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アイ采09

 戦闘を開始してから二十分ほどが経過した。

 先程からいくら攻撃してもあちらにダメージを与えられている気がしない。

「Wheel of Fortune“Chalices”, The Star!」

 放たれるのは巨大な水の塊。しかし、それは相手の表面ではじけて丸っきり効いている様子はなかった。

 唯一の救いといえば、あちらがあのコンクリート片を飛ばして以来攻撃をしてきていないということだけだ。

『ったく、こいついつになったら倒れんだよ。インフィニット・サンダーボルト』

 沙羅先輩の声とともに放たれる一筋の雷。しかし、その程度の攻撃ではびくともしなかった。

 とそのとき、先程までこちらに何の興味も示していなかった<エンシェントエネミー>が、その顔をこちらへと向けた。

 大きく開かれた口には、なにか青白い光が集まり、そこからは何か白い煙のようなものが立ち昇っている。

『総員、回避しろ!』

 沙羅先輩が叫ぶ。

 皆言われる前から回避行動をとっていたためか、謎の光線が発射された時にはみな射線上からは退避していた。

 だが、その攻撃は私たちに向けて放たれたものではなかった。

 その光線は、徐々に狙いを上方へと修正し、やがて地面と平行になり、さらに上へ上へと照準がそれてゆく。そして、それが天井に届かんとした頃に攻撃は止んだ。

『一体、今のは何ですか?』

 アーラが、怪訝そうに言った。

 おそらく、アーラが言いたいのは今の行動の意味だろう。あのアーラのことだ、今のがただの攻撃であると考えるはずはない。その裏に、一体何の意図があるのかを考えるのがアーラらしい。

だが、その答えは予想外の、いや、ある意味では予想どうりのところから帰ってきた。

 そう、<エンシェントエネミー>が、天井に向けて先程とは比べ物にならないエネルギーの塊を放ったのであった。

 きれいな白いその光は天井にぶつかるなり、激しい爆発音を立てて消滅した。

 が、その爆発、及び衝撃により、先程のレーザーのようなものでえぐられた天井は、いくら中に隙間がたくさんあるとはいっても、百メートル程度の厚さがあるとは思えないほどいとも簡単に崩落した。

 私たちにめがけ落下してくる無数の天井。おそらくだが、一番軽い部分でも軽く一トンは超えているのではないだろうか? そんなものが重力というものに従い、地面に引き寄せられているのである。

「The Emperor」

 急いで防御壁を展開する。かろうじてたんかいした一と落下物の間には隙間がある。

 防御壁の上部につもったものは仕方ないとして、これで少しの余裕ができた。後はここから反撃する機会をうかがえば、そう思った。

しかし、現実はそうではなかった。

 初めにしたのは、ピキピキというかすかな音だった。

 それは次第に大きくなって行く。

 なんだろう? そう思って上を見ると、そこでは……。

 

防御壁にひびが入り、それが徐々に広がっている光景だった。

「どうします、先輩。このままじゃ……」

 指示を仰ごうと私はとっさに沙羅先輩のほうを見た。

 すると沙羅先輩は私の視線に気付いたのか、一つ頷いた。

『梨香、今のThe Emperor を解除した後に私を除く全員を覆うようしてThe Emperorをもう一度発動させてくれ』

 沙羅先輩はそう言うなり、防御壁の恥のほうへと移動した。

『さあ、早く!』

 そうこうしているうちにも、徐々に日々は広がってきている。

『沙羅先輩、なにをするつもりなんですか?』

 ややあわてたような声音のアリサ先輩。

 その問いに答える沙羅先輩はとこか、穏やかな顔をしていた。

『なにって、そりゃねぇ。この状況を打破するための秘策ってやつだけど?』

「秘策って……。とにかく、危険ですから沙羅先輩ももっとこっちによって下さい。もう一度The Emperor張りなおしますから」

 私がそう言っても、沙羅先輩は動こうともしなかった。

『いいか、梨香。たとえここでお前が新たに障壁はっても、それで防ぎきれるとは限らない。だからな、ここは“先輩”に任せろって』

 沙羅先輩がそう言った瞬間、まるで狙ったかのようなタイミングで障壁が崩壊した。

『さあ、早くしろ!』

 沙羅先輩のそんな声が聞こえる。

 とっさに私は叫んでいた。

「The Emperor!」

 直後、私の周りに展開される障壁。その内側には、私、アーラ、ユリア、アリサ先輩、サーシャ先輩の計五人。

 沙羅先輩は防御陣の外側にいる。

絨毯雷撃カーペット・サンダーブレイク

 その沙羅先輩はというと、自慢の必殺技を発動して落下してくるコンクリート片を破壊している。

 おそらく内部を通っていた水道管のなどが一瞬で水蒸気へと変わり、破裂させているのだろう。障壁の外側が白い煙に包まれている。

 確かに、落下してくる物体の直撃に陽ダメージは減少した。

 しかし、今度は沙羅先輩の攻撃の余波でひびが生じてきている。

『シャイニング・ルーカス!』

 かろうじて、沙羅先輩の叫び声が聞こえる。

 白い煙の中にオレンジ色の光がわずかに見えた。直径三十メートルのプラズマが通過した影響で、周りの水蒸気が晴れる。

 そこには、ほぼすべてのコンクリート片が消滅し、その中でただ一人たっている沙羅先輩の姿があった。

 The Emperorを解除して、沙羅先輩に駆け寄る。

「大丈夫ですか?」

『ああ、なんとかな。少しエネルギーを使い過ぎたようだ』

 <フェアリーアーマー>というものは特殊なエネルギーで稼働している。

 それはコアに蓄積される謎のエネルギーで、どうやって生成されているのかは不明。

 唯一わかっていることは、それはどこからともなく生成されているものだということである。

「わかりました。少し待ってください。The Empress」

 そう叫ぶと、私の目の前には不思議な光が出現した。

「どうぞ、沙羅先輩」

 それに意識を込め、沙羅先輩の機体へと飛ばす。

 The Empress。それは、<フェアリーアーマー>にエネルギーを充填するスキル。

 この一見地味なスキルだが、あるとないのではだいぶ勝手が違ってくる。

 リミテッドスキルの発動には、このエネルギーを使用するので、長期戦になった時など、このスキルが役に立つ場面は思いのほか多いのだ。

 もっとも、大抵の場合は発動する前に<エンシェント・エネミー>を撃破していることがほとんどなのであまり意味はないのだが。

 しかし、今回は二十分以上の戦闘で機体のエネルギーが枯渇していているのだ。

「さてと」

 改めて、今回の敵に向きなおる。

 そいつは、またしても私たちへの興味を失ったのか、建物の残骸をむさぼっている。

『これから、どうしますか?』

 アーラの問い。答えられる者は、誰もいない。

 妙な沈黙が訪れる。

 そんな中、答えを発したのは沙羅先輩だった。

『食い止める。……しかないんだ。大丈夫、きっと防衛軍の隊員が増援に来てくれるはずだ。だったら、それまで生存するぞ』

 沙羅先輩のその言葉に私たちの士気はやや高まった。

「となると、アレを使いますか。The Lovers The Magician!」

 その瞬間、私の機体が四つに増えた。

 否、そのうちの三つはただの電影にすぎない。

 果たしてこの<エンシェントエネミー>に通用するかどうかは分からないが、かく乱作戦を行おうと思う。

 そう言った意味で私に攻撃を引きつけるThe Loversと幻影を生じさせるThe Magicianを発動させたのだった。

 だが、そんな努力もむなしく、あちらは私になど興味を示さずに食事を続けている。

それから五分ほど経過し、特に何にも変化がなかったのでスキルを解除しようとした瞬間、回線に通信が入った。

『こちら、月神つきがみみこと。現状私たち四名は突如出現したLTE-13と交戦中。増援の遅れを……、うわぁぁ! ザ―――――――……』

 刹那、私たちの間に緊張が走る。

「沙羅先輩!」

 力の限り、そう叫ぶ。

『ああ、わかっている。しかし、こいつを放っておくわけにもいかないしな……』

 沙羅先輩の応答は、どこかはっきりとしないようなものだった。

 それはまるで、何らかの策があるような、そんなものであった。

『ここはアタシが残る。お前たちは、救援に迎え』

「でも…………」

『いいから早く行け。今なら、まだ間に合うかもしれないだろ』

 沙羅先輩は決意に満ちた表情で言う。

『梨香先輩。ここは沙羅先輩のいうことを聞きましょう』

 ユリアがそう言う。

『なに、アタシを信じろ。仮にも学園最強の“生徒会長”だぞ? こんなてきの一匹や二匹、勝てなくてどうすんだよ』

 結局、沙羅先輩のその言葉と、根気に負けて、私たちはその場を去った。






「行ったか…………」

 アタシ――鳴神沙羅は誰にともなくそうつぶやくと、目の前にそびえ立つ敵へと視線を動かす。

 そこに映るのは、体長百メートルはあろうかという巨大な亀。

 そいつは、アタシのことなど気にも留めていないのか、のんきに食事のようなことを続けている。

「まったく、気楽なもんだな。こっちはこいつに命を握られているようなもんなのによ」

 事実、先程こいつが放った光線による被害で、危うくあたしたちは全滅するところまで追いつめられた。

 だが、

「でもよ、それが何だっていうんだよ。アタシはアタシのやりたいようにやる。誰のためでもねぇ。アタシ自身が好きな、この世界を守るために、アタシは戦うんだよ」

 とはかっこつけてみたものの、それがなにかに直接的につながるわけではない。

 ただ、なんとなく思い出されるのは、かつての日々。

 アタシがいて、梨香がいて、そしてレベッカ先輩がいる。そんな失われた日常の風景。

「レベッカ先輩、あんたは何で死んだんだよ。アタシの……、アタシの目標だったのに……。認めてもらいたくて、頑張ってたのに……」

 それなのに、レベッカ先輩は突然死んだ。死因は、過労死ということになっている。

 しかし、あのレベッカ先輩が過労死で死ぬはずはない。

 その前日も、前々日も<エンシェント・エネミー>の襲撃はなく、穏やかと言っては若干語弊があるかもしれないが、そんな日常が繰り広げられていただけだった。

 あの日、あの戦闘もときに、なにがあったのかは私には、いや、もう誰にも分からない。

 でも、一つだけわかることはある。上層部はきっと何か重大なことを私たちに隠している。

 だけど、それが何なのかは、私には見当もつかない。

「まあいいか。今更考えたって、過ぎ去ってまった過去の出来事だ。それより今は、こいつを何とかしないと」

 相変わらず、目の前のそれは建物を喰らっている。

「まったく、こいつを倒すにはやっぱり、あの技を使うしかないのか」

 そう呟きながらアタシは、コントロールパネルの脇のスイッチを入れた。

 直後。

 アタシの機体の周りには、無数の稲妻が駆け巡る。

「さてと、いっちょ派手に行きますか!」

 大地を蹴り、トライアングルブースターを起動させ、空へと飛翔する。

「リミッター、解除。いでよ、パーソナルアームズ“タケミカヅチ”!」

 目の前に雷をまとった一振りの大剣が出現した。

 それを勢い良く掴み敵に切り込む。

 一閃。<エンシェント・エネミー>の甲羅の一部分にわずかだが傷を付けることに成功した。

 先程まで、なにをしても大したダメージも通らなかった子の戦闘の終止符への道筋が存在することを証明するための足がかりとなる一撃だった。

 しかし、そうことは甘くはなかった。

 先程の一撃で流石の<エンシェント・エネミー>もお怒りになったようで、こちらへ大して攻撃を放つようになった。

 とはいっても、全体として見れば居ド田舎目。移動速度は遅く、また、一つ一つの動作の隙も大きい。

 そのため、こちらに対するダメージは今のところ発生していない。

 だが、だからと言って油断するこことは厳禁だ。

 実際にあたってはいないが、その一撃はいくら風化していたとはいえ、巨大なビルを触れただけで粉々にするほどの威力が秘められている。

 そんなものを、私の<フェアリーアーマー>は防御できるはずはない。

だからと言って、アタシがすでに負けているわけでもない。

むしろ、攻撃と攻撃の合間に生じる隙に合わせて、敵の身体を“タケミガヅチ”で斬る。

 しかし、ここで大きさという巨大な壁が立ちふさがった。

 相手にアタシが与えている傷はせいぜい人間でたとえるなら切り傷程度でしかない。

相手の脚の骨にすら、丸っきりかすってなどいなく、傷は表面の肉の部分にしか生じていない。

「だったら、これを使えばいい話だ。アンリミテッド・バースト・スキル、“タケミガヅチ・エクセリクシ”!」

 そう叫ぶなり、目の前の“タケミガヅチ”がそれにこたえる。

 目の前の“タケミガヅチ”。その刀身が、きれいさっぱりと消滅したのだった。

「さあ、覚悟しな!」

 “タケミガヅチ”を何もない空間で真横に振る。

 先程まで刀身があったところすらも、何もかすらずに通過する。

 だが、変化がある。

 “タケミガヅチ”の延長線上。<エンシェント・エネミー>の脚が、一刀両断されたのである。

 そして、自身のバランスに耐えきれなくなったその亀は、自らの重さによって地面に倒れる。

 そいつの正面横に回り込み、その首の位置で剣を振るう。

 すると先程までの苦戦はどこへやら、あっけなく、その亀の首を切断することができた。

「終わった……のか?」

 そう疑問に思いながら、地面へと着地をする。

 ちょうどその瞬間の出来事だった。

 亀の甲羅が割れて、中から十数匹の小型の亀が出現したのは……。

 一つ一つの大きさは、十メートル程度といった感じの大きさだった。

 しかし、数が数である。一度にこの剣一本で対処するのは難しい。

 いや、斬ること自体は簡単なのだ。この位置からこの剣で横薙ぎの一撃を放てばいいのだから。

 しかし、何分このスキルは消費が激しい。

 梨香が近くにいて、The Empressをすぐさま発動してくれるならば問題はないのだ。だが、そうでない場合は、エネルギーが切れて動けなくなる危険性がある。

 今この場にいる敵をすべて倒してとしても、新参の敵がアタシの動けないうちに乱入してくる可能性は〇ではないのだ。

 だったら、ここではこの技を継続して使うべきではない。

 ならば、威力は落ちるが一気に決めるならばこちらを発動させた方が手っ取り早い。

「結局最後はこの技になるんだよな。絨毯雷撃カーペット・サンダーブレイク!」

 目の前を無数の雷が埋め尽くす。

 暫く立って、その雷撃が収まった向こうに見えたもの。

 それは、動かなくなり、徐々に消えて行く途中の亀のような形をした<エンシェント・エネミー>だった物であった。

「終わった……」

 途端にどっと、疲れがわいて出た。出来ることならば、このまま早く帰って自分の部屋で休みたい。

 それほどまでに、今回の戦闘は疲れたのだった。

「あ、コアを回収しないとな」

 そう言って、歩き出そうとした。

 しかし、それはできなかった。

 菜全原、急にぶれる視界。

 アタシは地面へと倒れ込んだ。起き上ろうにも、全身に力が入らない。

(あれ、おかしいな。アタシ、どうしたんだろう? 機体が、身体がうごかな、い?)

 そんなことを想いながら、アタシの意識は闇の中へと沈んでいった。






 私たちの目の前に映るもの。それは、信じがたいものであった。

 私たち五人は、沙羅先輩と別れたあと本来なら増援に来るはずだった防衛軍の人のもとへと向かった。

 愛悪の状態を想定していたのだが、ただ単に、戦闘によって通信機能が破壊されただけであった。

 攻撃を受けて吹き飛ばされた際に、このあたりに設置された防衛軍の通信用アンテナに小tpつ、破壊してしまったために通信が途絶えた。

 そんな単純な出来事だったのであった。

 私たちがついたころには、LTE-13との戦闘がちょうど終わったところのようで、今さっき回収したばかりのコアを見せてくれた。

 それを聞いて安堵した私たちは、その四名を加えた計九名で沙羅先輩が戦闘しているであろう場所へと向かった。

 これが、ここに至るまでの出来事である。

 そして、今私たちの目の前には、動いているものはなに一つとして存在していなかった。

 私たちがここを離れたときには、ただ単に優雅な食事をくりひろげていたその巨大な亀は、首が切断されたままこと切れていた、それを縮小したかのようなやや小型の亀たちも言うまでもない。

 それだけだったらまだいい。

 でも、私たちの目の前にはもう一つ。

 ピクリとも動かなくなった沙羅先輩の<フェアリーアーマー>、紫電があった。

「沙羅先輩? 返事してください、沙羅先輩!」

 そう声をかけるが、沙羅先輩は何の反応もせずに、ただただ横たわるだけだった。




 学園に戻り、沙羅先輩を搬送し手からほんの数分。

 衛生救護担当のスタッフたちが治療室から出てきた。

「沙羅先輩は!?」

 私のその問いに対するスタッフのリアクション。それは無言で首を横に振ることであった。

「そんな……。うそでしょ?」

 そう言いながら泣き崩れるサーシャ先輩。

 それを抱き、支えているアリサ先輩もその瞳からは大粒の涙がこぼれおち、お互いにお互いの服を濡らしている。

 アーラは特に涙は流していない。しかし、いつもは読んでいるであろう紙媒体を持たずに下を向いたまま顔をあげる気配はない。

 ユリアに至っては、ショックのあまりか泣きながらどこかへ走り去ってしまった。

 とうの私はというと、不思議と涙は流れてこなかった。

 ただ、心の中に、なにかぽっかりと穴があいたような、そんな感じの虚脱感に襲われただけだった。

自分の部屋に戻り、ぼんやりと今までのことを思い出す。

 沙羅先輩と初めて出会ったのは、もう何年も昔のことだろうか? 

 今となっては、記憶すらも定かではないが、沙羅先輩のお母さんが死去する前に双方の家族全員であったことがあったらしい。

 それに関してのはっきりとした記憶はないのだが、そのときの写真が家のアルバムの中にしまってあったので、間違いないはずだ。

 その後は、小学校、中学校と同じ学校だった。

 とは言うものの、学年が、離れているので、学校内では顔見知りという程度の関係でしかなかったのだが。

 それでも、家族ぐるみの付き合いは続いていたので、お互いに姉妹のような、そんな感じの絆で私たちは結ばれていた。

 そこに沙羅先輩の弟を加えた三人で、よくありこち遊んでいたものだ。

 私たちが、小学四年生の時に引っ越すまでは、家が隣同士だったのにも拍車がかかっていたのかもしれない。

 両親が、ともに防衛軍第一世代だったということもあり、家を建てるときにあえて隣同士に作ったらしい。

 それに、家を空ける方が多い沙羅先輩の父親の分を含めて、二家族そろって食事を桐原家で食べることも案外想定していたのかもしれない。

 聞いた話によると、鳴神沙代さんは、料理がとてつもないほど下手だったらしいし。

 そんな事情もあって、帰宅後は、本当の家族のように過ごしていた。

それから月日が流れて、お互いに防衛学園に通うようになってから、初めて一緒に戦ったのは、沙羅先輩たちの入学式の日の出来事だった。

 あの日はまだ当然のようにレベッカ先輩は生きていて、私の訓練に付き合ってもらっていたところに沙羅先輩が現れたんだった。

 そのまま成り行きで三人で自主訓練をしていたときにちょうどLTE-13が出現して、そのままの勢いで私たち三人で出撃、討伐して戻ってきたんだった。

 その日以降、私たちは三人で行動することが多くなっていったんだ。


 でも、その日は突然やってきた。

 レベッカ先輩の死。

 それは、学園の全校生徒の中に大きな爪痕を残していった。

 沙羅先輩も例外ではなく、長いこと落ち込んでいた。

 そんな中で、行われた討伐訓練。

 沙羅先輩はなんとかレベッカ先輩と同じように戦えるようにしたいと、今までの訓練の成果をすべて出し切り、結果一番優秀ということでレベッカ先輩の後任の生徒会長に就任することとなった。

 その後は、生前の沙羅先輩を理想に掲げ、何事にも全力で取り組む沙羅先輩の姿は、いつしか私たちのあこがれとなっていた。

 でも、そんな沙羅先輩が死んでしまった。

 

 そんなとき、唐突にドアがノックされた。

 ドアノブを捻り、外の人物を確認すると、それはサーシャ先輩とアリサ先輩だった。

「意外ですね。二人が私の部屋に来るなんて」

 とりあえず、立ち話もあれなので中にはいってもらい、二人が適当な場所に腰をかけたのを見計らって私は二人にそう言った。

「まあ、確かに梨香さんの部屋にはあまりきませんね」

 アリサ先輩の発言。

 サーシャ先輩はともかく、この先輩を無防備にも室内に入れてしまったらこっちの貞操が危ない。

 忘れてはならないのが、このアリサ先輩は可愛いものが大好きで、それは主に女の子、または縫製された品物に向けられることが多い。だが、意外とこの人は根っこアレルギー持ちなので以外にも動物への食いつきは少ない。

 とはいっても、それらをデフォルメしたぬいぐるみを抱きしめることも多いのだが…………。

 ともかく、アリサ先輩を部屋に入れるなら、二人をセットで入れるべきなのである。

 閑話休題。

「それで、二人揃って何の用ですか?」

 とりあえず、目の前にいる先輩二人が、私の部屋に来た目的を聞く。

「いやさ、沙羅先輩も死んじゃって、これからの生徒会をどうするかを相談に来ただけ」

 確かに、今までの生徒会は沙羅先輩あってこそのものだった。

 しかし、その状態を保つことが不可能緒になった今、再編を余儀なくされるだろう。

「まあ、確かに生徒会長は選びなおさないといけませんけど……」

 それはこの二人のうちのどちらかがやってくれるだろう。

 そう、私は思っていた。

 だからこのときのアリサ先輩の発言は、私にとってはそうがいのものであった。

「だからさ、梨香さんに生徒会長をやってもらえないかねって……」


「へ?」

 思わず、口からもれたのは、そんな言葉だった。

「いや、だから梨香さんを次期生徒会長にって……」

 アリサ先輩はもう一度繰り返して言った。

「いや、なんで私が生徒会長なんですか? 二人のほうがよっぽどふさわしいと思うんですけど?」

 思ったままのことをそのまま口に出す。

 年功序列という考え方が、広く一般的に浸透しているこの世の中で、なぜ私が生徒会長なのか?

「確かに、私たちでもいいとは思うよ。でもね、防衛戦線での活躍のキャリアならば、今の三年生たちよりも長い梨香を生徒会長にせずして誰がやるのか」

 ごもっとも。

 サーシャ先輩の発言に不覚にもそう思ってしまった。

 確かに、よく考えてみれば先代の生徒会長である沙羅先輩よりも私のほうがわずかにキャリアは長い。

 それでも、沙羅先輩のほうがはるかに優秀な人物であったし、それにカリスマ性も優れていた。

 それに比べて、私は……。

「私なんかが、生徒会長になってもなにもいいことなんてありませんって」

 そう反論してみたが、二人の長時間にわたる説得によって私はついに首を縦に振ってしまったのであった。

「わかりましたよ。私が次の生徒会長になればいいんでしょう?」

「「うん」」

 もうどうにでもなれという感じで行った私のその言葉に、二人は笑顔でそう答えたのであった。


「それじゃあ、会長。また明日」

 そう言葉を残し二人が去っていった扉を、二人がいなくなってからしばらくの間ぼんやりと眺めていた。

 今年になって、すでに二人の生徒が命を失っている。

 しかも、一方は<ヒトガタ>という圧倒的な存在によって。

 もう一方は、新種の超巨大<エンシェント・エネミー>によって。

 私は、扉から視線を外し、飾ってある一枚の写真にその視線を移動させる。

「現実ってさ、なんでこうなんだろうね? どうにもならないことばかり。ねえ先輩。私はこれからどうしたらいいんですか?」


 その写真の撮影日は今から二年前。

 写真の中では三人の少女が楽しそうな笑顔を浮かべていた。


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