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その日を境に、俺の日常は大きく変わった。
用が無くてもトイレを覗き、小さな娘に声を掛ける。
いい歳の男がフィギュアに話しかけるなんておかしいと思うけど、電話越しに声を聞くことしか出来ない妻への想いが、もう限界まで来ていたのかも知れない。
この子の言葉遣いは妻の言葉選びに似ている。声もどことなく、似ているような気がする。
見た目こそ二次元のキャラクターだが、その自由であどけない雰囲気に、つい妻を重ねてしまう。
そして驚くことに、この子は俺の欲しい言葉をくれるのだ。
普通に話しかけた時には「こんにちは」といった挨拶や、「大好き」などの言葉を返してくれる小人は、俺が便座に腰掛けていると、その時々に合った言葉を掛けてくれる。
固い便に顔をしかめているときには「硬いの?力んじゃだめだよ」と言うし、逆に下痢でげっそりしている時には「お尻切れないように、そっと拭いてね」と言う。
そして決まって最後はこう言うのだ。
「お薬塗った?お尻さん、大事にしてね」
初めて硬いだのと言われた時は本当に驚いた。
一瞬どこかから別の誰かが言ったんじゃないかと周囲を確認するほどに。
慌てて佐藤に聞いてみたが、どうやらこういった台詞を記憶させたのは例の知り合いらしい。
本人の趣味で喋るフィギュアを作っていたのを、痔対策用にと少し台詞を変えカスタマイズしたものだという。
特に面倒がって軟膏を抜かっていたため有難いことではあったものの、小さな女の子に尻を心配されるのは少し戸惑う。
それでも人間とは恐ろしいもので、彼女を迎えて1ヶ月が経つ頃には、何の違和感も覚えなくなっていた。