アイ采03
防衛学園の生徒に、休日はあっても休みはない。
なぜなら、いつ<エンシェントエネミー>がこの<アルカディア>に攻めてくるのかわからない状況なわけだし、そもそも、訓練を怠っていては、訓練校の名が廃るといった理由もある。
しかし、そこは誰が何と言おうとも、この学園に通っている生徒の大半が花の女子高生。統一訓練には参加していないし、あくまでも自由参加だが、週に一回の頻度で講義や訓練を行っている事前訓練科という学科の生徒もいるが、こちらもすべてが中学三年生で構成されている。
つまりは何が言いたいかというと、たまにはまる一日休みたい日もあるのだ。
それを考慮するためか、はたまた結果的にそうなったのかは不明だが月一の統一訓練の翌日には、前日の疲れをいやす目的で基本的には一切の訓練を行ってはいない。
また、この日に限って言えば、学園が許可さえすれば、普段申請したならばいつでも出れるこの第五階層にかぎらずに外出の許可が下りる。
とはいっても、学園に敷地内には商業施設など様々な施設が併設されているため、よほどの目的か用事がない限りほとんど外出することはないのだが……。
そんなわけで、めったにない休日は家族と過ごすといって一時的に他の階層に行っている人たちが数名いて、そこからさらに、休日の朝ということが働きかけ自室で寝ている人たちを考慮すると、いつもより人口密度の減ったラウンジには、三つの人影があった。
三人が囲むテーブルには、六つの椅子が用意されていて、ここにあと三人がやってくることはすでにここにいるメンバーは知っているし、はたから見てもそれがわかるだろう。
席順は、空席から見てから時計回りで、私、ティア、アーラとなっていた。
自身の食事を終え、今の時間が知りたくなったために私は、チラリと壁に掛けられている時計へと目を向けた。
時刻は午前八時を回るか回らないかと言ったところ。一概に遅いとは言い切れず、しかし、早いとも言い切れない、そんな時間帯であった。
そんな私の視線に気づいたのだろう、アーラが同じくそれを見た。
「それにしても、沙羅先輩たちきませんね」
時間を確認し、自分たちがここにきてからの時間を把握するなり、ぽつりとアーラがそう言った。
そのつぶやきは決して誰かに向けて放たれたものではなく、単なる独り言のようだったが、自身の食事の手を緩めて、ティアがそれに応じた。
「でもさ、集合時間は九時だよ。ただ私たちがついでにここで朝食にしようって話になって七時半からいるだけだもんね。ただ、ちょっと先輩たちは来るのが遅い気もするけど」
しかし、そういうティアはこの三人の中では、もっとも遅くやってきた人物である。しかも、七時半からいるといっているが正確にはそれは集合時間である、彼女はそれに十分程度遅刻してやってきたのであった。
とは言っても、それですら集合時間には大分ゆとりを持って指定の場所に来ていることには変わりないのだが。
「そうは言うけど、ほんとにまだ八時にもなってないんだよ。月にたった一度の休日のこんな時間からラウンジにいる人なんて希少価値の高いものだと思うよ」
自身の使った食器を近くの回収装置に入れながら私は二人の会話に参加する。
「でもさ、あっちから誘ってきたんだから、普通は一番早く来るとかするもんじゃないの?」
さきほどから若干ティアが不機嫌だったような気がしていたのだが、その原因がたった今判明した。
でもたったそれだけのことで、機嫌悪くしないで。と言いたくなるが、確かにもっともなことであるといえば、もっともなことなのだ。
今日、このめったにない休日にわざわざ学園のラウンジに来ているかというと、それは昨日の夜に突然、沙羅先輩から連絡が入ったからである。
とはいっても、時間と場所、参加する人物名しか伝えられていなく、内容などの詳細は行き場わかるとのことであった。
しかし私には、参加するメンバーと時期から一体何が目的なのかないついては大方の想像は月のだが、そこは言わぬが仏であろう。内容が内容だけに、より一層。
「うん。でも、重役出勤って言葉があるくらいだし……」
そんな内心を悟られまいと、適当にティアの振った話題を受け流す。しかし、どう間違えたのか結果的に火に油を注ぐ結果にしまったようである。
「そんなんじゃ駄目だよ。何、私たちをここに朝っぱらから呼び出しといて、自分は優雅な昼食を満喫して昼過ぎから来るから、私たちよりもだいぶ遅くなるって?」
そう言ってティアはいったん言葉を区切った。続く言葉を一気に発するためだろうか?
しかし、タイミングがちょうど悪かったようで、沙羅先輩がティアの後ろ側から現れた。
今日ばかりは、私服の着用が黙認されているのか、その姿は普段の学園生活では見る機会がかなり限られている者であった。もっとも、ここで沙羅先輩が来ているのは普通に市販されているジャージだが。
「そんなの絶対におかしいよ。そんなことやったら私が沙羅先輩を……」
「どうするんだ?」
「どうするってそりゃ…………って、沙羅先輩っ!? い、一体いつからそこにいたんですか!?」
何やら恐ろしいことを本人の前で口に出そうとしてしまったが、当の沙羅先輩はと言うと、見る人によって様々なとらえ方のできそうか笑みを浮かべている。
「みませんでした」
申し訳なさそうに、ティアが言った。
ここ最近増加傾向にあるのだが、確かに珍しいことだと思う。昨日もあった気もするが……。
ともかく、これで沙羅先輩もやってきて、残りは二人となった。しかも、日常をちらっと見る限り、彼女らは二人揃って現れるだろう。
「それじゃ、まだ時間もあることだし、今から食事買ってくるわ」
そう言って沙羅先輩は奥の方へと消えていった。
しばらくして沙羅先輩が自身の食事を持ってきて、再び席に着き、食事を開始した。
その間私たちは特に話すことも無かったので、ただただ無意味に時間を消費していた。
「しっかし、サーシャたち遅いな。一体いつまで待たせるつもりなんだ」
食べ始めてから十分ほど過ぎ、沙羅先輩の食事開始から今まで続いていた沈黙を破ったのは本人だった。
私は一瞬、そういう先輩だってさっき来たばっかりですよね、と言いそうになったのをぐっとこらえた。言ったところで、お互いのためにならないと判断したためだ。
食べ終わった食器の片付けを終えて、自身の椅子に腰を下ろす。
若干けだるそうに発したその言葉は、さして張りつめていたわけでもない空気を一気に弛緩させる程度の威力は持っていた。
ちなみに、普段こういった仕事を行っているティアは、食事を終えた今、黙々と目の前に置かれているさきほど追加で注文したパフェの攻略にいそしんでいる。
五十センチメートルほどの容器に入ったそれは、着々とその容量を減らしていっているのだが、一向に上の層が片付かずに若干溶けかけているが、そのことに本人は気付いていない様子だった。
「仕方ないことですよ、沙羅先輩。まだ集合時間まで十分な時間がありますし、私たちが少しばかり早く来てしまったのですから」
そう答えたアーラは、相変わらずいまどき時代錯誤な紙の資料から視線を動かしていない。
「まあ、そう言われればそうなんだけどな。……っと、噂をしたらなんとやらだ」
アーラから視線を外した際に、なにげなく入口付近に目を向けた沙羅先輩はこちらへと向かってきている二人の姿をとらえたようだった。
そう言われて私たち残りの三人も、そちらを向く。
と、確かにそこには見知った二人の少女がこちらに向かって歩いてきていた。
一方は、肩から腰までの長さを二等分するぐらいのところまで伸ばした金髪の少女だ。この少女が、さきほど沙羅先輩が言ったサーシャ・スチュアート先輩本人であのレベッカ先輩の実の妹。
姉のようにフレンドリーな性格をしているが、姉とは違って一度負の方向に走ってしまうと、いつまでもそこで停滞してしまうような人だ。実際あの時も……。
もう一方はプラチナブロンドの髪を、腰のあたりまで伸ばしている少女。この人は、統一訓練ではもちろんのこと、学園生活においてもよく行動を共にしている、アリサ・ラ・フォンテーヌ先輩である。
こちらは学園内に置いて、ある意味で天災と謳われる少女であり、かわいい女の子が大好きという先輩だ。一番のお気に入りはサーシャ先輩のようで、突然サーシャ先輩に抱きつくアリサ先輩の姿が度々確認されている。もしかすると、この二人が行動を共にしている理由はそう言ったことも関係しているのかもしれない。
もっとも、この二人がお互いのことをパートナーとして認め、タッグを組むようになったのは昨年の夏ごろに沙羅先輩の計らいで二人を生徒会に勧誘し、二人だけで<エンシェントエネミー>と戦わせ続けたからだ。それまでの数ヶ月間は今の姿からは想像もできないほどの犬猿の仲で、すれ違うだけでもお互いが不快感を抱くほどだったらしい。
何故そういう状態になったのかは知らないが、ともかくこの二人のそういった時代を知っている私としては、なにかこう、ほほえましい気持ちがわき上がってくるのであった。
「すみませんみなさん。ちょっとばかり遅れてしまったようで」
そう言ってアリサは丁寧に腰を折った。それに続き、隣ではサーシャが同じようにしている。
「なに、気にすんな。集合時間まではまだ時間はたっぷりとあるんだ。アタシたちが集合時間のだいぶ前からいただけだから」
沙羅先輩はさきほど自分がアーラにいわれたことを、そのまま自分の言葉に置き換えてアリサ先輩に言った。
もっとも、そんな裏事情のことなどアリサ先輩は知るわけも無く、「わかりました、では失礼して」と言って、沙羅先輩の隣の席に腰を下ろした。そうすると自動的に、サーシャ先輩がアーラの隣に座ることになったのだが、自身の半身と言っても過言ではない人物が隣に座っているためなのか、特に何も起こらずに着席した。
ともかく、これにてテーブルは囲む座席がすべて埋まったことになる。
しかし、全てが埋まったからといって、何か壮大な事件が起こるわけでもなく、起こったことといえば、ほんの些細な会話のみだった。
「さてと、そろそろいいころ合いだろう。みんな行くぞ」
全員が食事を終え、ひと段落ついたところで沙羅先輩がそう言ってラウンジを退室した。私たちもあとに続き、ラウンジの外へと出た。
本日の目的のうちの一つ目は、昨日の訓練である程度の成績を残したために、そのお祝いということだった。
それは、もう一つの目的が終ってからということで、今私たちは敷地の南側を目指していた。
「それにしても、こっち側に一体何の用ですか?」
いまだに何のために向かっているのかを知らされていないティアが、興味をこらえきれないのか、それとも自身が知らないということがお気に召さないのか、私たちにそう訊いてくる。
別に答えてもかまわないのだが、なんとなく言うのがはばかるようなことなので、サーシャ先輩本人に任せようと、そっとそちらを見やった。
すると、こちらの視線に気づき、その意図を察したのか、サーシャ先輩は軽くうなずき口を開こうとした。
そのとき、
――――デンジャー、デンジャー――――
――――第二階層に中型エンシェントエネミーを確認――――
――――その数およそ五……六……特定完了 その数九――――
――――位置情報を修正 対象は第三階層に到達した模様――――
――――合同政府は最終警戒態勢を発令――――
――――住民は付近の防衛関係者の指示に従い、待機してください――――
――――上級訓練兵以上の防衛軍は至急第二ゲートまで――――
――――繰り返す……――――
そんな警報が辺りに鳴り響いた。
「こんなときにか……。まあ、なっちまった以上は迅速に対応する。というわけでお前たち、出撃するぞ」
流石は最上級生と言ったところか。このときの沙羅先輩の意識の切り替えは早かった。
それにつられて私たちも、今が休日だということを意識の外に追いやり、気を引き締めた。
「ちょっと待ってください。今はせっかくの休日なんですよ。何も行かなくても……」
と、この空気を壊し、皆の意気込みを空回りさせたのはやはり、ティアであった。
本人としては、別に悪気があったわけではないだろう。ただ単に、折角休みなのだから、いろんなことをしたかったのだろう。
しかし、その言葉で沙羅先輩とサーシャ先輩のまとう雰囲気が若干変化した。
「ティア、お前は本当にそう言っているのか?」
静かな問いかけだった。
しかし、そこには重大な意味が含まれていた。
そして、それに気づかないほどティアは馬鹿ではなかった。
今からおよそ二十年前。当時まだ<アルカディア>は第一階層から第四階層も<エンシェントエネミー>の被害を受けてはいなく、まだ不安定ながらも、人々は平和な生活を送っていた。
しかしあるとき、それは起こった。
小型の<エンシェントエネミー>が数体、地上へと出るためのエレベーター付近を通りかかったのである。
しかし、それ自体は普段からよくおこることであった。しかし、その日はいつもと違ったのである。
なんと<エンシェントエネミー>が、エレベーターを破壊したのであった。
あっけなく壊れたそれは、しかし、第一階層と地上をつなぐものだったので、第二階層には<エンシェントエネミー>は到達しなかったのである。
そして、其の時事地は人類にとって、決して悪い情報ではなかった。なんてったて、侵入してきたのはあまり強そうには見えないものばかり。
人々はそのために油断をした。
そもそも、普通の兵器ではあの怪物たちを倒すことができないためにここ<アルカディア>を作ったという事実を忘れてしまっていた。
さらに、自分たちは今日非番だからと言って、戦闘に参加しなかった兵士も多かった。
今までは強固な壁があったし、その守りの堅さゆえに戦う可能性は少なかった。しかし、それが破られた今となっては、そんな態度じゃ駄目だということに気付いたのはだいぶ後個ことだった。そして、時はすでに遅かった。
あっという間に第一階層は崩壊した。生き残ったのは二万人ともいわれているが、当時防衛区の人口は非常に高く四千万人はいたはずである。
そこまで壊滅的な被害にあったのだ。
ひとびとは第一階層を立ち入り禁止区域に設定した。このとき、防衛区にもっと人類を守ろうといった強い意志を持つものがいたのならば、歴史は変わっていたかもしれなかった。
だがしかし実際は、その危機感のなさがその後の人類にとって大きな爪痕を残したのであった。
こんなこと、一般でも習うこと。ことさら、防衛遊撃科はこの悲惨な事件の二の舞にならないように努力しているのである。
だったら、さきほどの自分の発言がいかなるものかの判別がついただろう。
「私はね、たとえこの貴重な時間を無駄にしても、それで救われる命があるのならば、それでいいと思っているの」
そこにサーシャが優しく包むような声でこういった。
「それに、自分がそんな態度をとったばかりにいざ<エンシェントエネミー>が攻めてきたときに家族を危険な目にあわせたくはないでしょう?
その一言が心に何らかの影響を及ぼしたのだろう、ティアは「うん。みんなのためにも、私がやらなくっちゃ」と、そうつぶやいた。
「沙羅先輩。早く第二ゲートへ行きましょう」
さきほどまでの態度はどうなってしまったのか、突如として防衛の意識が高まったティアはゆっくりではあるが、体が第二ゲートのある方向へと移動している。
「よし、じゃあ行くぞ」
沙羅先輩のその声とともに、私たちは第二ゲートまで駆け足で向かった。
途中、今回の敵が二手に分散したという連絡が入り、それに対処するために、戦力を分割することとなった。
第二ゲートを出たら、私とティア、アーラに沙羅先輩が北西に、残りの二人が北へと向かうこととなった。
ゲートを出て、五分ほどで敵集団と遭遇した。MTE-15a。赤茶けた錆が全身を覆った、ムカデのような形をしている。ギシギシと動くたびに嫌な音を奏でるその節足動物特有の足の先は、一つ一つがアイスピックのように鋭くとがっていて、それを駆使した貫通攻撃を主に行う。
そんな、通常の進化ではありえないような生物が六体ほどそこにはいた。
「こちら鳴神沙羅。敵発見。これより戦闘に入ります」
沙羅先輩は、敵の捕捉を端末で連絡した。直後に「了解」と短くオペレーターが返した。
それを聞くなり、沙羅先輩は敵に背を向け、私たちのほうに向きなおった。
「よし、じゃこれから戦闘を開始するわけだが、梨香、お前なら分かるよな?」
何の脈絡もなしに沙羅先輩がそう言った。
普通に訊けば、大抵の場合何が?と、きき返したくなるようなそんな言葉だった。しかし、今までの経験からなんとなくこうだろうという予感はした。
「まあ、そうですけど。本当にやるんですか? 私はともかくあとの二人は昨日の訓練が直接戦った初めての体験でしたよ」
「そうか。でもまあ別にかまわんだろ。なんてったって、梨香はなんの訓練も予備知識もなしに五体の<エンシェントエネミー>を倒したんだからな」
とりあえず確認はしてみたのだが、答えはやはりイエスだった。しかも即答。
もっともこの先輩と戦闘に出ると、大抵の場合はこうなってしまうので、最初っから私もそのつもりだったのだが……。
「えっと、りか一体どういうこと?」
こちらの会話が理解できなかったのだろう、アーラが私にそう訊いてきた。
「ん? ああ、アタシはお前たちが戦ってる姿を見てあとで指導してやっから、お前たち三人だけであれと戦いな」
しかし、答えたのは沙羅先輩のほうが早かった。
その言葉を聞くなり、二人の顔が一瞬にして驚愕に染まった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。いきなり? いきなりですか? 私たち、まだ実戦に慣れてないんですよ? もし何かあったらどうしてくれるんですか?」
しばしフリーズした後、復活したティアが沙羅先輩に詰め寄った。
「安心しろ。もし万が一のことがあったらアタシが助けるから」
が、沙羅先輩のその一言で、あっけなく沈下された。
「それでは、とりあえずこのあいだと同じように戦いましょう」
アーラのその一声で、私たちはいまだこちらに気付かず何の警戒もしていない<エンシェントエネミー>に攻撃を仕掛けた。
「ソアリング・シュートっ」
アーラの放った一撃が<エンシェントエネミー>の一体に命中する。
自身の装備のうち、両肩に取り付けられている自立型ユニットを自身の手に持つライフルのような形状をした装備に装着し、そこに充填されているエネルギーを瞬間的に発射する。
アーラの操縦する<フェアリーアーマー>、後方支援型第六世代シルフィードの基本的な戦い方だ。
急所を正確に射抜くことに成功したのか、その一撃であっけなく崩壊する。無造作に散らばった錆びた鉄のようなものの塊は、すでに生物としての機能を消失し、ただの障害物になり果てていた。
しかし、そんなものなど<エンシェントエネミー>にとっては些細なものには感じないのは、まず初めにこちらの存在に気付いた個体が大きく跳躍する。やや幅の狭い放物線を描きその個体がかつての仲間の死体を飛び越え着地する頃には全ての個体が宙へと待っていた。
ガシャガシャと、古びて壊れかけた機械を無理に起動させているような、そんな音とともに近寄ってくる五つの<エンシェントエネミー>の内一つにティアが接近する。
私も、ティアが向かったのとは違う個体に攻撃を開始した。
「Temperance」
敵の内一体が突如としてその動きを止めた。
必死になって脱出を試みようとしているのかその無数の脚が不気味な動きを見せるが、全くと言っていいほど、なんの進展も見られずに徐々にその輪郭をあいまいにさせてきている。
時間経過とともにあれは消滅するだろうと、ほかの<エンシェントエネミー>を見る。
ティアは自身の握る剣で敵の脚を連続して切っている。すでに機動力の低下したそいつはなすすべも無く肉体の体積を減らしていっている。
アーラも、再びエネルギーを充填したのか、さきほどと同じくリミテッドスキルを発動させ、また一体の敵を葬っていた。
負けじと私も、残り二体のうち、ティアの背後に回り込んだのか、今に攻撃せんとしている方に狙いを定めた。
「the Chariot」
高速で飛ばされたものは、そこに転がっていた<エンシェントエネミー>。見た目同様にもろかったのだろう。それらはぶつかった衝撃であっけなく瓦礫と化した。
よく見ると、さきほどまでティアが攻撃していたものの姿も確認できないことから、とっさの判断でそれを巻き込むように誘導したのだろう。
ともかく、これで残るはあと一体。
私は一気にそれとの差を詰めて、左右から私とティアが同時に攻撃を放った。
全身にくまなく亀裂が入り、その個体も残骸の中の一つとなった。
「こちら桐原梨香。戦闘を終了しました。なお、この戦闘による一般人、防衛軍に負傷者はいません」
辺りに他の敵がいないことを確認し、私は本部への報告を済ませた。
「案外思ってたほど、難しくはなかったね」
勝利の余韻が残っているのか、ただでさえ高いテンションが沙羅に上乗せされた状態のティアが、いかにも今回の戦いには危険なシーンはありませんでしたといった感じのことを言った。
「……って、りーたん。もう少し気をつけてよ。危うく私も巻き込まれるところだったじゃん!」
が、直後に自分が背後から狙われて時に私が行った行動を思い出したのか、やや子供っぽい怒り方で私に文句を言ってきた。
「ごめん」
一応危険な目にあわせてしまったので、とりあえず謝罪をする。
と、あちらもそんなには怒ってなかったのか、次は気をつけてねと、そんなことを言われただけであとは何も其の事については言ってこなかった。
「いまサーシャから連絡が入った。あっちも敵を撃破したそうだ」
沙羅先輩がここではないところで戦っていた先輩たちの勝利を教えてくれた。
「それでだ、今日の午後一時にラウンジに集合できるか? 少しぐらいは払ってやっから、これからさっきの続きをやるぞ」
そう言って沙羅先輩は盗伐した<エンシェントエネミー>のコアの採取に向かった。
と、そのとき。
端末に一本のボイスコールが入った。
「もしもし、沙羅先輩。一体なんですか?」
かけてきた相手は沙羅先輩だった。
かった数百メートルしか離れていないのだ。普通に直後会話した方がハイ亜y。
そう思っていると、やけになにかを期待したような、そんな声で沙羅先輩はこう言った。
「なあ、梨香。お前ってさ、アタシら生徒会に入るつもりはないか? 生徒会って言っても、その役割は有事の際の防衛に加わること。もちろん、強制はしないし、場合によってはティアとアーラと一緒でもいい。もう一度言うが、無理強いはしない」
と……。




