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アイ采08

「えっと、ユリア・リヴォーヴナ・サウニナです。よろしくお願いします」

 あの日から数日がたち、ユリアが私たちの学年に正式に飛び級してきた。

 あの日以来ユリアは生徒会の一員として二度の出撃を経験しており、私達との連携も前より格段にスムーズなものへとなった。

「それじゃあ自己紹介もかねて、今日の訓練はサウニナさんたちからはじめましょう」

 それを知っている教官の名指しによって、本日の訓練は私たちからのスタートとなった。


『それでは、カウント入ります。五……四……三……二……一……』

 今回の訓練内容はLTE-03。ふわふわと漂う蛇のような外見をしている<エンシェント・エネミー>である。ただし、その頭はヤマタノオロチのごとく頭が八つに分かれていて、全身シルバーメタリックな色合いをしている。流石に尾は一本しかないが、それでも十分なほどに異様な威容を放っている。

 そんな敵に挑むメンバーは私とアーラとそれにユリアの三人。

「「「ゼロ」」」

 それを合図に目の前の扉が開く。そこから現れる巨体。

 それに向かって私は全速力で向かって行く。

「Temperanceっ!」

 即座に拘束を仕掛ける。

「みんな離れて! The Towerっ!」

 刹那。LTE-03の周囲が一気に爆風に包まれる。

The Towerは、意識した地点の周囲を爆発させるリミテッドスキル。

 発動から爆発までのタイムラグはあまりないがそれでもやはりちょっと動かれただけで回避されてしまうこともある。

 この攻撃は範囲も自由に調整できるのだが、そうすると発動までの時間がやや遅くなってしまい、それが作戦の成否を分けることもある。

 したがって、この技を発動させるには相手を拘束するほうがなにかと便利なのだ。

「ヴズルイフ」

 そんなユリアの声とともに、先程爆発があった地点を再び炎が包み込む。

 紅蓮の輝きが一瞬美しく煌めき、そしてしぼんでゆく。

「ソアリング・シュートっ」

 最後に聞こえてきたのは、アーラの声。

 その声が私の耳に届いた時には、爆発の中心にオレンジ色の光線が突き刺さるところだった。

 一瞬の静寂が辺りを包む。

 徐々に晴れた煙の中には、地面に落ち、身体の一部が溶解したMTE-03の姿だった。

 もうすでにTemperanceは解除されているが、再び動き出す気配はなかった。

 それでも、まだ本体は消滅していなく、冷えた金属が固まり、動けなくなっていても、その頭のうちまだ五つは健在のようだ。

 こちらに狙いを定め、その口を開く。

 放たれたのは、五本の稲妻。まっすぐにこちらをめがけ飛翔する。

「The Emperor」

だがそれは、私の前に発生した壁にぶつかり、それを突破することもできずに消滅の道をたどった。

 さらにいくつかの攻撃が飛んできたが、全て障壁に触れるなり無効化された。

 その後も多量の閃光が放たれたが、こちらには一切命中していない。流石のあちらも、このままでは攻撃が通らないと察したのか、一瞬だが攻撃が止まった。

「アーラ!」

「わかってる」

その隙を見逃さずに今度は此方から攻撃に出る。

「強化外装展開。完了セット

 The Emperorを解除する。刹那。

「フルバーストモード、発動」

 無数に放たれるオレンジ色の光。そのすべてはメタリックな塊へと向かい、そのすべてが命中する。

 数多もの射撃にさらされた後に残った物は何一つなく、かろうじてそこに何かがあったことを物語っているのは消滅しつつある赤く熱された液体のみであった。

『そこまで』

 端末越しに教官の声が聞こえる。

 今回の戦績は七分五十六秒四零。基準となるタイムよりも四分近くも短縮しての討伐に成功してことになる。


「それでは本日の訓練はここまで」

 その後、他のクラスメイト達の討伐訓練が行われ、それをギャラリーで観戦するといういつもの授業が終了し、再び訓練の中心に集まっての号令で訓練が終了する。

 すると途端にクラスメイト達に囲まれる一人の少女。もちろんそれはユリアのことである。

 あたふたしながらもそれに答えているユリアをぼんやりと眺めていると、ふとあの日の記憶が蘇る。




 それは今から三年前。私が特例で適性試験を行い、この学園に所属してからすぐのことである。

 あの当時はまだ私は中学一年生で、レベッカ先輩たちは高校二年。そして沙羅先輩やサーシャ先輩、アリサ先輩が入学する前。

 その日はお母さんに呼ばれてこの学園に呼び出されていた。

 なんでも、<フェアリーアーマー>の形状が突然変化したことの原因が判らなかったらしく、それを調査するために私を招集したという次第だった。

 私が到着するなりさっそく様々な調査を行ったのだが、それでもなにかが判るわけでもなく、ただただ時間を使うだけであった。

 そんなとき、それは起こった。

 そう、<エンシェント・エネミー>の襲来である。

 このときに私がいた場所は第二ゲート。私は制止するお母さんやその他のスタッフの声も聞かずに出撃していった。

 当時はまだ、リミテッドスキルというものの存在は何となく理解していながらも発動させることができていなかったので当然The High Priestessを発動できるわけもなく、あの声も聞こえなくなっていたので、ただ適当に行動していただけだった。

 それでも、下手な鉄砲とは撃てば撃つだけ当たる確率も上昇するわけで、トライアングルブースターを使用した私は<エンシェント・エネミー>とは比較的早くコンタクトすることができた。

 しかし、今回の敵は私にとっては大き過ぎた。その敵はLTM-07。全身が美しく光沢している紫水晶のような肉体のクワガタムシのような<エンシェント・エネミー>だった。

 だが、このLTM-07を侮ってはならない。今までにこいつの大あごに該当する部分によって何機もの<フェアリーアーマー>が破壊され、そのうちの三人もの操縦者が機体ごと葬られているのだった。

 そんな相手に、出撃二度目のわたしは挑みかかった。はっきり言うと、あまり勝ち目のない戦いとってよかった。

 事実、このときの私は背中に格納されている羽を大きく広げ、飛翔してくるそいつを背に全速力で逃走をはかる以外にできることは何もなかったのだから。

 そして、それにもやがて限界が訪れる。

 私の使用している機体は所詮試作型第一世代アインだ。いくらその後のチューニングにより第五世代後期から第六世代並みの機体性能にまで強化されているとはいえ、やはり第一世代は第一世代。

 第四世代後期から導入されたトライアングルブースターは想定されていない時期の機体なのだ。

 それを強引に取り付けたのだから当然機体にかかる負荷は通常の第四世代後期の機体よりも大きなものとなる。

 そして私が所持していた唯一の切り札だったトライアングルブースターはその負荷に耐えきれずにあえなく故障した。

 徐々に失速し、地面に激突する私の機体。

 その間にもLTM-07は追ってきている。

 このときになって私は激しく後悔した。なんで何も聞かずに飛び出してきたんだろうと。

 前回初出撃ながらそれなりの戦果をあげられたからといって少し調子に乗っていたのかもしれない。だが、あのときの成果は果たして本当に自分のものだったのだろうか?

 答えは考えずともに一目瞭然。私はあの声に従って行動していただけである。それによってたまたま勝てたということがすっかり意識の範疇から抜け落ち、ただただ<エンシェント・エネミー>を倒したというとのみが私の記憶に残ってしまっていたのだ。

 しかし、一度出撃してしまったあとでそれに気付いたとしても後の祭り。

 このときの私は、自分の死を覚悟した。

 だが、実際には再びここで彼女に助けられた。

 そう、私はまたしてもレベッカ先輩の手によって一命を取り留めたのだった。

 慣れた手つきでその<エンシェント・エネミー>を倒すその姿に私は憧れを抱いていた。


 そして帰還後。たくさんの方々からのお説教をいただいた後、私はレベッカ先輩に話しかけられた。

 それはほんとにどうでもいいような会話と言って差し支えないものであった。

 だけど、今になって思い返してみれば、このときから私とレベッカ先輩の絆が生まれたと言っても過言ではなかった。

 実際、レベッカ先輩だけが私と同じ立場に立って接してくれていた。




 そして、私はユリアに目を向ける。彼女は私の時とは違い学年が一つしか離れていない。

 少し無理をしているように感じられないわけではないが、どの生徒とも、比較的良好に接している姿を見ていると、過ぎ去った日常を思い出してしまった。

 実際には、似ているようで本質的には完全に異なっているのだが。


 そんなとき、それは突然に鳴り響いた。

 ――――デンジャー、デンジャー――――

  ――――第二階層に大型エンシェントエネミーを確認――――

   ――――その数三 なお周辺には少なくとも六体の小型を確認――――

     ――――合同政府は第一警戒態勢(レッドゾーン)を発令――――

      ――――住民はシェルターへ避難の避難準備を開始してください――――

       ――――上級訓練兵以上の防衛軍は至急第二ゲートまで――――

        ――――繰り返す……――――

「アーラ、ユリアちゃん、行くよ!」

 即座に二人を見る。

「あ、はい」

「了解」

 いつも通りの脊椎反射で私たちは第二ゲートまで向かった。




「それでだな」

 第三階層。

 出撃してからすぐに沙羅先輩はそう口を開いた。

「わかっていると思うが、今回の敵は三方向に散らばっている。対して私たちの人数は六人。最低行動人数が二人とされているところを考えるとアタシたちも三方向に分かれるべきだと思うのだがどうだろうか」

 沙羅先輩にしては珍しく疑問形での問いかけとなった。

 しかし、その視点がユリアに注がれているところから考えてもその理由はおおよそ察しが付く。

「それじゃあ、私たちは南南東方面に向かいます」

 まだ割り当ての相談もしていないのだが、二年組みはそう言うなり、さっそく南南東に消えて行ってしまった。

 もっとも、あの二人ならばあまり心配せずともよさそうなものだが…………。

「さてと、アタシらの組み合わせをどうするかだな」

 改めて沙羅先輩が口を開く。

「ここは私とりか、さら先輩とユリアで組むべきだと思います」

 すぐさまそれに反応したのはアーラだった。

「ふむ、アタシは異議なしだな」

「私もありません」

 沙羅先輩の意見に同意する。

 そして回答を確かめるためにユリアのほうを向く。

 他の二人の視線をユリアに移動させているので、六つの瞳にユリアは囲まれている。

 そんな中、ユリアは軽くうなずくと、一つ咳払いをしてから切り出した。

「あの……、私は梨香先輩と組みたいです……」

 と。

 そしてこの場には、その意見に反対する者は誰もいなかった。


『すみません、こんな私なんかと組んで頂いて』

 私にのみ聞こえる回線を使用して、ユリアがそんなことを言ってきた。

「ん? 別にいいよ。私もユリアちゃんと二人で戦ってみたかったし。」

『でも……』

 私の言葉にユリアはどこか気まずそうに相槌を打ってきた。

「むしろ、本当に私となんかでよかったの?」

 だから私が、あえて彼女にそう訊いてみた。

『もちろんです。……私と似たような境遇の先輩とお話したくって…………』

 これまたすまなそうに、ユリアは言った。

「なに? なんでも相談にのるよ?」

 今ここでではなく、後から個人的に私の部屋に来るなりしてでもいい気がするが、ここはあえて言わないでおくことにした。

『実は…………』


「なるほどね。やっぱりユリアちゃんも他の生徒との間に壁を感じていたんだ」

 私のその言葉に、ユリアは『はい』とかすかな声で答えた。

 やはり、当時の私と同じようなことを考えてしまっているようだ。

 一度出来上がってしまった人間関係には、なかなか溶け込めるようなものではない。

 それも、いくら一つしか違わないとはいえ、年齢も異なっている。

 さらに、本来ならば上級生である自分たちよりも高い成績を収めている。(事実今回の訓練内容だったLTE-03は人によっては二年次でも十五分を超えることもある)

 そんなユリアとはなかなか馴染みにくいのも事実なのだ。

「そっか……。私もそうだったなぁ」

『先輩も、ですか?』

 控えめながら、ユリアがそう訊き返してきた。

「あたりまえ、っていえばあたりまえなんじゃない? だってまだ編入初日で、お互いのことよく知らないんだから」

『そうなんですよね…………。よかったら、先輩のときのことを聞いてもいいですか?』

 それに、答えようとした。

 刹那、目の前で一瞬オレンジ色の何かが発光した。

「The Emperorっ!」

 私のアインとユリアのピュラリスを囲うように展開されたシールドになにか鋼色のものが衝突した。

 それは、ぶつかったと同時に鮮やかに爆ぜた。

「先輩、これって……」

 ユリアも今回の敵の正体に気付いたのだろう。

「うん、たぶんだけどLTE-11」

 LTE-11。それはメタリックグレーな色合いをしている<エンシェントエネミー>だ。

 他の<エンシェントエネミー>と違い、この系統の個体は自身の中に特殊な器官を持っている。

 それは、ミサイルを発射するための砲塔だ。

 何故その様なものを搭載しているのかは、いまだ謎に包まれている。だが、一説によると、破損し放棄された、または操縦者が戦死した防衛軍の兵器、もしくは<フェアリーアーマー>の武装を吸収した結果こうなったのではないかといわれている。

そんな砲塔が二門両肩から突き出すように生えている。

 他には、脚がキャタピラになっているという点以外は特徴のない数世代前の合体ロボットといった感じの外見をしている。

 そんな機体が一機でこちらに向けて走行していた。

「こちら桐原梨香。敵発見。これより戦闘に入ります」

 『了解』とだけ、回線越しにオペレーターの声が聞こえてきた。

「ユリアちゃん、敵は一体だけみたいだけど油断しないようにね」

『わかってます』

 そう言うなり、ユリアは敵のもとへと潜り込む。

 高さ十七、八メートルはあるであろうLTE-11に高さ8メ―トル程度の大きさの<フェアリーアーマー>は一体どのように感じられるのだろうか?

 そんな些細な疑問が浮かんだが、すぐさまその雑念を振り払い戦闘に集中する。

「The Hierophant」

 ユリアの機体の周りをほのかな光が包み込む

『先輩、この光はなんですか?』

 自身が良く理解していない光に包まれたことに驚いたユリアは、いったん後方へとジャンプし、距離をとってから私にそう訊いてきた。

「なにって、ただの支援スキルだよ? 機体速度とか硬度とかを一時的に上昇させるための。実際、普段よりバックステップでの移動距離が上がってると思わない?」

『そう言えばそうですね』

そうユリアは言った直後、またしてもオレンジ色の光が目に入る。

 左右に分かれるように回避行動をとった後、両サイドから<エンシェントエネミー>にコンタクトをとる。

「Wheel of Fortune“Chalices”,Strength!」

 私の右手側に一振りの剣が出現する。

 通常なら、何の特徴もない無機質な白い剣が現れるはずのStrength。

 しかし、今回出現している剣にはその周りを覆うように水が覆っている。いや、剣自体が水でできているかのように不定形に揺れている。

 Wheel of Fortune。火を司るwands、水を司るChalices、地を司るpentacles、風を司るswordsの四つの属性を使い分けるときに使うスキルだ。

 もっとも、このスキルを使ったところで属性を付加できるのは近接攻撃のStrengthと、遠距離攻撃のThe Starのみであるのだが。

 それでも、一機の<フェアリーアーマー>だけで計六属性を使い分けることができるので決して汎用性は低くない。

 特化していない分、それぞれの威力はそれこそ<エレメンツ>の対応機に劣る部分も多いが、その分状況緒を選ばずに戦えるという利点がある。

 

 剣を握る手に力を込め、ブースターの出力をあげる。

 ちょうど反対側でも、ユリアが同じように剣を構えているのが見える。

「はぁっ!」

 ひといきに振り下ろす。

 狙いは敵の砲塔部分。砲撃時以外は斜め上に向けられているその発射口の中に大量の水が流れ込んでゆく。

 いくら<エンシェントエネミー>とはいえ、この武装には少なからず自己生成した火薬を使用していたはずである。

 それに水分を含ませることによってこちら側の砲塔を使用不能にしたのである。

 反対側では、高温に熱せられた砲塔が溶解している。

 確かユリアの精製する剣は一瞬だが摂氏六千度に達すると本人が言っていたような気がする。

 そんなものを受けとめられるほど、このLTE-11は頑丈な身体をしていない。

 主な攻撃方法である砲塔を二門とも潰されたLTE-11の動きが一瞬停止した。

 おそらく、射撃ができる確認しているのだろう。しかし、それを不可能にした私たちにとっては決定的なすきにつながる。

「Wheel of Fortune“wands”, The Star!」

 そう叫ぶと同時に、ユリアは回避行動をとる。

 一瞬遅れて、大きな炎の塊が出現しそれが<エンシェントエネミ>めがけて飛んで行った。

 暫く燃え盛っていたそも炎が消えたあとに残っていたものは、もともとは地面だったであろうものが解けて消滅したであろう穴のみであった。

「こちら桐原梨香。戦闘終了しました」

 オペレーターの了解といういつもの対応を受けたあと、私たちは敵のコアを回収し、他の二部隊ともに戦闘が終了したみたいなので何処にも増援に向かわず、そのまま学園に帰還した。


 本日の残りの訓練もすべて終了し、自室に戻ってくつろいでいると、唐突にノック音が聞こえてきた。

 ドアに近づき、ノブを回す。

 そこに立っていたのはユリアだった。

「先輩、今ちょっと時間ありますか?」

 夕食までにまだ時間はある。とくに何もすることがなかったので、彼女を部屋の中に招き入れた。

「それでですね、先輩。さっきはなんかうやむやに終わってしまったんですけど、先輩の場合のこと、教えてもらってもいいですか?」


「そうですか…………」

 十分ぐらい当時の自分のことを語って聞かせるとユリアは興味しんしんと言った感じで話を聞いていた。

 そんなとき、またしてもそれは訪れた。

 ――――デンジャー、デンジャー――――

  ――――第二階層に大型エンシェントエネミーを確認――――

   ――――その数一――――

     ――――合同政府は第二警戒態勢(オレンジゾーン)を発令――――

      ――――住民はシェルターへ避難の避難準備を開始してください――――

       ――――上級訓練兵以上の防衛軍は至急第二ゲートまで――――

        ――――繰り返す……――――

「間隔短すぎないですか?」

 ユリアがそう言った。

 確かに、今日はもうすでに出撃している。だが、

「短くたって仕方ないって。あっちが私たちに気を使って一日に二度も来ない理由なんてないんだから」


 第三階層に降り立つと、そこにはすでに他の生徒会メンバーが待機していた。

「さてと、今回の敵は一匹のようだから、さっさと片付けて夕食までには帰るとしよう。いいか、一匹だからと言って油断するなよ」

 自分が一番油断しているんじゃと、そう思わせている沙羅先輩の一言。

 しかしそこは、歴戦の生徒会長だけのことはある。一瞬にしてその表情は戦闘へと切り替わった。

「The High Priestess」

 映し出されたのは繁華街のような場所。そこにいた<エンシェントエネミー>は今まで見たことのないような姿をしていた。

「場所はここから南西西に四キロほどの場所です。ただし、敵についての詳細は得られませんでした」

 『了解』と、全員が一斉に南西生へと移動を開始した。

 移動し始めて三分ほどで、それと遭遇した。

『おい、何だあいつ。今まで見たことも聞いたこともねえぞ』

『沙羅先輩の言うと売りですね。私もあんな<エンシェントエネミー>はみたことありません』 

 それは亀だった。ただし、大きさが今までの<エンシェントエネミー>とは比べ物にならなかった。

 割と大きい<エンシェントエネミー>ですら三十メートルぐらいの大きさしかなかったはずだ。しかし、今回のこれはどうだろうか?

高さ二百メートルはあるこの第三階層。それの優に半分は超えているんじゃないかというこの巨体。

 そんな大きな亀が、コンクリートでできた建物の残骸をむさぼっていた。

『こちら鳴神沙羅。これより戦闘に入ります。なお、敵は未確認種の模様。至急増援を』

 『了解』と、いつも通りのオペレーターの声。しかし、その背後ではバタバタとした音が混ざり込んできている。

『さてと、沙羅先輩。これ一体どうするんですか?』

 アーラの指し示す先にはもちろん、私たちのことなど気にも留めずに建造物を将くしている。

「とりあえず、攻撃してみますか? それとも、様子見をします?」

『よし、まずは攻撃してみるか』

 私の発言から、沙羅先輩は攻撃を選択した。


「シャイニング・ルーカス!」

「強化外装展開。完了セット、フルバーストモード、発動」

「ヴズルイフ」

「ホーリー・ブラスト」

「ブリューナク」

「The Sun!」

 あの敵にとっては大した距離ではないのかもしれないが、一応二百メートル程度離れてから一斉に遠距離攻撃を放つ。

 それらは、一直線に敵<エンシェントエネミー>へと突き刺さる。

『やったか?』

 沙羅先輩のそんな声。実際に普通の敵ならばあの稀有劇に耐えきれるわけはない。

 そう、普通の敵ならば…………。

 しかし、この、<エンシェントエネミー>が一筋縄ではいかないことはうすうす、というより明らかに目にみえていた。

 だから私たちは、その攻撃と同時に敵のもとに駆け寄る。

「Temperanceっ!」

 敵に向かい高速攻撃を仕掛ける。しかし、敵はそんな攻撃はなかったかのように、こちらに向けて顔を向ける。

 その口を大きく開く。

「The Emperor!」

 なにが飛んできてもいいようにあらかじめ防御壁を張っておく。

 そこにぶつかったのは、無数のコンクリート片。

 一つ一つは大したことのない大きさの欠片。

 しかしながら、塵も積もれば何とやら。目の前を覆うように飛来するコンクリート壁によって完全に視界が遮断されている。

 防御壁にぶつかったコンクリート壁がそのままそこにつもってしまっているのだ。

「The Hermit」

 積み重なったコンクリートを除去する。

『固まっての移動よりは、各自移動のほうがいいかもしれないな』

 そう言って沙羅先輩がThe Emperorの効果範囲外に飛び出し、敵の側面に回ら込む。

 それに続こうとした私たちを、沙羅先輩の一言が遮った。

『お前らはそこを動くな! 絨毯雷撃カーペット・サンダーブレイク

 沙羅先輩の必殺技であり、あまりの威力から上層部からの使用禁止命令が適応されている技を沙羅先輩が繰り出す。

 今度こそ。そう思えるぐらいの激しい爆発音とともに、全体で使用している回線がっ全てノイズに支配される。

 もうもうと立ち込める黒煙と炎の中、これは確実に葬り去っただろうと感じた。

 しかし、その中で動く一つの影。

「うそでしょ? だってあの技は……」

 サーシャ先輩がそうつぶやいたが、実際その通りだ。

 沙羅先輩のあの一撃を受けていまだかつて討伐できなかった<エンシェントエネミー>はいない。しかも、そのうちの大多数がコアすら残らずに消滅させられた点からみても、威力のほどは防衛軍の機体も含めて考えてみても、高い順位に入るだろう。

 それなのにもかかわらず、今回の敵はまだ動いている。  

 しかもそのシルエットから推測するに、どの部位も欠損させらていない。

 防衛軍の増援がいつ来るかもわからない。敵に攻撃は通用しない。

 まさに絶体絶命な状況だった。



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