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アイ采04

第三階層――旧総合居住エリアを移動するいくつのも影。

 そのうちの四つは、私、ティア、アーラ、そして沙羅先輩の<フェアリーアーマー>。残りは、金色のリング状の物体の中央にむき出しの眼が漂うといった不気味な<エンシェントエネミー>。MTE-15aと言われているそれである。

「ほんとさっきからなんなのよ、一体! なんであんなに逃げ脚がはやいのよ!」

 少しいらだったような口調でティアがそう言った。

 なんせ、かれこれ十分以上あれの追跡をしているのに、敵の数は一向に減っていない。

「そういうなって、基本的にあいつらはヒットアンドアウェイを基本戦術として戦っているやつらだからな。し方へのファーストアタックに失敗した以上は逃げるしかないんだろう。それに今回はまだましな方だぞ。場合によってはこの速度の二倍以上出してもまかれることだってあるからな』

 沙羅先輩が解説してくれる。もっとも、こないだの授業でそこについては担当のジョゼット先生から抗議を受けているので、今更それを聞いたところで、特に意味はないのだが……。

「でも変ですね? あれがそのような戦法をとる主な理由としては、大型の<エンシェントエネミー>と共生しているからですよね? 確か、自身が敵に不意打ちを仕掛け撃退することで、その大型の<エンシェントエネミー>から食料などを受けとっているんでしたよね?』

 アーラの捕捉。と言うか、疑問点。確かに、そう言われてみると変だ。この<エンシェントエネミー>は、その習性から、「災厄の化身」ともいわれているほどで、こいつらがいるということは、十中八九他に大型の<エンシェントエネミー>がいるはずなのだ。

 しかし、ここから見える範囲、及び、これまでの時間の中でそれらしきけ下は何も見えなかった。

 とそこで、私はある一つのことに思い至り、沙羅先輩のほうを見る。

 すると、あちらも同じ結論に達したのか、軽くうなずき返してくる。

 刹那、人々が立ち去って久しい廃墟が一瞬で吹き飛んだ。

「The Emperorっ!」

 急いで防御用のリミテッドスキルを発動する。

 かろうじて間に合い、重い一撃で障壁が振動した。

 この障壁は、この程度の<エンシェントエネミー>の攻撃なら、数分間は絶える程度の耐久力を持っている。

「ったく、あぶね―な。アーラ、敵の位置は?」

「攻撃の特性上、建物のあった北西方向かと思われますが……」

 沙羅先輩の問いに、アーラが煮え切らないといった感じの回答をした。

「が……?」

「はい、私たちが追っていた<エンシェントエネミー>は南西方向から北東へと移動していました」

 なにをいまさら。そんなことは、この場にいる誰もが知っていることのはず。敵が潜伏して攻撃してきたというのなら……。

 とそこで頭の中に一つの可能性が浮上してきた。

「そうか、私たちは追っていたんではなくて、誘導されていたってこと?」

 そう考えれば、納得がいく。さきほどの沙羅先輩は、こう言っていた。二倍以上でもまかれると。するとこの<エンシェントエネミー>は最初からこれを狙っていたのかもしれない。

「私はそう思う」

 アーラは肯定した。

 そのとき、ピシピシッと、障壁から嫌な音が走った。

 見るとMTE-15aが、その眼からビームらしきものを放っている。その後方には、瓦礫が粉塵となってはっきりとは視認できないが、おそらくLET-08系統であろう影が見てとれた。敵の属性などの細かな違いついてはまだはっきりとはわからないが、俊敏な移動速度と、剛腕な攻撃力を兼ね備えた敵がそこにはいた。反面、防御力は低いので、中距離から近距離にかけて攻撃がヒット知れば、簡単にダメージは与えられるだろう。

「敵の攻撃は、この障壁の身を狙っているから、私が障壁を解除すると同時に、辺りに散って」

 みんなが頷くのを確認する。その間も亀裂は広がって行く。

やがて、攻撃の手が止んだ。

 そのほんの一瞬のすきを突いて、障壁を解除する。

 左右に二人ずつ。それぞれが飛ぶと、一瞬遅れてさっきまで障壁が張ってあったところを、光を伴った線が通過して行き、背後のかつての産物が消滅した。

 それには目もくれずに<エンシェントエネミー>に攻撃を仕掛ける。

「Strength」

 自身の前に現れたその剣を掴む。

 その勢いを殺さずに、右上方から斜めに振り下ろす。

 その一撃で、MTE-15aのリングの一部が砕けた。それは、暫く回り続けていたが、数秒と持たずに急に止まり地面へと落下していった。

「The Chariot」

 徐々に輪郭が宙に溶けていくそれを、次の敵に射出する。

 だが、衝突したのはいいが、致命的なダメージは与えられなかったのか、敵の体勢が崩れただけだった。

 しかしそれでも、バランスを崩した結果、自身のリングの一部が地面にかすれてそのまま、地面にぶつかっているので、全く効果がなかったという訳ではないようだった。

 それに斬りかかろうとしたが、別方向から一筋の光が敵を射抜く。

 そちらに目を向けると、アーラが軽く手を振り返して来た。

 他の二人に目を向けると、そちらの戦闘も終わったようで、残りはあのLET-08だけとなっていた。

 すでに、粉塵は晴れて、その姿の大半があらわになっていた。

 それにより、敵が水棲系の性質を帯びているLET-08bであることが判ったが、それはこの際関係なかった。所詮沙羅先輩の雷撃が効きやすいこと以外に大して変わらないからだ。

「よし、これをさっさと片付けて今日は戻るとすっか。閃光ライトニング・……」

 沙羅先輩そう言って敵に攻撃しようとした。

しかし……。

「え? どういうこと?」

 ティアが驚きの声をあげたのは仕方ないことと言えよう。

 なぜなら、さきほどまでそこに君臨していたはずの<エンシェントエネミー>は、地響きをあげながら崩れ落ち、静かにその肉体をこの世界から消していったからだ。

 後に残ったのは、わずかな静寂。

 それと……。

「<フェアリーアーマー>?」

 アーラがぽつりとつぶやいたのを、マイクが拾った。

 ここからは<エンシェントエネミー>が倒されたときに生じた粉塵越しにしか見えないが、そのシルエットはまぎれも無く、<フェアリーアーマー>そのものだった。

 しかし、なにかがおかしい。

はたして私たちの知っている限り他の<フェアリーアーマー>は出撃しただろうか? 答えは否である。

 なぜなら今回は、私たち生徒会メンバーしか出撃していないからだ。

もっとも、私たち一年生組は厳密に言うとまだ正式に所属しているわけではなく、この戦い終了後に加入と言うことになっている。

つまり、今回の戦闘は、ただの研修と言ったわけだ。しかし、研修とはいえ敵は人工的に生み出された<エンシェントエネミー>ではなく、<アルカディア>の中に侵入した個体であるために、ちょっとした油断によって居住区に多大な被害が生じる恐れがあるので一瞬たりとも気が抜けないのは普段の戦闘と何ら変わりはない。

ちなみに、アリス先輩とサーシャ先輩の浸りは今日のところは学年演習のほうに参加しているためここにはいない。

 そんなわけで、この場には四機しか<フェアリーアーマー>はいないはずである。しかし、そこに見えるのは<フェアリーアーマー>以外も何者でもなかった。

 だとすると、残された可能性は二つ。

 一つは防衛戦線所属の<フェアリーアーマー>が、学園のほうに連絡を入れずに活動している可能性。

 ただ、仮にこの説が真実だとしても、<フェアリーアーマー>に搭載されているレーダーでこちらの存在を認識することができるはずだ。

 それにも関らずに、討伐後、一切の連絡が入らない。そうすると、この説はほぼありえなくなる。

 だとすると、もう一つのほうの可能性が高まる。

 それは……。

 と、突如その影が消えた。もともとはなにかのビルだったのだろう。一上空に飛んでから硬化していったのでおそらく建物の裏に移動したのだろう。

「……とりあえず、追いますか?」

 アーラのその提案に一同は賛同した。

 

「何の痕跡もありませんね……」

 建物の裏。もともとは小さな公園だったのだろう。だが、すでに錆付いて、使用する気にもならないような遊具が点在していた。

 そのうちの一つ、元は滑り台だったであろう物。ひしゃげ、原形を留めないほど壊れてしまっている。

その上に、一部詐欺がはがれたようなあとが残っているため、これを踏み台にして建物に上ったのだろうか? あるいは、飛び降りる際にここに着地したのだろうか? 

 それぐらいしか、手がかりになりそうなものは何もなかった。

「そうだな、このあたりを捜索してみるってこともできるが…………幸いここから二キロほど西に向かうとげ―トがある。アタシから連絡しとくから、お前たちは先に帰ってろ」

 それだけ言うと、沙羅先輩はこちらの返事など聞かずにどこかへと言ってしまった。

「も―何なのよ。沙羅先輩って、自分は一人でも戦えるからって、私たちをお荷物扱いして!」

 その態度が気に食わなかったのか、ティアが文句を言っている。

「流石にそこまでは言ってないんじゃない? それに、沙羅先輩は私たちにその謎の影について報告させようとしてるっても考えられない?」

 そう言って、アーラにアイコンタクトを送る。

 アーラは私だけに判るように、軽くうなずき、私に同調した。

「確かにそうかもしれませんね。だったら早く帰って報告を済ませてしまいましょう」

「も―、二人してなんかたくらんでない?」

 私たちの対応に不信感を抱いたのか、ティアがいぶかしむような目で私たちを見た。

「疲れたから早く帰ってゆっくり休みたいだけ」

 アーラはそう言って、ゲートの方へと移動を開始した。私たちもそれに続く。


「それじゃあ、一年生三人の生徒会入隊を祝って、カンパーイ」

 沙羅先輩が乾杯の音頭を務め、現生徒会メンバー六名が唱和する。

 余談だが、現在の<アルカディア>は複数の民族が入り乱れて生活しているため、こう言ったパーティなどではそのときの主催者ホストか、出席者の多い国の形式で執り行うのが通例となっている。

 今回の場合は、ホストは沙羅先輩で、さらに沙羅先輩に加え私も旧日本国籍のため、このような方式が取られることとなった。

 閑話休題。

「それにしても、この時期に生徒会に入るのってずいぶんと早いね」

 アリサ先輩がどこか遠い目をしながらそうつぶやいた。

 確かにこの二人が生徒会に入隊したのは七月の後半あたりのころであって、それに比べると早いのだが、

「……お姉ちゃんは、四月の中旬には入隊が決まっていた」

 そう、サーシャ先輩の言った通り、レベッカ先輩は四月の時点で生徒会に入っていたらしい。

 最も、適性検査が行われるのは大抵が五月のことなので、その辺の詳しい経緯は私は知らないし、お母さんたちに聞いても何も教えてくれなかった。

「まあ、なにはともあれ、生徒会に入隊したんだ。これからはそのことをいつも念頭に置いて行動しろよな」

 沙羅先輩が、暗い雰囲気になりつつあるこの状況を脱するためにあえてわかりきっているようなことを言った。

「至らぬことも多いかと思いますが、これからもよろしくお願いします」

 それに律義に返答しているアーラは流石と言うべきなのか、それとも堅苦しいというべきなのかは不明だが、生徒会に入隊したという状況に対してもいつも通りに冷静を貫いていた。

 大してティアはどうかと言うと、すでに集中力など散漫していてさっそく自身の目の前にある菓子類に手が伸びていた。

 その後歓迎会はつつがなく侵攻し、二時間ほどでお開きとなった。


 自室に戻り、シャワーを浴びる。

 心地いい温水が身体をしたたり、一日の疲れをいやしてゆく。

 しばらくそうしていると、不意に来客を告げるチャイムが鳴った。しかも連続して。

 誰だろう? ティアならばあえてノックをするし、アーラは一度押して返事がなかったら少しの間を置くし……。

 そう思いながら、浴室を出てバスローブを羽織って、玄関を開ける。

 するとそこにいたのは、訓練着を着用した沙羅先輩だった。確か、さきほどの歓迎会のときは制服姿だったはずなのに……。

「っと、入浴中だったか。すまないな。もう一度時間をおいてから改めた方がいいか?」

こちらの格好から、今どういう状況なのかを察した沙羅先輩はそう提案してきた。

 しかし、私はその提案を「中に上がって待っていてください」と言って断り、椅子に腰かけてもらった。

普段よりも急いで身支度を整えてから、改めてベッドに腰かけ沙羅先輩に向きなおった。

「それで、こんな時間に私の部屋に来るってことは、何か重要なことでもあるんですか?」

 訓練着来ていて、なお且つおそらくコネクターが入っているのであろう袋を持ってきている。そんな格好で、なんの連絡も入れずに私の部屋に来るということはなにか急ぎの用事があるのだとしか思えない。

 実際そうなのだろう。沙羅先輩は一度深くうなずくと、その口を開いた。

「いや、ちょっと気になることがあってな。梨香、お前も見ただろ?」

 一瞬、何の事だか理解できなかった。しかし、すぐさま思い至る。

「あの、<フェアリーアーマー>についてですか?」

 言った途端、またも沙羅先輩は首を縦に振る。

「そうだ。まあ、ちょっと外に出るがいいか? もちろん許可は取ってある」

 沙羅先輩に従い私は、コネクターに着替えた。


 沙羅先輩に促されて、<フェアリーアーマー格納庫>まで足を運ぶ。

 空調システムの影響で、本来の季節と同じ気候ではなくなり、人類にとって最適であるらしい温度に保たれた廊下を進む。

 そうすること数分。格納庫にはそこには先客が一名。

「鳴神さん、桐原さん。揃ったわね? 本作戦に同行するジョゼットです」

ジョゼット先生は、普段着ているようなレディースのスーツではなく、私や沙羅先輩と同じくコネクターを着用していた。

「それじゃあ、<フェアリーアーマー>に乗って出撃しましょうか」

 ジョゼット先生は、そう言って教員用の<フェアリーアーマー>に登場する。

 私たちも自機に乗り、第四ゲートへと続くカタパルトに侵入する。

 射出するためのユニットに<フェアリーアーマー>を固定され、高速で移動すること数十秒。学園の上部から北東二百キロほどの位置にやってきた。

「本日の作戦行動中に謎の<フェアリーアーマー>を目撃したのは、このあたりです」

 件の公園。

 つい数時間前と全く変わりないそこは、だが確かに変っていた。

「ちっ、ついさっきまでここにいた可能性が高いな」

 そう言って、沙羅先輩はある一点を指し示す。

 それは、さきほどの滑り台だ。いや、そのそばにある地面と言った方が正しいかもしれない。

 そこには、何者かに捕食されたのであろうSTE-05aの死骸が散乱している。

 それは、まだ完全に消滅はしていなく、今なお緩やかに宙に溶けている。

「先生、どうします? まだそう遠くには言ってないと思いますけど」

 沙羅先輩がジョゼット先生に指示を求める。

「……そうですね。とりあえずこのあたりを捜索して、もし発見したら増援を呼びましょう。それにしても、レーダーに反応していない敵となると、最終警戒態勢レッドゾーンは発令出来ないだろうし、よくて第二警戒態勢オレンジゾーンが、最悪通常警戒態勢グリーンゾーンのまま警戒強化されないかもしれないし……」

 ジョゼット先生は、索敵を推奨しているようだった。

「わかりました。梨香、あのスキルを」

 沙羅先輩からの指示が飛ぶ。

 私がここに通うようになってから一年目。まだあの四人で組んでいた時からの付き合いだけに私のリミテッドスキルを把握している。

「The High Priestess」

 直後、とある場所の映像が脳裏に映る。

 そこは、かつて歓楽街であったような場所。当時は、色とりどりのネオンサインで彩られていたであろうそれらは、今は灰色の中に沈んでいる。

 その中に、それはいた。

「敵を捕捉しました。位置はここから南南東に1キロ半ほど。やはり<ヒトガタ>です」

 私のその言葉に、一同の間に一つの懸念が走った。

「どういうことだ? 今までに確認された<ヒトガタ>は三体。いずれも防衛軍が討伐したはずだがっ!」

 沙羅先輩の声は、いつもより少し大きかった。その裏には、そうであってほしくないという思いが込められているのかもしれない。

「いや、不確定な情報だったから伏せていたけど、実はちょっと前からもしかしたら四体目が存在しているかもしれないって噂されていたの」

 アンジェラ先生はそこでいったん区切って、再度話し始める。

「先月、一機の<フェアリーアーマー>が戦闘によって破壊されてね。なんとか操縦者は緊急避難に成功して、そのまま帰還したんだけど。その後、回収部隊を派遣した時にはその残骸がなくなっていたから……」

「だったらほぼ確実じゃないですか。なぜ報告してくれなかったんですか?」

 沙羅先輩がアンジェラ先生の言葉に食い付いた。

「実際に、<ヒトガタ>になって行動しているとは限らないし、目撃者もいなかったから。実際にかつて同様のケースが起こったけど、そちらは今になってもEE化は確認されていないの。それに不確定な情報で生徒の不安を増幅させたくないでしょ? もっとも、こうして確認した以上は遅くとも明日の朝までには全校生徒に連絡するわ」

が、アンジェラ先生のその言葉で沙羅先輩は黙ってしまった。


 <ヒトガタ>が初めて目撃されたのは、二〇五四年のことだった。

 まだ第一世代のフェアリーアーマーが現役だったころ。

完成したばかりで試験運用期間中の第三世代数機や、いくつもの戦場を潜り抜けてきた第二世代総勢十数機での第一階層中規模EE殲滅作戦を決行した際の出来事だった。

 そもそも、第一階層内は索敵用兵器の系統が幻滅していて、どのくらいの量の<エンシェントエネミー>が存在しているのかも、今なお判明していない。

 今ですらそうなのだから、当時は更に危険度が増していた状態だった。

 しかし、作戦自体は特にきわどい場面はなく、むしろ比較的穏やかに進行していった。

 その過程で、四種の新型の<エンシェントエネミー>の核を入手したり、同系統の<エンシェントエネミー>で異なった属性に特化した個体を確認したりなど多くの戦果をあげた。

 七、八時間ほど行動したのちに、本部からの帰投命令が下った。

 そのときに、それは起こった。

 目の前に一機の<フェアリーアーマー>が現れたのだった。

 しかし、普通は第一階層に<フェアリーアーマー>が出撃することなどあまりない。事実、この時が二回目。

 それに、その機体のカラーリングやデザインは、今回の作戦に参加していた機体どころか、製造中のも含めてこの中の誰一人として見たことのないものであった。さらに、本来ならば操縦者が搭乗する位置には、黒っぽいカなにかで覆われている。

 そうじて、今までのとは明らかに違ったソレは、しかし、他の<フェアリーアーマー>と全く同一の作りをしていた。

 そのため、多少の不信感を抱きながらも防衛軍の面々の警戒心が少し薄れてしまった。

 そして、それが命取りとなった。

 ズサッと、なにかが刺さったときのような音が各々の耳に聞こえ、複数人の叫び声が鼓膜を突き破る勢いで聞こえてきた。

 そして、一同の目の前には、なにか黒い槍のような禍々しい物体が、操縦者が乗っていたところに突き刺さり、体勢を崩し重力に従って倒れてゆく<フェアリーアーマー> の姿だった。

 さらに数本の槍がこちらをめがけて飛んでき、それが数人に突き刺さる。

 たったの数分の間に、六人もの防衛隊員や訓練生が死んだ。

 そこでようやく、生き残った操縦者たちがフリーズ状態から帰還し、状況を把握した。

 そこから、総員で戦闘を開始して何とかこれの討伐を果たしたものの、その過程でさらに四人、計十人がこの作戦で命を落とした。

 そして、この謎の敵の残骸は、なぜか消滅しなかった。

 生き残った者たちがこれを持ち帰り調べてみると、この敵が数ヶ月前に単独での作戦遂行中、突如として消息の途絶えた<フェアリーアーマー>と同一のものであることが判明した。

 同機からの交信が途絶える直前に、戦闘を開始するとの連絡が入っていたためにおそらく、敵の討伐に失敗し、戦死したのちに、寄生型の<エンシェントエネミー>が媒体として使用したのではないかと言う説が浮上した。事実この機体からは、製造した時に用いたものとは異なったコアが摘出されており、これを裏付ける証拠となっている。

 これ以降単独作戦は行われなくなり、最低でも二人での行動が義務づけられた。

 しかし、この後に行動していたひと組が両者ともに死亡し、再び多大な犠牲を払ってこれを撃退した。


「それにね、私だって全ての討伐作戦に参加しているんだから、<ヒトガタ>のもたらす被害については十分に理解しているつもりよ。あの沙代先輩や梨沙先輩と一緒に参加した第一階層中規模EE殲滅作戦は、今でも鮮明に思い出せるわ」

 アンジェラ先生が言う。

本来アンジェラ先生が操っていた機体は、今彼女が搭乗している第五世代後期の機体ではなく第二世代の機体である。そして、前線に立っていたころから優秀な戦果を残していた彼女は当然ながらその作戦にも参加していた。

「先生から見て、母さんはどんな人でしたか?」

 唐突に沙羅先輩がそんなことを言った。

 と、そこで一つのことを思い出す。そう言えば初めて<ヒトガタ>とたたかった際に、自らの命と引き換えに、敵を討伐した人物の名を。

 鳴神沙代。三機しか製造されなかった第一世代の操縦者の一人にして、その三人の中でもっともはやく防衛軍に加わった人物。そして、沙羅先輩の母親であるその人の名を。

「…………。ほんとに先輩は強い人だった。戦闘面だけじゃなくて、全体的に見て。あんな状況の中、先輩の適切な指示があったからこそ私も含めて四人も生き残れたんだと思う」

 どこか遠い目をしながらアンジェラ先生がそういう。

「……………………」

 沙羅先輩が小声でなにかを言っているようだが、その音量の小ささでマイクでは拾うことができなかった。

「どうしたんですか、先輩?」

 とりあえずそう訊いてみたが、沙羅先輩は「いや、何でもないんだ……」と返すだけだった。

「よし。それで北北西だったけか?」

「それじゃ、全く反対方向ですよ。もう一度言いますけど敵の位置はここから南南東に1キロ半ほど先です」

「わかった。そんじゃ先に行くぞ」

 そう言って、沙羅先輩はそちらの方向へと、トライアングルブースター(第四世代後期以降の機体に搭載されている加速機関)の出力をあげて行ってしまった。

 さきほど言っていた言葉が何だったのか少し気になるところだったが、あまり詮索はされたくないだろうし、そのことについては聞かなかったことにして、私たちは沙羅先輩の消えていった方向へと移動を開始いた。


「やはり移動した後か」

 さきほど脳内で再生された映像と一致する場所。しかし、そこにはやはり<ヒトガタ>の姿はなかった。

「だったらちょっと確認してみます。The High Priestess」

 さきほどと同じリミテッドスキルを発動する。しかし、今度はなんの映像も見ることはできなかった。

 なので私は首を横に振った。

「ダメです。ここから五キロ圏内にはすでにいないようです」

 私のスキルのうちの一つ「The High Priestess」は、私を中心とした半径五キロ以内にいる<エンシェントエネミー>及び<フェアリーアーマー>の位置を探るスキル。

 複数の対象が存在する場合は、自身が認識していない範囲の中から近い順より順次再生されるといった訳だ。

 そのため、私の視界に入っていて、そこにいると認識している沙羅先輩とアンジェラ先生以外には半径五キロ以内にはいないことになる。

「どうします? このままある程度移動してから再度スキルを発動するといった手もありますが?」

「いや、確実性がない上に、おそらくあちらは私たち以上の移動速度を要している可能性が高い。行方不明になっている機体は防衛軍に配備されている機体の中で一、二を争うほど早い機体だから。だったら、もっと人員を追加して明日もう一度捜索した方が効率はいい」

 アンジェラ先生は冷静に状況を判断している。しかし、

「でもそれじゃあ……」

 実際に親を失っているからだろうか? いつもは適切な判断を下すことのできる沙羅先輩にしては珍しくなかなか引き下がろうとしない。

「いいたいことはわかります。確かに、ここでアレを討伐すると被害を抑えることは可能です。でも、この人数じゃどうしようもないも無いのもまた事実です。だったらここで、無理な戦闘を控えていたずらに命を失って状況を悪化させるよりはいいと思います」

 その言葉が、ついに沙羅先輩が折れていったん帰還することとなった。


 そして、翌日の早朝。防衛軍、及び防衛学園の生徒・職員に一つの連絡事項が回された。

「本日午前一○三○より、<ヒトガタ>の討伐作戦を行う。防衛軍、学園職員、及び生徒会役員は第一、第二ゲートにただちに集合せよ」

 と。


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