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「ったぁ……」
スマホ片手に便座に腰掛け、俺は直に体を抉る痛みをやり過ごす。
ウォッシュレット付トイレにこだわって部屋を決めたのは妻だ。
半年前、マンションを購入した直後に転勤を言い渡された。
1年だけの異動ということで、俺は単身赴任を選んだ。
痛みは山場を越えたものの、便を拭き取ろうと紙を当てた途端その鋭さを取り戻す。
この半年、痔の調子が良くない。
もちろん、妻への排便報告は続けている。
妻はいつでもちゃんとそれに応えてくれるし、専用の軟膏も無くなる前に送ってくれる。
一人暮らしが始まる前に「治療したら」と言ってくれた妻の言葉を、ちょっとした見栄と不安で断った俺が悪い。
妻の有り難さを思い知る。
言わんこっちゃ無い、と呆れられるのが嫌なのか、私がいないとダメね、と笑われるのが嫌なのか。
下らないと自覚しているのに、男の見栄は現状を知らせることを阻む。
『2日ぶりのトイレ』という俺のメッセージに対し、妻から返事が来る。
『お尻さんの調子はどう?(´∀`)』
『出血多量…(T_T)』と打ってから、削除する。
少し考えて、結局俺はまた嘘をついた。
『快調快調\(^○^)/』
すぐに『良かった(*´∀`*)』と返事が来る。
「ごめんな…」
こんなに愛しているのに。どうしても言えない。
なんてちっぽけな男だろう。自分が嫌になる。
それでも俺は、日々その嘘を白状することなく、また塗り重ねてしまうのだ。