表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
究極の愛  作者: 瑠璃
9/10

9

スマホを耳に当てると、ドクンドクンと自分の心臓の音が響く。


「…もしもし?」


いつもならほっとする妻の声に、俺は一瞬ビクッと体を強張らせる。


「…」


何と言って話を始めれば良いのか。言葉が見つからない。


「…どうしたの?」


妻が訝し気に尋ねてくる。


俺は意を決して話を切り出した。


「佐藤の嫁さんからさ、何か…聞いた?」


言いにくそうに聞く俺の声に、妻は何かを察したようだ。


「佐藤さん、何か言ってた?」


「君の声だったんだってね」


「…ごめんなさい」


少しでも、私を傍に感じてもらえたらと思って。


妻は申し訳なさそうに応える。


でも、まさか心配の延長でカメラを仕込もうなどと考えるだろうか…。


「カメラが仕込まれてたって聞いて。佐藤は、君がやったって」


「…」


妻は応えない。


「本当なのか?」


「…」


無言は肯定を意味するのだろうか。


「なんでそんなことを?」


「…」


「何か言ってくれよ」


「…ごめんなさい」


妻は小さな小さな声で、そう呟いた。


「何でだよ!」


俺は電話口の向こうでしゃくりあげる妻を責める。


心配が理由になるか。


プライバシーも何もあったもんじゃない。


何がしたいんだ。



しばらく無言を貫いた妻は、掠れた声で説明した。


一言ずつを、まるで搾り出すみたいに。



妻は俺の排便をカメラで見ていた。


毎回、毎回、俺が便座に座るたび、妻はじっと俺の表情を窺っていたという。


排便の苦痛だけでなく、悩み事は無いか、どこかに怪我でもしてないか。


ふと、子供の頃に見た中国の歴史を扱った番組を思い出す。


皇子は紙の上に便をして、それを何人もの召使いが観察し、臭いを嗅いでいく。


便の色や硬さ、臭いから皇子の健康状態を計るというものだ。


だが妻が俺にしたことは訳が違う。


妻はそれ以上の弁解をしなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ