10
半月後、便器に腰掛けた俺はいつものように棚を見る。
表面いっぱいに描かれた幼稚な動物たち。
人生の半分を共に過ごしてきたのに、俺は妻の本当の姿を知らなかった。
きりきりした痛みが胸を刺す。
あれだけのケンカをしたのは、この15年間で初めてだった。
彼女は今頃何をしているだろう。
棚の動物たちは俺の気持ちを知ってか知らずか、優しい笑顔を浮かべながら戯れている。
俺はしばらくそれを見ていたが、便を拭き取るため向き直った。
手にしたトイレットペーパーを一度握り、くしゃくしゃにしてから尻を拭く。
これも彼女に教わった方法だ。
尻を拭き終え、「ふぅ」と溜息にも似た吐息を零し、俺は改めて棚を見る。
細長い棚の天面、その小さなステージに立つ小人はどこか誇らしげで、いつものように満面の笑みを浮かべている。
その真っ黒な瞳には便器に腰掛ける俺の姿。
小さな少女に、俺は優しく微笑みかける。
「結衣、今日はすんなり出たよ」
レンズの向こうで、妻もまた微笑んでいるだろう。
「あなたの全てを愛している」
少なくとも、これを実現している人を私は周囲に見たことがない。
あなたの全て。そう、その排泄物までもが愛おしい。
これを究極の愛と言わずして、何を愛と言うのだろうか。
※勝手な妄想です。私はそういう趣味の人間ではありません。
もちろんそういった趣味の方を非難することもありません。