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血濡れた恋  作者: つよちー
6/15

第六話「同じ運命を辿る」

【前回のあらすじ】

別の町でやり直す決意を抱いたジャック。そしてエミは約束通り町へ帰った。しかし、彼女はジャックの元を再び訪れた。その彼女は酷く悲しく泣いていた。

目の前で泣くエミの姿を見て困惑した。何か声をかけようと思った瞬間、彼女は俺に抱きついてきた。強く抱き締め、子供のように泣き噦り、嗚咽を漏らして体を震えさせていた。こんな姿でひたすら泣いている彼女を見ていると、頭の中が混乱する。何も出来ないまま、彼女が泣き止むのを待った。彼女に何もしてやれない自分が嫌になった。


しばらくすると彼女は落ち着いた。ただ静かに暖炉の側の椅子に座っている。コップに水を入れ、彼女に渡した。彼女がそれを受け取ると、俺は中断した料理を再開した。何故泣いていたのか。何故戻ってきたのか。それが気になって仕方がなかった。そして彼女に戸惑いながらも

「一体....何があったんだ?辛いなら....言わなくていい」

と質問した。彼女は答えずにただ俯いて黙り込んでいる。彼女の返答をただ待っているとスープが出来上がってしまった。一人分しか作っていなかったせいで少ないが、半分に分けて彼女に渡した。彼女は器を受け取るが口にしなかった。そこで前髪に隠れていた彼女の顔が露わになった。全てを諦めたような枯れ果てた顔をしていた。俺はただ彼女が話すのを待った。そしてようやく彼女は話してくれた。そしてそれを聞いて後悔をした。

「家に帰ったら、お母さんが殺されていました。そしてそのすぐ後に警備隊がやってきて、私は何故かその場から逃げ出してしまいました。それでジャックさんの家に来ました」

小さな声で話す彼女の頬に涙が流れていた。悲しみが伝わり、胸が苦しくなった。そっと彼女の側に寄った。彼女は俺に抱きつき、静かに泣いた。彼女の頭に手を乗せ優しく撫でる。どうして罪の無い彼女にこんな残酷な運命を辿らせるんだ。どうしてこんな辛い目に遭わせるんだ。どうして生きる気力を失わせるんだ。彼女にとっての心の拠り所はもういない。俺と同じになってしまった。


「ジャックさん、遠くの町でやり直すって言ってましたよね」

スープを食べ終わった頃に彼女がそう言った。

「ああ、そうだな」

「私も一緒に行ってもいいですか?お荷物になると思いますけど....嫌なら断ってくれても構いません」

そう言って彼女は俯いた。服の端をぎゅっと握っている。断られたくないという思いが手に取るように分かる。俺は彼女の頭を軽く叩いた。

「馬鹿か。断る訳ないだろ」

そう言って小さく笑うと彼女は安心したように笑った。

「ありがとうございます」

彼女の表情は初めて出会った頃とは全く違う表情だった。全ての表情に悲しみが混ざっているような、そんな表情だった。俺が両親を殺されて間もない頃は、彼女と同じような顔をしていたのだろうか。俺はどうやってこの悲しみを乗り越えたんだろう。いつの間にか悲しみという感情に慣れて薄れて分からなくなってしまったのだろうか。だから俺は人を殺しても悲しまないのか。そう考えると、気持ちが暗闇の底に沈んでいくような感覚に陥った。

「ジャックさん、もうすっかり夜なので寝ましょう」

彼女にそう声を掛けられて我に返る。

「ああ、そうだな....」

彼女はベットに座る。俺は毛布を手に取り、床に寝転がろうとしたら、彼女は俺の手を掴んだ。

「どうした?」

そう聞くと彼女は少し恥ずかしそうに目を逸らす。そして戸惑いながらも俺の目を見て

「一緒に寝ませんか....?」

と言った。俺はその言葉に呆気に取られ、すぐに反応できなかった。何がなんだか分からず戸惑っていると、彼女はムッと俺を睨んで無理矢理ベットに引き寄せた。

「お願いします....」

彼女の切ない表情を見て断れなくなった。

「....わかった」

彼女のすぐ隣に寝転び彼女に背を向けた。こんな状況で彼女の顔なんか見れない。さっさと寝ようと目を閉じると背中を暖かさが覆った。彼女が俺を抱き締めている。心臓の鼓動が激しくなり気持ちが落ち着かない。

「ジャックさん....」

「....な、なんだ?」

「こっちを向いてください」

心が焦る。何故彼女が俺にそんなことを求めるのかわからない。

「なんでだよ....」

「寂しいんです....」

寂しい、その言葉で俺の中の羞恥心が消えた。彼女は家族の暖かさを忘れたくないんだ。そしてその代わりを俺に求めている。俺を心の支えにしようとしている。俺は深く息を吸って吐いた。気持ちを落ち着かせる。俺を抱き締める腕をそっと解き、体を回転させて彼女と向かい合った。彼女の顔がすぐ目の前にある。彼女の息遣いが肌に伝わるくらい近い。月光に照らされた綺麗な瞳を見つめる。すると彼女は

「自分から寝ようって言ったのに全然眠たくないです」

と笑った。俺は、そうだな、と言って彼女と一緒に笑った。

「これからも一緒に寝ていいですか?」

微笑みながら俺にそうお願いをしてきた。その笑顔には寂しさが混じっていた。その寂しさが家族への愛を表している。断る理由はない。俺はすぐに頷いてそのお願いを承諾した。すると彼女は嬉しそうに俺に礼を言って抱きついてきた。その行為に驚いたが、少し戸惑いながらも彼女を抱き返した。彼女の傍にいたい。守りたい。そういう想いがどんどん強くなっていく。この気持ちはいったい何だろう。

最後まで読んでくれてありがとうございます。

エミのお陰でジャックは変わっていってますね。エミは彼と同じ残酷な運命を辿ることになりますが、彼とは違うところは孤独ではないというところ。しかしジャックは彼女にとって自分がとても大切な存在ということを自覚していません。

感想や指摘など頂くと嬉しいです。

続きを楽しみにしてくれると更に嬉しいです。


これらに登場する人物、地域、団体は全てフィクションです。


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