2日目【後半】ファーストなコンタクト
道を見つけ大喜びだった彼ら。だが洋平はすぐに落ち着きを取り戻し2人に言った。
「道が見つかったのはいいんだけど、そもそも言葉は通じるのか?それに、ここがどこかわからない時点で、迂闊に人と関わるのは危険なんじゃないか?」
慎二が答える。
「まぁ、身振り手振りとかでさ、ほら、意外と通じるじゃん?フィーリング的な?ね?」
「お前さぁ…」
慎二の余りにも危機感のない返事に洋平は呆れた。その場を纏めるように沙織が言う。
「まぁ様子を見ないことには始まらないわよね。一旦そこの藪に隠れましょ。」
30分ほど経っただろうか。やはり元気なふりをしていたのだろう、少し落ち着いた慎二は居眠りを始めてしまった。同じく沙織も疲れがどっと襲ってきたのだろう、その場にしゃがんだままねむってしまった。だが洋平だけは、全く眠くならなかった。落ち着き考えることにより、妄想が始まってしまったようだ。まぁ、憧れの異世界転移だ。無理もない…のだろうか。彼の状況理解と受け入れの速さは、さすが主人公といったところだろう。そして彼が異世界転移と言えば国家権力だよなぁと考えていた時、ガタガタと馬車の様な音が聞こえて来た。
「おい2人とも!起きろ!誰か来るぞ!」
2人はハッと目を覚まし急いでその場に伏せた。
すると、豪華な装飾が施された、いかにも貴族が乗っていそうな馬車が現れた。鞭を打っている護衛の兵士もまた、豪華なレリーフ入りのフルプレートアーマーを身にまとっている。
馬車はもう目の前を通り過ぎようとしていた。
その時。
「*********!」
中から女性の声が聞こえ、馬車は3人の前で急停止した。もちろん3人は言葉の意味を理解していない。そして護衛の兵士の1人がこちらに向かって来て
「****」
何かを呟く。すると
「そこの3人、いるのはわかっている。危害は加えないから、出てきなさい。」
と、3人がいる方に話す。すると慎二が
「ほらな、やっぱ人間同士じゃん?悪いようにはされないって!」
と言い、出て行ってしまった。
「おい待てよ…くそっ。なんでこうなるんだよ」
「ちょっ、2人とも!」
慌てて2人が慎二に続く。すると兵士が言う。
「素直な子達でよろしい。こちらに来たまえ。」
2人がおどおどしているのをよそに、慎二だけがにこにこしている。言われた通り馬車に近づいていくと、中から袖などに装飾の施してある、いかにも高名な魔術師、な雰囲気を纏った、長い銀髪のの美しい女性が馬車から降りてきて、3人に向かって話し始めた。
「どうも皆さん。初めまして。私はシルヴィー・ワイズストン。今あなた達が話した彼はセドリックよ。いきなり怖い思いをさせてごめんなさいね。怯えなくてもいいわ。」
3人は不思議そうな顔をしてとりあえず会釈した。
シルヴィーは続ける。
「みたことのない服装、黒っぽい瞳と髪、顔つき、翻訳魔法を使っていない兵士が言葉を理解していない事から察するに、ここの世界の子ではないわよね?」
洋平が返す。
「は、はぁ。あいにくなんですが、僕達もまだいまいち状況を飲み込めていないんですが…やっぱりここは、地球ではないんですか?」
「地球…あなたたちのいた世界は、地球と言うのね。そうよ。ここはその地球ではなく、果ての迷宮63階層、レリカよ。」
3人は思わず首をかしげる。まぁ、そうなるな。
「そうなるわよね。まぁとにかく、ここはあまり安全ではないわ。馬車に乗って。」
シルヴィーの言われるがままに、3人は馬車に乗る。すると馬車も走り始めた。
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「さて、そろそろ落ち着いたかしら。まずは説明をするわね。あなた達が今いるここは、巨大なダンジョンの中なの。なぜダンジョンの中なのかっていう話は、また今度するわね。で、ここはダンジョンの63階層。ダンジョンは全部で154層あると言われているわ。そして154階層を突破した時、人々に真の自由が訪れるっていう言い伝えがあるのよ。けど、300年前、私たちのご先祖様はあまりにも平和で安定していたこの63階層で満足してしまったの。それから上の層へと進もうとする人達も少しずつ減っていき、今に至るの。けど近年、資源の不足が少しずつ発生していてね。64階層を目指すべきだという声がすごく大きくなってきて、協会もこの声を無視できなくなった。あぁ、協会っていうのは最高権力のことね。協会によってこの国、いや、この世界は統治されているの。
もちろん派閥間での権力争いもあるけれどね。それで、64階層を目指すための政策の一環として、究極の召喚魔法、異界人召喚を復活させたの。そしてその召喚魔法よって私たちの問題に巻き込んでしまったのがあなたたちよ。ただ少しこの魔法には問題があったの。それは、召喚の詳細が決められないということ。つまり、細かい事までは決められないの。召喚する人数や性別、召喚する場所、もちろん、才能もね。ただ協会は場所に関しては、召喚された異界人は惹かれ合うから問題ないと言っているわ。実際どうなのかは、あなたたちに聞いてみないとわからないけどね。あぁ、それと召喚する年代は星占いで決めるのよ?あなたたち、2000年生まれよね?これは私はよくわからないのだけど、縁起がいいらしいわ。あら、ちょっと一方的に話し過ぎてしまったわね…ここまでで質問はある?」
シルヴィーはどうやら話がすごく長いタイプの人のようだ。だがポカンとする3人を見て察したのだろう、シルヴィーなりの気遣いだ。
そこで洋平が質問する。
「ダンジョンを攻略する。というのはわかったんですが、どうして僕らを召喚する必要があったんですか?」
シルヴィーは待っていましたと言わんばかりに答える。
「気になるわよね!えーと、召喚魔法っていうのは、別の地点に存在する物を魔法によって転移させるものなんだけど、この時に不可思議な現象が起きるの。」
「不可思議な現象?」
3人はまた首をかしげる。
「えぇ、召喚されたものは、召喚される前とは別のものになってしまうの。そしてその現象は生体に対して強く発現するから、その効果を上手く利用して、召喚術が行われるの。だから召喚術で召喚した魔物は普通の魔物より強いのよ。ただ、召喚できたからと言ってうまく召喚獣と戦えるとは限らないわ。まぁそこは術者の人柄やセンスに左右されるわね。だから心配はいらないわ。私たちはあなたたちに無理矢理命令をするようなことはできないわ。それと、召喚の際に上昇するの能力の大きさも、元の能力に比例するの。だから総合的に能力の高い人間を召喚するってなったんだと思うわ。それから…」
「開けますよー!」
初めて聞く声だ。気がつけば馬車は止まっていた。シルヴィが扉を開けると、教会の神父さんのような服を着たおじさんがこちらを覗き込んで来た。
「これはどうも、シルヴィー様。こちらの方々は一体…」
「気にしないでくれ。協会に頼まれてな、少し客を連れて来た。」
シルヴィーはそう言うと、免許証のようなものを提示した。
「はい、確認しました。どうぞ。」
神父さんのような人がそう言って門を開ける。
するとそこには、活気溢れる城下町のような街が広がっていた。
「ようこそ、わたしたちの安全地帯へ!」
そうシルヴィーが手を広げて言う。
が、意外と空気の読める女、シルヴィーは彼らの顔を見て察した。
「そうだな、今日は色々疲れたろう。続きは明日だ。宿を紹介するから、今日はそこで休みなさい。じゃあ早速こっちに来てくれ。そこに青い看板が見えるだろう。それが宿屋だ。今日はお疲れ様。ゆっくり休んでくれ。」そういってシルヴィは3人に翻訳魔法を記憶した棒のようなものを5本ずつと、紹介状を3人にわたし、宿屋の前で降ろした。
「じゃあまた明日宿を訪ねるから!宿にいておいてくれよー!」
そう大声で言いながら手を振って、シルヴィーは人ごみに消えて行った。3人は訳も分からない。
なんせいきなりよくわからない説明をされ、飲み込めないまま降ろされたのだ。
「まぁ、とりあえず宿に入る?」
洋平が言うと
「そうだな、もう俺眠てーよ。限界。」
眠気で一気に大人しくなっていた慎二はそう言いながら宿屋の扉を開ける。
カウンターには翻訳石なるものが置いてあり、言語に関してはあまり苦労しなかった。だが彼ら、いや、彼女、沙織はすごく困った。
「私も同室なのね…男2人と同室とか恐怖でしかないけど、この際文句は言ってられないわね。あんたらはベッドで寝ていいから、私はこっちで寝るわね。」そういいながら、沙織は境界線を引く。
「小林、俺たち、一夜を共にした仲だろ?何の問題があるんだ?」
にやけながら慎二が言う。
「程々にしとけよなぁー」
洋平が牽制する。そんなくだらないことを話しながら森でとってきた果物を食べ、2人は眠りについた。まだ外は少し明るかったが、彼ら本当に疲れていたのだ。無理もない。洋平も、
(考えるのは明日にしよう。もう疲れた。)
そう思い、眠りについた。途方のない不安も、僅かに抱いた希望も、疲れと眠気には勝てなかった。
2日目後半です。次回もまだまだ導入が続きそうですね…お付き合いお願いいたします_(:3 」∠)_