第一話「当たり前を願う」
皆さん、お久しぶりです。初めましての方は初めまして。前作『この恋を叶えるために』という恋愛小説を書いていたつよちーです。今回から『血濡れた恋』という恋愛小説を毎日投稿していきます。舞台は昔の西洋ですが、実在する建造物や町、歴史上の出来事や人物は出てきません。仮に出てきたとしても関連性は一切ございせん。なので詳しく言うと舞台は西洋っぽい異世界となりますね。最後まで読んで頂けると幸いです。それではどうぞ。
【注意】
この小説には残酷な描写が含まれています。
幼い頃、俺は両親を殺された。そしてその濡れ衣を着せられ、まともに生きることが出来なくなった。普通の人達のような、当たり前の生活が出来なくなった。生きるために、盗みを働き、邪魔になる人間を殺したりした。それで何とか生きてきた。非合法生き方は手慣れたが、好きになれない。なれるわけがない。むしろ、そういう生き方は嫌いだ。普通の人のような、まともな暮らしがしたい。夢でもいいから、この悲惨な人生をやり直したい。
袋一杯に食料や道具を入れて、倉庫から出る。その途端、警備隊二人に見つかった。
「逃亡者十七番だ!捕まえろ!」
俺は全速力で走った。荷物を抱えながらだと走りにくい。だが、こんなところで捕まるのはごめんだ。そう思い走り続けたが、どれだけ走っても振り切れない。鬱陶しいくらいに追ってくる。ここは一か八か。俺は足を止め、警備隊と向き合った。袋を置き、ナイフを取り出す。警棒を俺の頭を目掛けて大きく振り下ろしてきた。それをすばやく避けて警備隊の足にナイフを刺す。そしてバランスを崩した警備隊の体に体当たりし押し倒した。その瞬間もう一人警備隊がさっきと同じように警棒を振り下ろしてきた。体制が悪く避けるのは困難だと考え、警棒を上手く受け流した。そしてすばやく足を蹴り転ばせる。倒れた警備隊の頭を思いっきり蹴り、気絶させた。二人を動けなくし、置いた袋を背負ってその場から逃げた。しばらく走ると町から抜け出せた。ここまで来れば安心だ。そう思い走るのを止め歩く。帰り道にある川で、血の付いたナイフを洗う。血を洗い流し、服で拭いて鞘に入れた。しばらく歩くと雪が降ってきた。ここはずっと雪が降っている。そのせいで地面はいつも白い。空はいつも厚い雲で覆われている。青空なんて滅多に見ない。森の中を進み自分の家を見つける。扉を開けて中に入る。外と温度差が全くない。家の中でも息が白くなる。暖炉に火をつけ部屋と冷めた体を暖める。この家を見つけたのは二年ほど前のことだ。それまでは雪に吹かれない場所で野宿をしていた。この家を見つけた時は本当に嬉しかった。毎日寒さに怯えながら過ごす必要がなくなったからだ。ある程度部屋が暖まってきたら、暖炉に薪を数本入れベットに寝転んで眠りについた。
外から聞こえる小さな足音で目が覚める。賞金首の俺はいつ襲われてもおかしくない。そのせいで眠りは常に浅い。その足音はどんどんこの家に近付いてくる。近くに置いてあったナイフを手に取り、扉の死角に潜む。足音は扉の前で止まった。ナイフを強く握り締める。確実に殺すために、頭の中でイメージを広げる。扉が開き、相手が入って来たら、首にこのナイフを刺し込む。しかし、扉は開かずトントンとノックされた。意外な行動に驚いたが警戒は緩めない。扉を開けた瞬間襲われる可能性がある。ドアノブに手を掛け、勢い良く扉を開けた。目の前に居たのは少女だった。俺に驚いて尻餅をついている。少女は俺が持っているナイフに目をやると、氷になったかのように固まった。俺はナイフを直し、少女に手を差し伸べた。
「驚かせて悪い」
少女は恐る恐るその手を取った。俺は少女の手を引っ張り立たせた。
「こんなとこで何してんだ?危ないからさっさと町に帰れよ」
そう言って扉を閉めようとしたが少女はその場から一歩も動かない。どうしたのかとその少女を見ていたら
「ここに泊めてください」
と言った。一瞬意味が理解出来ないくらい唐突なお願いだった。
「は....はぁ?」
少女の目を見ると救いを求める目をしていた。その目をまともに見ると、何だか胸が苦しくなる。
「とりあえず、中に入れ。外は寒い」
そう言うと少女はゆっくりと家に入って来た。他に誰か居ないかと周りを見渡し、扉を閉めた。少女は中に入ったもののどうすればいいのかと戸惑っている。
「そこに座ってもいいぞ」
と言って俺は暖炉の近くの椅子を指差した。彼女はそっとその椅子に座る。俺はその向かい側にある椅子に座った。
「それで....何であんなこと言ったんだ?」
少女にそう質問する。俯き黙り込む。長い沈黙の末、少女は質問に答えてくれた。
「私、その....親から虐待されて、それで、家出して来たんです....」
「虐待、家出....でも何でこんな町外れの森まで来たんだ?」
「それは....町の中だと、警備隊に見つかって家に戻されてしまうので....」
俺は少女に対しての警戒を解かない。罠の可能性もある。俺を狙う誰かが、この少女を利用しているかもしれない。でも、今のところ外から人の気配はしない。少女をこの家に泊めたくはないが、このまま帰すと厄介なことになり兼ねない。俺は深く溜め息を吐いた。やむを得ない。
「....分かった。三日だけだ」
そう言うと、少女の目に少しだけ光が灯り、そして笑った。
「ありがとうございます」
一見俺を狙う奴らに利用されているなんて到底思えない。だがこんなところまで来るのは少しだけ不自然だ。
「あの、お腹が空いちゃって....何か食べ物をくれませんか?」
「ああ....そこにある林檎でも食え」
そう言うと少女は礼を言い、立ち上がって林檎を手に取った。
「あ、すまん。そのままじゃ無理だな」
少女の前に手を差し伸べる。少女はそっと林檎を俺の手の上に置いた。ナイフを取り出して皮を剥く。
「すごいです。手先が器用なんですね」
するすると皮を剥く俺の手付きを楽しそうに見つめる。そういえば、名前を聞いていなかった。
「名前はなんだ?」
少女は唐突な質問に少し驚いたが優しく微笑んで
「エミです」
と名乗った。
「そうか。エミか....いい名前だな」
「あ、ありがとうございます....」
彼女がそう言ったと同時に皮を剥き終わった。食べやすいように一口サイズに切り、彼女に渡した。
「いただきます....」
と言って彼女はそれを口の中に入れた。
「美味しいです」
「林檎なら何でも美味いだろ」
そう言い返すと彼女は、そうですねと苦笑いしながら言った。家出をしてきたということは、虐待される前までは普通の暮らしをしていたということだろうか。少しだけそれに興味が湧いた。
「虐待される前は普通に暮らしてたのか?」
そう質問すると、彼女は悲しい顔をした。すると突然涙を流した。その顔を隠すように手で覆う。俺は驚きのあまり声が出なかった。
「ごめんなさい。気にしないでください....」
そう言って服で涙を拭う。彼女がなぜ泣くのかわからない。彼女にとって普通の暮らしとはそんなに良くないものなのだろうか。空気が重たくなる。ふと窓から外の景色を眺めると、辺りは暗くなっていた。
「晩飯作るから、とりあえず泣き止め」
そう言うと彼女は小さく頷いた。泣く理由を知りたいが、きっと聞かれたくないだろう。俺はそれを頭の隅に置いて晩飯の支度を始めた。
しばらくすると、彼女は静かになった。俺はたまに食べる。スープを作る。料理を始めたのはこの家を見つけて間もない頃だ。町で拾った料理の本を読み少し興味を抱いたのがきっかけだ。だが材料が多いのと、それを取るためにいちいち危険な目に遭うのはどうかと思い、あまり頻繁には料理はしていなかった。外はすっかり暗くなり、部屋から盛れる暖炉の光に照らされる雪しか見えない。部屋は暖かく、扉や窓の隙間から流れ込んでくる冷気を微かに感じる。ふとエミのほうを見ると、彼女はぐっすりと眠りについていた。疲れたのか。いったいどれほどここに辿り着くまでに彷徨ったのだろうか。暖炉の火は弱まることなく、この家を照らし暖めてくれる。彼女の冷えた体も、少しずつ暖める。いつも家には俺しかいなかった。今はエミという家出をした少女がいる。いつもと違うことがあるせいで違和感を感じる。まあ、三日経つかそれまでに慣れるかで消えるだろう。しばらく料理をしてスープも完成間近となった。
「すごく美味しそうですね」
突然背後から声を掛けられて驚く。いつも一人だったからこういうのには慣れていない。
「料理得意なんですか?」
チラッと振り返り彼女の顔を見る。とても興味津々な表情をしていた。すぐに前に向き直り質問に答える。
「さあな....町で暮らしてないから判断基準がわからん」
「きっと美味しいですよ。楽しみに待ってますね」
「そ、そうか....」
彼女に抱く警戒心が段々と緩くなっていく。この様子だと、俺を狙う輩に利用されてるとは思えない。彼女を信用してもいいかもしれない。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
主人公は悲惨な過去を背負っています。恋愛小説あるあるですね(笑)
何度も主人公に物を盗まれているのに町の警備は一向に変わっていないなんてどんだけいい加減なんだって話なんですが気にしないことにしてください(笑)
感想や指摘など頂くと嬉しいです。
続きを楽しみにしてくれると更に嬉しいです。
これらに登場する人物、地域、団体は全てフィクションです。




