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血濡れた恋  作者: つよちー
3/15

第三話「つけが回る」

【前回のあらすじ】

エミと過ごし次第に心を許していくジャック。戸惑いながらも彼女と時間を共にし、憧れていた当たり前を少しずつ実感していく。

朝食は昨日食べた夕食のスープにパンをつけた物を食べた。彼女のおかげで、少しだが普通の暮らしが出来てると思う。朝食を食べ終えた後、しばらくするとエミが不満そうな顔で俺を見つめる。

「....なんだよ」

「ここには本が無いんですか?」

「本はないけど....」

「買ってきてください!」

「え....」

唐突なお願いに戸惑う。彼女は読書が好きなのか。俺はいつも暇があれば寝ていたからそんなこと気にしなかったが。金はないからいつも通り盗んでくるしかないか。このいつも通りを変えたい。非合法ないつもはいらない。

「わかった....買ってくるよ」

「ありがとうございます。私はお留守番しておきますので」

「そ、そうか....」

コート着て、彼女にバレないようにナイフを懐に隠した。念のためだ。

「じゃあ行ってくる」

「いってらっしゃい」

彼女はそう言って俺に手を振る。家を出るときに誰かが見送ってくれる、その状況を不思議に感じた。扉を開けると、冷気が一気に中に入ってくる。外へ出て扉を閉める。相変わらず雪が降っている。町には数十分歩けば辿り着く。空の袋とナイフを持ち、町へ向かう。


適当に本を何冊か盗み、さっさと町から抜け出す。今回は運よく警備隊と遭遇せず、ナイフを使わずに済んだ。毎回運が良ければいいのだが。まあ現実はそう甘くはないな。何事もなく無事に家に着いた。扉を開けた瞬間家の中の暖気が出てきた。

「おかえりなさい!」

エミが笑顔で出迎えてくれた。中に入り扉を閉める。彼女に本が入った袋を渡した。

「わあ、こんなにたくさん買ってきたんですか?」

「まあ俺も読もうと思ってな」

「じゃあ一緒に読みましょうよ!」

「え....」

「楽しいですよ。一緒にどうですか?」

「まあ、いいけど....」

そう言うと彼女は嬉しそうに笑った。すると彼女はさっそく袋から本を一冊取り出した。

「はやくそこに座ってください」

「あ、ああ....」

彼女に引っ張られて一緒にベットに座る。彼女も俺の隣の座った。そして俺と彼女の間に本を置いた。

「この本読みましょう」

そう言って彼女はページをめくる。そこに書いてある文章を読み始めた。彼女の朗読には物語の世界に入り込むような臨場感があった。そして聞いていて心地がいい。母が子供に歌う子守唄のように、気持ちが夢の世界へと消えてしまいそうだった。

「あの....ちゃんと聞いてます?」

「え....ああ、すまん」

心地のいい朗読に夢中になって内容を把握できていなかった。

「じゃあもう一回読みますよ?」

彼女はもう一度最初から読み始めた。


気が付けば外の景色はもう暗くなっていた。彼女の朗読を止め、夕飯の準備を始めた。今日もいつものスープだ。面白みがないが、他に材料もないから仕方がない。でも彼女は美味しそうに食べてくれた。食べ終わると彼女は

「読書の続きをしましょう」

と言ってまたベットの上に座った。彼女の隣に座り、さっきと同じように朗読を始めた。半分ほど読むと、俺は彼女に

「俺が読むよ」

と言って朗読を止めた。

「わかりました」

俺はそっと彼女から本を取り、彼女と同じように間に置いて開いた。そして朗読を始めた。不慣れな部分が出たが、彼女のような心地の良い朗読を意識して読んだ。彼女と同じように読めているだろうか。俺と同じことを彼女は感じてくれているだろうか。

「ジャックさん、読むの上手です。聞いていると本の世界に入っちゃいそうですよ」

途中で彼女がそう言ってくれた。

「そうか、お前も聞いてて心地がいいぞ」

そう言い返すと彼女は少し頬を赤らめて驚いた。そして俯いて恥ずかしそうに

「ありがとうございます....」

と言った。彼女も俺と同じことを感じていてくれて安心した。もっと読んでみたい。そう思って彼女と一緒に読書を続けた。夢中になりすぎてそのまま読み切ってしまった。そのおかげですっかり真夜中になってしまった。彼女も眠たそうに虚ろな目をしている。

「もう寝ようか」

「はい....」

彼女はベットに寝転がり、俺の方を見て笑った。

「楽しかったです。また機会があれば....一緒に読書しましょう」

「ああ、そうだな....」

そして彼女は静かに眠った。俺も暖炉の側で毛布を被って眠った。


外から微かに足音がする。誰かがこの辺りを彷徨いている。もう一度耳を澄ます。足音が複数聞こえる。少なくとも二人以上はいそうだ。体を起こし、ナイフを手に取る。窓から外を覗く。真っ暗で何も見えないが、確実に誰かいる。コートを着て扉を開けようとすると

「....ジャックさん?」

と声がした。エミが起きてしまった。

「どうしたんですか....?こんな夜中に....」

俺は彼女の側に寄り

「誰もこの家に入れるなよ」

と言った。彼女は訳が分からないように首を傾げたが、頷いた。再び扉を開け、外へ出た。徘徊している連中を探しに周辺を彷徨う。ナイフを構え、いざというときのために備える。数分探しても見つからなかった。ただの通りすがりだったか。そう思って家へ帰ろうとしたら、積もった雪に数人の足跡が俺の家へと続いていた。最悪の事態を頭の中で過ぎった。俺は急いで家へ戻った。足跡は逸れることなく俺の家へと向かっていた。扉を勢い良く開ける。三人の男がいた。一人の男がエミを抑えつけ、残りの二人はそれを眺めていた。その光景を見た瞬間、三人の男に対してこの上ない殺意が湧いた。ナイフを握りしめ男達と睨み合う。頭の中でイメージする。エミを押さえつけている奴を殺るにはまず二人の男達を殺らなくちゃいけない。だが、男達を相手にしている隙に不意打ちをくらう可能性がある。あるいはエミを人質にとられるか。そうならないように手っ取り早く終わらせよう。二人の男と向かい合う。そして俺から攻撃を繰り出す。男は俊敏な俺の動きに反応できずに俺に首をナイフで突き刺された。ナイフを引き抜くとそこから大量の血が溢れ出た。そのまま男は倒れた。もう一人の男は既に俺に襲いかかろうとしていた。その攻撃をすばやく避け、胸部にナイフを突き刺し、そのまま腹に向かって切り裂いた。男は吐血し、さっきの男と同じように倒れた。家中に血が流れる。エミを押さえつけていた男を見ると、エミの首元にナイフを押し付けていた。少し遅かったか。エミを人質にされてしまった。エミは恐怖の表情を浮かべて怯えきっていた。

「おとなしくしねえと、こいつを殺すぞ!」

男が俺にそう脅しかける。エミが死ぬのは最悪の結末だ。彼女は死ぬべきではない。どうすればいい。頭の中で必死に考えを巡らせる。

「お前、あの賞金首だろ」

その言葉を聞いた瞬間、俺の体は固まった。

「ジャックさん、どういうことですか....?」

彼女には知られたくなかった。俺は俯いて黙り込む。

「知らないのか?こいつは両親を殺した凶悪な殺人鬼だ。それだけでなく町では何度も盗みを働いて警備隊に重傷を負わせたりしてんだ」

「....ジャックさん、嘘ですよね?」

嘘であってほしいという願いを俺は踏み躙ってしまう。ただ何も言えずに、沈黙する。

「そのナイフを置いてこっちに蹴って寄こせ。そうすればこいつは見逃してやるよ」

この状況だと、それが一番だろう。俺はナイフを足元に落とし、それを男に蹴って渡した。男はにやりと笑うとそのナイフを拾おうとした。エミの首元に当ててあるナイフが離れた。これがチャンスだと思い、一気に男に向かって飛び込んだ。しかし何かが足に引っかかりその場で倒れてしまった。誰かに足を掴まれた。振り向くと、さっき腹を引き裂いた男が俺の足を掴んでいた。しくじった。もっと確実に殺しておけばよかった。時間をかけないためにやったのだが、エミが人質になるのなら首を刺して殺しておけばよかった。タフな奴だ。腹に思いっきり重い蹴りが入った。中の内臓に衝撃が走り酷く咳き込んだ。仰向けになり、男に顔面を数発殴られた。口の中が切れた。苦い血の味が口の中に広がる。男は俺の上に乗り、ナイフを突き立て俺の胸元に当てた。このままこいつが俺の体に入り込んで、死んでしまうのか。よく考えたら、俺はいったい何のために生きていたのだろうか。ただ死にたくないと思っていたがそれは本心なのか?この悲惨な人生をやり直したいとずっと願っていた。なら、死んでしまえばいい話だ。生きる価値のない俺なんか生きてるだけで他人の邪魔にしかならない。俺は目を閉じて、死を覚悟した。胸元に当たっていたナイフの先端が離れる。そして俺の体から重みが消えた。目を開けると、エミが男の脇腹にナイフを突き刺していた。男はそのまま生き絶えた。

最後まで読んでくれてありがとうございます。

生きるためなら人を殺してもいい、というのは間違っていますが、そう思わないと生きていられない彼はずっとこの辛い人生から逃れたかったのでしょう。

感想や指摘など頂くと嬉しいです。

続きを楽しみにしてくれると更に嬉しいです。


これらに登場する人物、地域、団体は全てフィクションです。


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