詐欺師と勇者は親交を深める
「っで、それで、少年は国を追い出されたと。」
「そうなんだよ!酷いと思わない?勝手に召喚しといて君は他の2人より弱いからいらないなんて!」
「それは、酷い話だぁ。全くもってけしからん」
心にもないことを言いながら朝食であるダルマ卵のスクランブルエッグを口に運ぶ。
俺は旅の準備を37秒という驚異的なスピードで終わらせ、現在、とある喫茶店で軽くランチを楽しみながら少年の話しを聞いている。
少年の名前はコウキ・ヤマザキ。少年は14歳で、元いた世界では学生だったらしい。中学3年生とかいう身分?だそうだ。なんでも放課後に体育館と呼ばれる運動スペースでケンドウとかいうスポーツをしていたところ足元に転移門が開き無理やり召喚させられたそうだ。その時、少年の近くにいた友人2人も異世界に来たらしい。
その後、スキルなどの検査をした結果、少年は才能なしと見なされ、武術・体格にも恵まれず、友人2人に裏切られ、反論した結果不敬罪とされ挙句の果てに国外追放。
まー、なんというか。付いてない人生だな。それだけだ。同情はしない。なんたって俺はほんの数分前までコイツに殺されかけたのだから。
少年の旅の目的は元いた世界に帰ること。魔王は少年の友達……元友達に任せるそうだ。
俺は少年が元の世界に帰るまで少年の面倒を見ろってか?冗談じゃない。隙があれば俺は逃げる。こんなバカの面倒なんか誰が見るか。だが、少年の話しを聞き少年のいた世界に興味がわいたのは仕方がないことだろう。
「で、少年。お前の成り行きと旅の目的はわかったぁ。だが、元の世界に戻る手がかりでもあるのか?」
当たり前の質問だ。旅の目的があっても手がかりがなければお手上げだ。打つ手無しだ。
「フッフッフーー」
よくぞ聞いてくれました!みたいな顔でこちらを見ながら得意げに笑う少年は実に腹ただしいものであった。
「とりあえずは魔法と魔術の国『マーホイ王国』、古き歴史ある国『コンブ帝国』に行こうと思うんだ!」ドヤァ〜
まー、妥当だろうな。勇者召喚に使われる魔法陣は歴史ある魔術だ。マーホイ王国やコンブ帝国の図書館にでもいけばそれらしき文献があっても不思議じゃない。
「_____そして、そのあとは魔族領に入るんだ!」
「ハ?」
「そのためにまずは仲間集めかなっ!?」
「お、お前ぇ。一体何言って。魔族りょ……って、魔王は旧友に任せるんじゃなかったのか?」
「うん、魔王は友達に任せるよ。魔族領はあくまで保険だから。それよりもおじさんのこと教えてよ!」
「お、おう?」
少年の魔族領発言に久々に取り乱した。少年は魔族領の恐ろしさを知らないのか?逆に知ってる方がおかしいか。
さて、少年のことはなんとなくわかった。次は俺の自己紹介のようだ。だが少年甘いな。情報ってのは高く売れる。俺は自分の情報をたやすく喋るほどバカじゃない。俺はお尋ね者だからな。
「そうだな〜、少年。俺のことはもうおじさんでいい。歳は30前後だ。」
俺はこの後、嘘9割真実1割であることないことでっち上げた武勇伝を聞かせてやった。
なんだかんだ言って俺はこの少年を気に入ってるようだ。
「そこで、俺はこう言ってやったのさ___」
「お、おじさん。おじさんの武勇伝はもうわかったから……。」
「なんだぁ、そうか」
ついつい白熱してしまったようだ。
「それよりも、魔法と魔術ってどう違うの?」
強引に話題転換してきた。どうやら俺の嘘800武勇伝はお気に召さなかったようだ。
「おじさんは魔術が得意なんだよね?」
俺は少年に武勇伝を話す中で魔術が得意だか魔法は苦手だとか言う嘘を付いた。
「そうだなぁ。魔術と魔法。そうだ、前提として魔法は魔術で補えるし魔術も魔法で補うことができる。これは頭の隅に置いといてくれぇ。要するに違うのは過程だ。」
「ヘェ〜!それで?」ワクワク
どうやら少年は魔法や魔術に興味があるようだ。もちろん、魔法で魔術を補うことができる___、というのは嘘である。似たような結果を出すことはできるが、同じではない。全く別の品物だ。
「魔法は特定の呪文を唱えることで発動する。魔法杖や魔剣などを使うことにより威力が増したりする。一方魔術は魔法陣を書いて発動させる。だから手間がかかるし発動までに時間もかかる。つまり、魔術はマイナーなんだ」
「そっかー。僕は魔法使いでおじさんは魔術師か。2人とも後衛タイプだね!」
何言ってんの?後衛タイプ?何かと戦うつもりなの?
「いやー、旅するって言ってもお金使いきっちゃったし、おじさんビンボーみたいだし冒険者ギルドとかでお金稼ごうと思ってさ!」
このガキやっぱり腹立つ。俺が全面的に協力してくれると思ってやがる。
「冒険者ギルドかぁ。悪いが俺はいかねぇぞ」
「え!なんで?」
当然である。俺はお尋ね者だ。冒険者ギルドなんかに行けば捕まるリスクが高くなる。幸い俺の手配書の似顔絵は全く似てない。だが冒険者ギルドだ。鑑定スキル持ちがいる可能性がある。鑑定スキルは超レアスキルだ。噂では世界の見え方が変わるらしい。そのスキルがあれば人生勝組と言っても過言じゃぁない。
「冒険者ギルドのギルド長とは仲が悪くてなぁ。会った瞬間殴り飛ばされちまうよ。俺と冒険者ギルドに入ってみろ、少年までにブラックリストに載っちまうぜ?」
もちろん、ギルド長なんて知らないし会ったことすらないがな。
「……そっか。じゃあ、仲直りしないとね」
「……。おい、少年。猫をかぶるのはやめろぉ、気色悪い。」
「へっ?ヤダなぁ〜。こっちが素だよ?!」
「ハッ、バカ言えぇ。さっき、俺を殺そうとした時が素だろ?」
「え」
「え」
「そ、そんなわけないじゃん!!さっきのは演技だよ?!」
「え、何それ怖い」
あれが演技だと?あの眼が演技だと?
だとすれば天性の才能だな。俺ならその才能を生かして一儲けするところだ。本当に演技だとすればだがな。
もし仮にあれが演技だとすれば少年を出し抜くのはたやすい。すぐにだって逃げ出してやる。だが、あれだけの殺気だ。演技の可能性は限りなく低いと考えていいだろう。
こいつはあくまで”勇者”だ。世間体でも気にしているのだろうか?
……。
ここで俺はある一つの仮説を立てた。この少年が鑑定スキルもしくはそれに近いナニカを持っている可能性だ。
国を追い出されたのではなく自分から出てきた。
俺が詐欺師だと知り、あえて俺に接触してきた。
なぜだ?
知的好奇心さ。
コイツは俺の嘘話には全く興味を示さなかった。そのくせ、魔法や魔術についてはあの食いつきようだ。
俺は少年には魔法が苦手だと伝えた。だが、それは嘘だ。俺は魔法・魔術とも達人級の域に達している。そのせいで何かしらの称号がついてしまいそれを鑑定スキルで見られた。称号は教会や特別な施設にある魔道具で調べることができる。そこでしか知ることがてきない、例外を除いて。そしてその例外が鑑定スキル。
確信に近いものがある。
まず国から追放された話しだ。
これは嘘だろう。異世界から生物を、それも勇者ともなり得る者を召喚する魔法陣を書くのがどれだけ大変なことか。それこそ人外級の魔術師2.3人が死ぬ気で書かなければ完成しないだろう。
それだけ苦労して召喚した”異世界の勇者”を国が手放すわけがない。召喚した勇者が無能なら無能なりに政治的用途がある。それすら思い付かなかったとすればそいつらが無能だ。
次に少年は俺の職業を聞いてこない。知っているからこそ聞いてこない。これはきっと俺を試しているのだ。タチが悪い。
さらに、コイツは俺を縛っていたロープを解いた際、脅しに使っていた魔法杖をわざわざ机の上に置きロープをほどいた。しかもその後、両手を上げ俺が仲間になったことを喜んでいた。無防備にだ。これは『貴様など魔法がなくとも倒せる』との案じだとすれば頷ける。
なんと恐ろしい勇者サマだよ。
「……。スマンな、話がそれたぁ。でも、やっぱりここの冒険者ギルドには行けねぇな」
「そ、そんなに仲が悪いんだ?分かった。じゃあ、どこか別の町か村で冒険者登録する?」
コイツ、どんだけ冒険者になりたいんだ?確かに冒険者登録すれば一般では入れないダンジョンやら遺跡やら知的好奇心を満たす要素がたくさんある。
ここの冒険者ギルドは無駄に栄えている。その分、近くの町や村のギルドがおろそかになっている状態だ。そこでなら鑑定スキル持ちがいる可能性も低い。なりより無理に少年の話しを断れば俺の命が危ない。ここは素直に従うことにするとにしよう。
次の投稿は9月28日です。