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イリペス05

 叔父は常々言っていた。

 この世界は不思議なことで満ち溢れている、と……。

 だからもしそんな不思議なことを体験したならば、逃げないで立ち向かえ、と。

 恐いものから逃げてばかりだったそのときの私は、まだ何のことかわかっていなかったし、特にわかろうともしていなかった。

 そう、そのときは……。


 目の前で自然の摂理にそぐわない現象が起こった場合の対処方法を知っている人物は果たしてこの世界にどれほどの人数いるのだろうか? 少なくとも、そんな人種がこの世界に飽和しているとは思えないし、当然私自身もそんな卓越した存在ではない。

「今までのことは、なんなのでありますか?」

 そう訊いてみたのはいいが、納得のいく答えが返ってくるとも思えない。

 それほどまでに、目の前で起こった現象があまりにも現実とかけ離れていたのだった。

「えっとね、望月さん。話すと長くなるんだけど…………」

「いや、そのことは僕が説明しよう」

 どこか気まずそうに話す紅葉路さんの言葉を遮ったのは、武井先生であった。

「武井殿、いったいなぜ?」

「そのことについてもきちんと話すから。……っと、その前にまずは授業を始めるからひとまず席につけ」

そう指示されて、とりあえず私たちは自分の席へと戻った。


「よし、お前達。一校時目は自己紹介カードを作成してもらう。前から紙を渡すからな」

 武井先生がプリントを順番に配る。ほどなくして、御神楽さんからそのプリントを受け取った。

「それから、今から名前を呼ばれる生徒はちょっと先生のところに来い。紅葉路あかね、御神楽あきな、望月おうな、以上だ」

 名前を呼ばれ、私たち三人は先程紅葉路さんが連れて行かれた選択教室に連行された。

 教室を出るときの、他の生徒達のあの独特の視線が突き刺さってきたのはちょっと嫌だったが……。

 それは置いておいて武井先生曰く、

イーリトスとは悪の組織アステルと戦い、世界の平和を保つ存在だということ。

イーリトスは各々に対応したプレアーストーンというアイテムで変身すること。

イーリトスは全員で七人いると言うことと、今のイーリトスは三人しかいないということ。

 アステルはポラリスというボスと十三人のその部下がいるということ。

 ポラリスは今から二十年くらい前に武井先生や銀河さん、早乙女さんに藤堂さん四人で封印したこと。

 ポラリスは四人がそれぞれ力の一部をかつての自分が変身するために使用したアイテム四分割された状態で封印されていること。

 今の幹部の狙いが恐らく封印されたポラリスの開放であること。

 ポラリスを封印したメンバーの一人である藤堂さんという人物と連絡が付かないこと。

 それらの情報を私たちに教えてくれた。

 でも、私はそれらをどこか他人事のようにきいていた。自分にも関係がないわけではないことなのに、関係ないものとしてとらえた。

 だって私はイーリトスじゃない。二人みたいに戦いに身を投じたわけではないのだ。

まだ私は元の世界に引き返せる。守ってもらうだけの、普通の人間に戻ることができる。

そんな甘い考えに、私は囚われていた。


それからいくつかの質問をし、詳しいことは今日の放課後Galaxia.にて説明すると言われて私たちは教室へと戻らされた。

 その後、学級組織作りなどをつつがなく消費した私たちは、高校生活初のお昼休みを迎えた。

 持参した弁当を囲むメンバーは私に御神楽さん、紅葉路さんにそれからまだあまり話したことのない早乙女さんの四人だった。

「三人ともなにかやらかしちゃった? なんか一時限目の時に先生から呼び出されていたみたいだけど……?」

 このメンバーの中で唯一イーリトスとは関係ない(実際は私もだが、武井先生が言うにはあの空間の中で活動出来ていたのならば適性はあるとのこと)生徒なのでそう思うのは不自然なことではないだろう。

「いや、特にこれといったことは何もしていないはずなんだけどちょっとね?」

 紅葉路さんは苦しい言い訳を発動した。

「あ、そうなの? だったらいいや。あ、それでね今日の放課後って……」

 早乙女さんが何かを言いかけたそのとき、

「早乙女あおいっていう生徒はこのクラスよね?」

 教室前方のドアが突如として開かれ、早乙女さんを呼ぶ声が聞こえた。

「あ、お姉ちゃん! ちょっとごめんね」

 そういって駆け寄る早乙女さんは、お姉さんと二言三言会話をした後教室から出て行ってしまった。

「なんだったんだろうね? 早乙女さんのいっちゃたし……」

 少々残念そうに紅葉路さんが言う。そういえば紅葉路さんが彼女を私たちの席まで連れてきたのだった。

「ま、そのうち帰ってくるでしょ! どうする、待ってよっか?」

 そんなことを言いながら、御神楽さんはお弁当の包みを紐ときさっそく食事の準備を始めている。

「あきな、早速食べる気満々じゃん」

「もちろんだよ! 何のためにこの時を生きていると思っているのさ!」

「きっとあきなにとっては食事のためなんだろうね?」

「さっすが、幼馴染は違うね! あたしの考えてること全部お見通しかぁ!」

「いや、あきながばかなだけだよ」

「なんですとー! 確かに風邪は引かないし高いところは好きだけどさ、それは流石にないって!」

 そんなたわいもない会話をしていると、それに気付くのが遅れてしまった。

 パリーン!

 本日二度目のガラスが割れる音。とっさに私たちは窓のほうを向く。

「よ、やっと学校が終わったぜ。たっくよ、午前授業だから良かったもののこれで俺たちまで午後までみっちり授業あったらって思うとお前らに逃げられる可能性があったから面倒ってやつだよな? その点お前らは午後まであるんだろ?」

 朝に一度襲撃を仕掛けてきたハマルが再び現れた。

 それに、朝の時と同様に、辺り一面は色を失っていてまた誰も人はいなくなっていた。

「たっく、また現れやがったな!」

「いくよ、あきな! 望月さんは離れてて!」

 そういって二人は、同時に変身するためのキーワードを紡ぐ。

「「メタンフィエシス」」

 直後、二人はまばゆい光に包まれた。しかし、その光はすぐに消え去り、そこには先程までとは別の衣装を身にまとった二人が立っていた。

「熱情の赤き光、ルービス!」

「友情の橙の光、トーパス!」

 二人はかっこよく決めポーズをとった。

「お、さっそく変身してくれたか。このときをずっと待ってたんだよな! にしても、あいつらも律義だよな。お前たちに手を出すなって言ったら本当にださねぇんだもん。あ、あいつらが弱いから強い俺様のこと待ってたのか。ま、んなこったどうでもいい。めんどくせー学校から解放されたんだ、さっそくお楽しみタイムと行きますかね!」

 ハマルが二人に向かってとび蹴りを放つ。

 が、それはあっさりとかわされてしまった。

 しかしハマルは蹴りの勢いを壁を蹴ることで反射し、再び攻撃を放つ。

「っ!」

 ルービスがこれを両手で受け止める。顔面を狙った拳はそこで勢いを失ったが、そのときのエネルギーはルービスに加わり、彼女を吹き飛ばした。

 窓ガラスを突き破り、ベランダのフェンスにかろうじてぼろ雑巾のようにぶら下がるルービス。

「ルービス!」

 その行方を目で追ってしまったトーパスに、一瞬の油断が生じる。そして、その隙を見逃すほどハマルは戦闘に慣れていないわけではない。

「うっと、何処見てるんだい? そのままだといかにも蹴ってくださいって言っているただのサンドバックだぜ? もっとも、俺はお前のことを一方的に攻撃できるからそういうのって嫌いじゃないんだけどさ、反撃も何もしてこないってのは攻撃しがいに欠けるんだよなッ!」

 背後を思いきり蹴られたトーパスはそのままルービスと同じ方向へと跳んでいき、彼女に激突して止まった。

 それは、傷つきながらも懸命に立ち上がろうとしていたルービスに、重い攻撃を与えるには十分なものであった。

「<勤勉な農夫の(ティーガーデン)>!」

 そこに追い打ちをかけるように、ハマルは必殺技を放つ。

 謎の光が次第に彼の周りに集まりだし、そして、放たれた。

 光の集合体はそのまままっすぐにルービス達のところへととんでいき、彼女たちを飲み込んだ。

 光が収まった先には何もなかった。割れた窓ガラスも、ベランダも、そしてルービス達も……。

「やたっか!?」

「それ、死亡フラグって言うんだぞ。覚えておけ」

 外からそんな言葉が聞こえる。しかし、声の主はどこにいるかわからない。

 しかし、これだけは分かる。彼女もまたこの空間の中で動けるというのは意外だったが、彼女ならば不思議ではない。Galaxia.の常連なのだから。不思議を知っている、叔父の店の常連なのだから。


 そっか、やっぱり受け入れるしかないんだね。

 受け入れた上で、立ち向かわないといけない。

 逃げてばかりだったこの私が、いつも誰かに守ってもらえると甘えていたこの私が。

 でも、不思議と怖くはなかった。紅葉路さんや御神楽さん、そしておそらくは彼女も……。

 身の回りにそういった人がいるからなのだろうか? 恐いはずなのに恐くはなかった。

 むしろそれらを失ってしまうことのほうが、私には怖かった。

 だったら私も一緒に戦って、それを守りたい。

 守るための力なら、私にも持つ資格がある。でも、それだけじゃ駄目だ。実際に使えなければ。

 だから、お願い。私にその力を!

「メタンフィエシス!」

 黄色の光が私を包む。

 どこか優しく、なにかが満たされていく。そんな光だった。

「幸福の黄の光、シートス!」

 特に意識をしたわけではないのにもかかわらず、自然とそんな言葉が口からこぼれた。

「ん? また新たな敵かよ? それに折角二人を始末したと思ったら変な奴が助けてやがるしよ……。まあいいや。そっちの方が面白そうだしな。あんなゼラチンみたいな柔らかさよりも、もっとこう、する眼みたいに歯ごたえがないと何事もつまらねぇからな! <勤勉な農夫のガ……」

「ハマルくん、そこまでにしてくれないかしら?」

 そういって突然現れたその人物は、ハマルのことを殴り吹き飛ばした。

「てぇな、何しやがるんだ、エルナト! こいつは俺の得物だ! 新たな敵だってな、俺が殺すんだ。いいか、絶対だぞ。お前なんかにこんな良さげな得物くれてやっか。こいつは俺が見つけた得物だ、だから俺が殺る。別に文句わねぇよな?」

「はいはい、わかったから後にしてくれないかしら? 私たち、まだ学校が終わってないのよ?」

「だからなんだよ? 俺は終わった。それだけで充分だろ? お前たちの学校がまだ終わって無かろうが俺には一切関係のないことだ。むしろ今の今まで待っててやったんだから感謝してほしいとこだね。お前たちが約束を破ってこいつらのこと殺すんじゃないかってひやひやしながら待ってたんだからよ」

「ちょっと、私やお姉ちゃんはあんたとは違うんだから」

「とにかく、イーリトス側を襲撃するのはハマルくんの勝手だけど、私たちの休み時間まで奪わないでくれないかしら? 私たちが放課後を迎えれば、後は好きにしていいんだし」

 その言葉に、ハマルは少し考えてから頷き去っていった。


「まったく、非常識にも程があると思わない、シートスさん?」

 そう声をかけられたのはいいが、私はどう返していいかわからなかった。

「まあいいわ。ごめんなさいね、貴重な休み時間を無駄にしてしまって。あ、それと……」

 彼女はそこでいったん起義理、声をひそめて言った。

「ベランダでお友達を回収しているであろうあいかにも、ごめんって誤っておいてくれないかしら」


To be continued.




~次回予告~

おうなちゃんもイーリトスに覚醒し、三人となった私たち。

でも、いつもいつも襲い掛かってくる敵には勝てない。今のところなぜか見逃してくれるエルナトたちならなんとかなるけど、ハマルが単独で襲ってきたら今の私たちではどうすることもできない。

だから私たちは今はプレアーストーンを奪われて戦えないあいか先輩に特訓を頼んでみたんだけれど……。

次回、Chapter06.「先輩」




みんなの願い、いつかきっと、あの虹の向こうへ……


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