたような完璧な人。

 そんな人と私がお付き合いすることになったのは本当にあり得ない、それこそ絵に描いたような出来事。


「一目惚れです!!俺と…結婚を前提にお付き合いしてください!」


 社内メールで呼ばれた私が会社の屋上に行くと、彼が居た。

 彼は少しもじもじしたあと、意を決したのか、顔を赤らめながらそう切り出した。

 私は驚いた。信じられなかったからだ。あの憧れの先輩が私に告白を!私は即座に「はい!こんな私で良ければ!」と答えた。


「え?本当に…?」


 私が早く返事をし過ぎたのか現実が飲み込めていない先輩。私だってもしかしたらこれが夢なんじゃないかと思っている。だから私はこれを、この夢を、夢にしたくなかった。自分に言い聞かせるように、「本当です!」と、強く答えた。

 

「あぁああーー…良かったぁぁああーー…!」


 現実がやっと飲み込めたのか、へなへなとその場にへたりこむ先輩。私なんかを好いてくれて、さらにその人が憧れの先輩で。

 私は今さらになって怖くなって腰が抜けてしまった。こんなことが、こんな夢みたいなことがあるのだと。

 私は先輩同様へなへなとへたりこむ。その時、思わず声が漏れてしまった。


「これは夢…なのかな…」


 その言葉が先輩に聞こえていたようで、


「え?今…何て…?」


 先輩は少し嬉しそうに私の方を見る。

 当の私は自分の気持ちが先輩に知られたのが少し恥ずかしくて、でも少し嬉しくて。


「先輩のこと、ずっと前から好きでした。」


 私には似つかわしくもない大胆な発言をしてしまう。今のこの雰囲気からか、両思いだったのが自分の中であまりにも嬉しかったのか。

 平凡が売りの私はその時だけ、大胆になれた。


─────


 その後、驚くべきことに私たちは結婚。結婚を前提にだったのでそれは当たり前なことなのだけれど、信じられなかった。

 さらに結婚から一年後に一軒家を買い、その半年後に子供が生まれた。信じられないくらい幸せだった。こんなにも恵まれてるだなんて、中学高校の時の私は一度でも想像しただろうか。

 ただ、子供が四歳になった頃から夫の様子が変わり始めた。何でも会社で取り返しが着かないくらいのミスをしてしまったらしい。その後処理に追われており、酷く疲れた様子だった。「話を聞くよ?」と言葉を掛けるも、「あぁ、それより今は寝かせてくれ…」と弱った声でそう答えるだけだった。

 そんな状態が数ヶ月続いた。

 しかし、ある日夫は上機嫌で帰ってきた。

 何があったか聞いても、


「今はすごく、いい気分だ!!あぁ!気持ちがすっきりしたよ!!」


 と、気分がいい、とかすっきりした、などの文言を繰り返すだけだった。きっともう落ち着いたのだと私は勝手に思い込み、その日はそっとしておいた。

 その日からだ。夫が本当におかしくなりはじめたのは。

 私が何を言っても上の空で、会社にも定時を過ぎてから出勤するし、帰ってくる時間はいつもばらばら。家を出たと思ったら三時間~四時間で帰ってきたり、次の日の昼になってから帰ってきたこともあった。

 怪しいと思った私は、子どもを保育園から連れて帰る途中にある、駅の前のファミリーレストランで子どもと一緒に夕食を食べながら夫が帰ってくるのを待った。あまりにも夫の行動が掴めないので、もしかしたら会社をクビになっていて、私たちを心配させないために外で時間を潰している、もしくは新たな職を探しているのでは。などと、あり得ないことを考えたりした。そんな事を考えるのは私がおかしくなってしまったのか、はたまた夫がおかしくなりすぎたのに私の精神が耐えられなくなっての逃避か。

 夕食をファミリーレストランで子どもと食べ終えた私はそれから三十分ほど夫を探した。もう何も頼んでいないし、お皿も下げられてしまったし、お店にも悪いと思いファミリーレストランを出た。

 その時、運が良いのか悪いのか、駅に入っていく夫の後ろ姿を見た。間違いないと、確信できた。今まで何度も見てきた後ろ姿。見間違えるはずがない。

 だが、そこでひとつの疑問が私の心のなかに浮かび上がる。

 ───どうして駅に入るのか?

 駅から出てくるなら分かる、けれども夫は駅に入っていった。何故?

 気になった私は子どもを連れて駅に入り、夫を尾行することにした。

 夫は何度も乗り継ぎ、まるで誰かからか逃げているようだった。私からはあり得ないだろうと思う。ずっと背中側に居るから、私の姿を見るということはないはずだ。

 そして、私が来たことのない駅についた。路線図を見るにここは環状線らしく、夫はついた駅からさらに電車に乗り、四駅ほど進むと、電車を降りた。

 三十分ほどだろうか。夫はしばらくその駅のベンチに座っていた。そして外国人と落ち合い、何かゴルフケースのようなものを受け取ると、電車を五本通りすぎるまで待ち、電車に乗り込んだ。

 子どもが眠たそうにしていたので「ごめんね。」と誤り、背中で抱っこし、寝かせてあげた。こうすると、子どもの成長を感じる。あぁ、もうこんなにも重たくなったんだね。本当に私は幸せだ、と。思春期になったりしたら、もう抱っこなんてさせてくれなくなるんだろうなぁ。反抗期に入ったらもしかしたら「クソババア」なんて暴言を吐かれるかも。そんなこと言われたら私はどう思うのだろう。成長を感じるのだろうか。悲しく、なるのだろうか。

 なにはともあれ、私は子どもを背負って夫の尾行を再開。同じ車両に乗り込んだ。夫が乗り込んだ車両にはそれほど人がいっぱいいるというわけではなく、かといって多くもない。座席は全部は埋まっておらず、数人が立っているような状況。

 私は夫が居る所から一番遠くのドアの所に子どもを背負いながら立った。

 遠目に夫を視認するが、ガタイの良い外国人が夫を取り囲むようにして立っているため、すぐに見えなくなってしまった。

 仕事が終わるような時間なのか、スーツを着た人が多かった。

 夫が外国人と落ち合った駅の二駅後に差し掛かろうとしたとき。外国人は携帯を取り出して誰かと連絡を取った。電車の中で電話って、マナーが悪いな、何て思っていた私はとあることに気が付く。もうすぐ着くはずだった駅に電車が止まらなかったことに。もしかしたら各停と別の、例えば準急とかとを見間違えたかな?と思ったがそれからも駅に止まることはなく、進み続けた。

 しだいに乗客が怒りを露にし始める。

「いつになったら駅に止まるんだこの電車は!!」

「家に帰れないじゃないの!!」

「こんな状況なのにアナウンスの一つもないってヤバくない?」

「そうだね。おかしいよ…」

 それはこの車両だけではないらしく、隣の車両からも同じような声が聞こえた。

 一体どうなっているのだろう?何かあったのだろうか?そんなことを考えていたら子どもが周りの声で起きてしまったらしい。しばらくぼやーっとしていたのだけれど、異様な雰囲気を感じたのか泣き始めてしまった。

 背中から降ろし、頭を撫でたり、「大丈夫?どうしたの?」と優しく声を掛けたりして泣き止ませようとするのだが、なかなか泣き止んでくれない。

 どうしようと焦っていたところ、ずかずかと中年のおじさんが近付いてきた。


「うるせぇんだよぉ!早く泣き止ませやがれ!」


 あぁ、一人はこういう人が来ると思った…


「すみません…」


 私は謝ってとりあえず子どもを落ち着かせようと。


 「ほぉら、落ち着こう?一回お母さんと一緒に深呼吸してみようか!せーの、ふぅーはぁー」


 それに子どもが続く。


「ふーはー」


「どう?落ち着いたでしょ?」


 うん!と最大級に可愛い笑顔で答えてくれる我が子。よかった。落ち着いてくれて。

 おじさんは「ふんっ、最初(はな)っからそうしてりゃあいいんだよ。」と言い放ち、もと居た場所に戻っていった。

 するとその一部始終を見ていた学生達が「何言ってんのよ?あのおじさんーどうせ自分も子どもの頃は泣いてたくせに~」「そうかもねぇー」「ちょ、ちょっと…聞こえちゃうよう…」「聞こえるように言ってんのよ!」などとちょっと私にはコメントしづらい会話を繰り広げていた。

 その中の一人と目があってしまい、あ、さっきの人、みたいな視線を向けられ、一回視線が子どもに行き、また私を見て、私の方に近付いてきた。


「子どもさん、可愛いですね!」


 何か文句を言われたりしたりするのかと考えたりしたけれどそんなことはなく、私に向けて発せられた第一声は好印象のものだった。


「あ、ありがとう、…?」


 その子の後ろでは、「あぅう…いきなり話しかけたら失礼だよぅ…」と言っている大人しめの子と、スマートフォンを触りながら私に話しかけてきた子に釣られるように何となくこちらに近づいてくる子。


「お母さんも大変ですね!」


「うん、大変ではあるけれど、辛くはないよ?理由にしちゃありきたりかもしれないけれど子どもの笑顔に助けられてる感じだよ。」


「へぇー」


「ごめんなさいぃ…!いきなり話しかけてぇえーっ!」


 後ろでおどおどしていた子がいきなり叫んだ。私は「大丈夫だよ。気にしないで。」と優しく言うとこう付け加えた。


「でも電車では静かに、だよ?」


 そう言うと彼女は「はっ…ごめんなさい…」と頭を下げて回った。

 どうしてこの子はこんなにもびくびくしているのだろう?


「ねぇお母さん!この子の名前何て言うの?」


 私は名前を答えようとしたがずっとスマートフォンを触っていた子が突如叫んだ。


「ちょっと待って!!!!!」


 電車では静かにと言ったばかりなのだけれど、叫んでしまうのも無理もなかったのかもしれない。私たちが乗っている電車は、ハイジャックに遭っていたのだから。


「え?どういうこと?」「ハイジャック?」「何言ってんだあのガキ。」


 様々な人の声が聞こえてくる。不安になる人。真偽を確かめようとスマートフォンで検索する人。

 電車内が軽いパニック状態になった。子どもが泣かないか心配だったけれど、最初に話しかけてくれた学生の彼女があやしてくれていた。


「ありがとう、泣かないか心配だったんだけれど、君のお陰で泣きそうにないよ。」


 私は感謝を伝えた。すると彼女は「君じゃないです。」と、名前を教えてくれた。


「私の名前は桐春(きりはる)希望(のぞみ)です。」


 希望ちゃんか。良い名前だなーと心の底から思った。その旨を伝えると、「えぇー?絶対思ってないですよね!お世辞なんて止めてくださいよ?」と言われた。お世辞を言ったつもりはないのだけれど。


「お世辞じゃないよ?私なんかよりもずっと良い名前だよ!」


「お母さんの名前は?何て言うんですか?」


 あぁ、私の名前は幸子。しかし発っした言葉は銃声に掻き消された。

 電車のなかが一気に静かになる。銃声。ドラマとかでは良く聞くけれど実際に聞いたことはなかったそれは、良く聞く音とは違った。体感的には、バーン、ではなくドーン。


 「何が?」起こったのか。音が聞こえてきた方を見る。どうやらこの車両ではなく、後ろの、私の背中側の車両からだった。

 そういえば夫は?さっきゴルフケースをいじっていたけれど。あれは、もしかして。

 二度目の銃声が響く。今度は私が乗っている車両。反射的にほとんどの人が頭を伏せた。しかし、この中で立っている人が一人。

 私の夫だった。目を見開いて驚いた。あり得ない光景だった。こんなの、こんなのは、きっと夢。悪夢だ。私は目を閉じる。これ以上見たくなかったから。


「一ヶ所に集まれぇええ!!!言うことを聞かないやつは容赦なく殺すぅううう!!!」


 声が、そうだった。夫のそれだった。私は耳も塞いだ。これ以上聞きたくなかったから。

 しかし、目を閉じて、さらには耳を塞いだ私を引っ張ってくれる手があった。優しくなだめてくれる声があった。


「希望ちゃん…!」


 情けなかった。子どもにこんな姿を見せて。いや、これが普通なのか。こんな状況に直面して、萎縮するのが普通なのか。…希望ちゃんは、強い子だ。

 一ヶ所に集められた私たちは数を数えられた。この車両には五十六人。夫が誰かと電話をし始めた。電話の話し声を聞くに、夫は別の車両の人の数を教えられている見たいで、ボソボソと、「そうか、じゃあ二駅ごとに五人…」そう言うとおそらく同じ内容を聞いたことのない言語で電話で誰かに伝えた。

 どういうことなのだろう?夫がハイジャックを手伝っている。何故?

 私は子どもが泣かないように、子どもが、あれが夫だと気付かないように、夫に背を向けさせる形で座らせた。

 それは突然だった。電車が止まったのだ。今まで止まりそうになかった電車が止まった。もしかして解放されるのかと思ったがそうじゃなかった。


「お前らはまだ降りるな!!」


 こっそり降りようとした男性の背中に強い言葉を浴びせる夫。降りようとした男性はもと居た場所に戻った。

 それからも二駅後に止まっては降りるなと言われ、止まっては降りるなと言われ、が続いた。

 真夜中になってもそれは続いた。子どもは眠ってしまった。大半の人は眠気に負けて眠ってしまっていた。希望ちゃんも、希望ちゃんのお友だちも。

 そして私も眠ってしまった。

 気が付くと辺りはうっすらと明るくなっていた。夫のほうを見ると、どうやら腕に注射しているようだった。

 何の注射…かはすぐに分かった。分かってしまった。薬物…か。夫がそんなものに手を出していただなんて。信じられなかった。信じたくなかった。けれどそれは事実で。いま私が目にしていることで。最近の夫の行動を見るに、おそらくそれは真実で。でも、それでも───…。

 気を紛らわせるために腕時計を見ると、時計の針は五時三十四分を示していた。

 もうこんな時間なのか。時計の針が三十五分を示した数秒後に夫が天井に向けて銃弾を放った。

 みんなびっくりして起き上がる。すると夫は、「この中から五人。外に出ろ。」そう言った。

 お年寄りの人から外に出ることになった。全員一致だった。サラリーマンは、「どうせもう資料を作るには間に合わないしな。ここからはさっさと出たいが、奴等に僕達を殺すつもりは無さそうだし後の方でいい。」私に子どもを泣き止ますよう注意してきた中年のおじさんは、「俺は一番最後でいい。」このようにしてお年寄りの人から外に出ることになったのだ。

 私は、子連れということもあり先に出るよう言われたが、子どもが寝ているので、と、断った。夫に聞きたいことがあったから断った。

 希望ちゃんには悪いけど、その時は忘れ物をしたと嘘をつき、子どもを見ていてもらおう。

 徐々に数は減っていき、最後に残ったのは私と、私の子ども、希望ちゃん、希望ちゃんのお友だち二人、中年のおじさん。

 ドアが開く。そこで、丁度そこで子どもが起きてしまった。


「んん?お父さん?お父さんだ!!お帰りなさい!!」


 寝ぼけているのか、ここが家だと思っているらしい。夫に抱きつきに行った。私が止める間もなく。


「駄目ッッ!!」


 そう言った頃にはもう夫の足に抱き付いていた。今、夫は銃を持っている。それに、薬物を使っていてどんな精神状態か分からない。

 ダメだ。ダメだダメだダメだ!!


「俺に…」


 ダメだよ…!


「さわるなぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ゛ッッッッッ!!!!!!」


 ものすごい怒号と共に銃を振り上げる夫。間に合わない!

 鈍い音がした。その鈍い音と共に子どもは崩れ落ちた。倒れた。頭から血を流しながら。


「このくそガキぃぃぃいいいいいいいい!!!!!!!」


「ぁ…」


 そこから何度も子どもを殴り付けた。顔。お腹。顔。顔。顔。顔。顔。お腹。顔。止めなきゃ。顔。顔。お腹。止めなきゃ。お腹。顔。顔。顔。顔。


 止めなきゃ!!!!!


「もうやめて!!!!!!それ以上傷付けないで!!!!!」


 走り出した。夫を突き飛ばし、子どもを守るようにして覆い被さる。


「おか…………さ……っ………い……たぃ……よ……」


「うん、うん!そうだね!!痛いよね…!ごめんね!ごめんね!」


 涙が出て視界が霞む。


「ごめんね!ごめんね!」


「このぉ…糞あまぁぁぁぁぉぁぁぁぁあああああああ゛!!!!!!」


 耳の横で銃声が聞こえた。乱射する音。死ぬ、と思った。しかし銃声が止んでも私は生きていた。今までに放たれた銃弾が私に当たらなかったからだ。


「ゴボォッ…ゲホッゴホッ…」


 この人が守ってくれたから。


「おじさん…!!!!どうして…!」


「俺はなぁ泣いてるやつを見るのが嫌いなんだよォ…昔の自分を思い出していけねぇ…へへっ…」

 

 膝をつくおじさん。


「なん…」


「子ども抱えて走れぇえええええええええ!!!!!」


「───────────ッ!!」


 子どもを抱えて走ろうとした。が、髪の毛を強く掴まれた。


「うぅっ!」


 ダメだダメだ、無駄には出来ない。せめて子どもだけでも。


「希望ちゃん!この子を連れて逃げて!!お願い!!」


 子どもを希望ちゃんにあずける。


「嫌だ、嫌だよ、動けないの…足が…動かないの…!!」


 私は落ち着いて希望ちゃんに話しかける。


「希望ちゃんは強い子だよ。私が動けなくなったときも希望ちゃんは優しく声を掛けてくれた。優しく手を引っ張ってくれた。あんな状況だったのにだよ?私はそれで勇気をもらった!」


「ごちゃごちゃ喋ってんじゃねぇ!!」


 夫の足を引っ張って、止めてくれるおじさん。


「まあ待てや…お前は俺が相手してやらぁ…」


「くそじじいが…ぁぁぁあああ!!!」


 後ろで銃声が聞こえた。


「走れぇぇぇええええええええええええ!!!!!」


 すごく身勝手なのは分かっている。分かっているよ。でも、あの子は生きている。まだ生きているんだ。

 だから、せめて、


「絶対に、後で会いましょうっっ!!待ってますから…!!!」


 すこしずつ電車から遠ざかっていく希望ちゃん。

 私がもう戻ってこないと思ったのか。希望ちゃんはそんなことを言う。大丈夫だよ。私だって、まだ死にたくない。生きていたい。


「その子の名前は未来(みらい)!!」


 そう言い終わるや否や電車の扉が閉まる。


「ふひひひひひ!これでもう逃げられないなぁ…!ひひっ…ひひひひひっ…」


 どうしてこんなことになったのだろう。と、後悔しても仕方がない。

 逃げるんだ。少しでも遠くへ。後ろの車両へ。次の駅に止まるまで!!

 おじさんも一緒に!


「あれ?おじさん?おじさん???」


「ひひひひひっもう死んでんじゃねぇのぉ?っひひ!」


 げしげしとおじさんの体を蹴りつける夫。それでもなお、動かない。


「そん…な…」


 髪の毛を強く上に引っ張りあげられる。


「うっ!!」


 嫌だよ、まだ、


「まだ死ねない!!!」


 私は後ろの車両へと走り出す。が、しかし肩を持たれ、前の車両の方に弾き飛ばされる。

 それなら前の車両へと!


「ふひっ」


 連結部へと飛び乗るが、そこでお腹を撃ち抜かれた。


「うぅぅぅう…あ!!!」


痛い、と言う言葉では表せない痛み。尋常ではなかった。


「でも!!あの子を産んだときの方がもっと痛かった!!」


 こんなただのいたみ!!

 前に進もうと連結部の扉のドアを開けようとする、が、今度は腕を撃ち抜かれた。


「─────ぁぁぁあっっ!!!!」


 痛くなんか…

 自然と涙が零れる。泣かないようにしていたのに。この涙は後悔からか?痛みからか?私のせいで、色々な人が傷付いてしまったことからか?


「166666!!!+$;…+$;…!!!^>>>>!!!!」


 もう夫が何を言っているのかわからなくなってしまっていた。


「%€%…♪2…;…!!66666!\46…♡\×…2…!!!+$+$+$+$+$+$!!!」


 銃弾も何発撃たれたのか分からない。もう痛みすら感じない。何も聞こえない。何も見えない。あぁ、死んだのか。せめて、せめて最期に…

あの子の笑顔を…


──────────


 あの日電車で起こったこと。

 それがこれだ。

 幸子は自分の人生を原稿用紙一枚にも満たないと言ったがそんなことはない。必ずしも人は物語の主役足り得る存在なのだ。一枚なんかじゃ終わらない。

 それが喜劇でも。悲劇でも。

 これは五両目での出来事。宇宙たちが入ったのは四両目。

 四両目の人々が怯えていたのは四両目と五両目の連結部で起こった出来事が原因。窓にはきっとたくさんの血が付いていただろうと思う。

 うむ。

 また語ろう。宇宙に関係あるかもしれない、あるいは関係のない話を。


To be continue.

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

 ちょっと長かったかと思われるのですが、全部読んでくれた人は本当にありがとうです。

 次話は、まだ作ってないです。次回はカイナ・テールの父親が出てくる予定でございます!

 来週までには投稿させていただきますので!

 あ、ハッピーハロウィン。

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