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血濡れた恋  作者: つよちー
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第二話「普通の暮らしのように」

【前回のあらすじ】

両親を殺害した濡れ衣を着せられ賞金首となっている男、非合法に生きる彼の元に現れたのは親の虐待に耐え切れずに家出した素性の知れない少女、エミ。彼は少女に対して警戒心を抱くが、彼女の言動行動を見て次第に信用していく。


【注意】

この小説には残酷な描写が含まれています。

スープが完成した。器に注ぎ入れエミに渡した。

「ほら、できたぞ」

彼女は器を受け取り笑顔で礼を言った。普通の暮らしをしていた彼女にとって、このスープは美味しいのか美味しくないのか気になり、彼女をずっと見ていた。彼女は片手で器を持ち、もう片方の手でスプーンを持つ。そしてそれでスープを掬い、口にゆっくりと運んだ。

「....美味しいです」

その言葉に少し喜びを感じた。

「そ、そうか....」

心の中で安堵し、自分の器にもスープを注ぎ入れた。食べ慣れているせいで美味しいとは思えなかった。でも、彼女が美味しいと言ってくれたことが嬉しかった。こうして誰かと一緒に食事をするのは何年振りだろうか。少し懐かしさを感じる。こんな運命を辿っていなければ、今頃家族と幸せに暮らしているのだろうか。

「どうしたんですか?」

彼女に突然そう聞かれ何のことか分からずに戸惑う。

「え、何がだ?」

「なんだか寂しそうな顔をしていたので」

「そうか....まあ、気にしなくていい」

顔に出ていたか。誰かが近くにいると、気付けなかったことに気付く。彼女は何故出会ってまだ数時間の俺に心配をするのだろう。これが普通なのだろうか。もしそうなら、俺もそんな人間になりたい。普通の人間として生きていたい。スープを飲み干し、器を片付ける。彼女もちょうどスープを飲み干し、俺はそっと彼女の前に手を差し出し、彼女は俺に空になった器を手渡した。食器を洗い布巾で水を拭き取り食器入れに蔵う。

「あの....」

躊躇いがちに彼女は俺に声をかける。

「....お話しませんか?」

「は?」

「いやえっと、三日だけですけどお互いのこと知っておいた方がいいかなって思いまして....」

「ああ、そういうことか」

そう言って彼女に向かい合うように座った。お話か。その言葉が何だか面白く感じた。長い間、誰とも会話を交わしていなかったからだろうか。

「で、何が聞きたい?」

「お名前、教えてください」

そういえば自分の名前を名乗っていなかったな。そう思い自分の名を口にしようとしたが、それは出てこなかった。自分の名前を忘れてしまった。誰とも関わらずにずっと独りで生きてきたせいだ。そこでふと指名手配の貼り紙に載ってあった自分の名前を思い出した。その名前を名乗っていいのか思ったが、彼女はきっと知らないだろう。

「....ジャックだ」

「ジャック....かっこいいですね」

彼女は笑顔でそう言った。

「歳は幾つなんだ?」

「十五歳です。ジャックさんは?」

「俺は....二十歳」

「いつからここで暮らしてるんですか?」

「二年前くらい。好きな食べ物は?」

「苺です」

「苺?あの高価な果物か?」

「はい。もう何年も食べてませんけど」

「そうか....」

「ジャックさんは何が好きですか?」

「....特にないな」

「えー、面白くないです....」

「....えっと、林檎かな?」

「林檎、美味しいですよね」

その後は会話が弾んだ。次第に眠くなってきても彼女は会話を途切れさせなかった。だが、彼女にも限界が来たようで、彼女も次第に会話が途切れてきた。

「眠いならもう寝ようか」

「そうですね....」

そう笑って目を擦る。

「そこのベットで寝てくれ」

「はい....」

彼女はのそのそとベットに寝転んだ。どれだけ彼女と話していたんだろうか。雪も止んでいた。大きく欠伸をして近くにある毛布を手に取る。

「ジャックさん....」

小さな声で彼女に声を掛けられた。

「なんだ?」

「お話できて楽しかったです」

虚ろな目で俺を見ながら微笑んだ。そして彼女は静かに眠りについた。誰かとこんなに話したのは初めてだ。楽しかった。床に寝転び毛布を被る。床は冷たく、身体の体温をじわじわと奪っていく。暖炉の火も弱くなり、部屋を仄かに照らしている。目を閉じる。意識は現実から遠退いていき、夢の中へ消えていった。


「ただいまー」

両親の声が聞こえてこない。静寂が家を包み込んでいる。出掛けているのかなと思いながら家中を歩き回る。ある部屋に近付いて行くに連れて、聞いたことのない音が大きくなっていた。何かが潰れるような鈍い音。そして謎の異臭も。両親の寝室の扉が中途半端に開いていた。鈍い音もこの先から聞こえてくる。そっと扉を開けると見知らぬ男が両親を切り刻んでいた。一面に広がる血溜まり。両親の血に塗れバラバラになった無惨な姿。見知らぬ男の狂気を感じる笑み。男は俺を見ると、不気味に笑った。男は身体中血だらけだった。ゆっくりと俺に近付いてくる。俺は動けなかった。そしてそっと俺の手を取り、男が持っていた血塗れのナイフを握らせた。そして男はその場を立ち去った。俺は状況は把握できていたが、身体がぴくりとも動けなかった。震える足でゆっくりと両親だったものに近付く。現実味がないその光景を床に広がる血溜まりの生暖かさが俺に知らしめる。部屋は両親の血に染まっていた。いつも真っ白な床と壁、天井は血に塗れていた。天井から血が滴り落ち、壁には血が流れ落ち、それが床に血だまりとなって広がる。不気味な光景だ。幼い頃にこんな光景を見たのかと考えると、背筋が凍る。玄関の扉が開く音がした。複数人の足音が廊下から響き渡ってくる。俺は握っていた血塗れのナイフを慌ててその場に捨て、窓を開けて逃げ出した。


夢から覚める。たまに見る俺の人生が狂った記憶の夢。忘れたいのに、頭に深く切り刻まれたように忘れられない。窓の景色を眺める。薄暗く、まだ朝にはなっていなかった。エミはまで寝ている。彼女のように、生きてみたい。一日だけでもいいから、過去を忘れて、普通に暮らしてみたい。でも、そんなことを願うだけ無駄。深く溜め息を吐く。やることがなくて暇な時間をただ過ごしていた。一時間を経ったと感じた辺りでエミが目を覚めた。実際は十分も経っていない。

「おはようございます....」

眠たそうに目を擦りながら体を起こす。俺はそれに適当に返事を返した。

「朝ごはん、出来てますか?」

その言葉を聞いて、朝食という概念を思い出した。今まで夕食しか食べていなかった。そこで俺の中の習慣が人とずれていることに気付いた。

「今作るとこだ....」

「そうですか」

普通の人間になるのなら、まずは自分の生活から正さないとな。盗みや殺人を犯している時点で普通も糞もないが。今は気にするだけ無駄だな。立ち上がって暖炉の火を焚く。

最後まで読んでくれてありがとうございます。

主人公の名前はジャックです。彼にもきちんと真名がありますが、彼はそれを覚えていません。そして、彼の真名を知る人もいません。名前がないのはとても辛いことだと思います。ジャックは賞金首の名前を名乗っているので、内心はどんな気持ちなんでしょうね。名前がある有り難みを忘れないように。どんな名前でもそれは自分を示す言葉の中の大事な一つなんですから。

(良いこと言ってるような言ってないような)

感想や指摘など頂くと嬉しいです。

続きを楽しみにしてくれると更に嬉しいです。


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