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僕の方が先に好きだったのに。魔王を倒して幼馴染を迎えに行ったら知らないオスが家から出てきた

作者: モコナッツ
掲載日:2026/06/08


「……見事だ、勇者……」


 自らの腹に刺さった聖剣と俺の顔を交互に見ながら、彼女は不敵に笑った。

 剣を伝って拳を濡らす血が、その賞賛が虚飾ではないと告げている。


 俺も肩で息をしていた。今、反撃されればもう避ける力はないだろう。最期に死出の旅路に付き合う覚悟はしていたが、彼女の気高さはそれを良しとしなかった。


「……お前もな」


 互いに視線は外さなかった。禍根もない。恨みもない。何度も切り結んだ者同士に生まれた、奇妙な縁。勇者と魔王、そういう関係でなければもっと別の出会い方があったのかもしれない。


「さらばだ、偉大なる王よ」


 彼女は目を閉じ、もう何も語らずに少しだけ微笑んだ。やがて眠るように俺の肩に倒れ込む。

 そうして、剣が刺さったままの彼女を抱き止めてどれくらいの時間が経っただろう。自然と頬を涙が伝っていた。これが悲しみから来るものなのか、安堵からなのか、俺には分からなかった。


 ◇


「終わりましたね、勇者様」

 魔王の亡骸を魔王城の麓に埋葬した後、聖女がにこやかに微笑んだ。薄青の髪が夕日に美しく輝いて、俺は少しだけ目を細めた。まだ実感はないが、それもこれから少しずつ変わっていくのだろう。


「これで俺たちも晴れて英雄様って訳だ。もう絶対に戦わねえぞ。あとは一生遊んで余生を過ごしてやるぜ!」

「お前らしいな」


 俺に気を遣っているんだろうな、というのが分かった。戦士は何も考えていないように見えて、いつも人一倍周りの事をよく見てくれる。

 三年間、辛いことも多い旅だったが、仲間に恵まれたお陰でやり遂げることができた。


「勇者、お前はこの後どうするんだ?」

「私たちと一緒に王都に戻りませんか? 祝典もあるでしょうし、勇者様がいればきっと市民の皆さんも大盛り上がりですよ」


 二人の気持ちは痛いほど伝わった。三年間死線を共にした仲間だ。本音を言えば、ここで別れたくない気持ちもあった。だが、そもそも俺が旅に出たのは名誉のためでも、ましてや、この世界に生きる人達のため、なんて高尚な理由でもない。


「悪いな。待たせてる奴がいるもんでな」

 考えるより先に、そう口が動いていた。故郷で待たせている幼馴染。彼女が安心して暮らせる世界を作りたくて、俺は今日まで戦ってきたのだ。


「……だな」

「相変わらず、ですね」


 二人は呆れたように顔を見合わせる。聖女だけは少し顔を伏せた後、「式にはちゃんと私も呼んでくださいね」と涙ぐみながら笑った。当たり前だ。


 進む道は違っても、俺たちは同じ方向を向いている。俺たちが救った世界を今度は別々のやり方で守っていく。それだけだ。


 そう。この時までは、本当にそう思っていた。


 ◇


 後日改めて王城に報奨を受け取る約束をして、その場で別れると、全速力で故郷の村へと帰った。


 不思議なもので、つい先ほどまでは満身創痍だったくせに、今は腹の底から力が湧いてくるようだ。


 もうすぐ彼女に会える。


 そう思うだけで、夜通し走り続けることができた。帰ったらまず初めにどんな言葉をかけようか。いきなり帰ってきたらどんな顔をするだろうか。もうずっと離れないから一生側に居てくれ、と伝えたら、どれほど喜んでくれるのだろうか。


 そんなことを考えながら、四つほど山を越え、三日三晩走り続けて、四日目の朝にようやく故郷の村が見えた。


 山の稜線から見下ろす小さな村は、記憶の中にある景色とほとんど変わっていなかった。村の入り口から畑へ向かう細い道。遠くからでも分かる、丘の下にある一軒家。


 その屋根が見えた途端、体の中が熱くなった。


 世界を救ったのだという実感はまだないけれど、彼女のいる場所へ帰ってきたのだという実感だけは、はっきりと胸にある。


 気がつけば走り出していた。

 いきなり訪ねたら怒られるとか、なんて声をかけようとか、考える暇はなかった。


 今はただ、彼女に会いたい。


 変わらない、子供の頃から何度も通った道。

 見慣れた白い壁が近づく。窓辺には花が飾られていた。

 昔、彼女が好きだと言っていた花だ。プロポーズにはこの花で花束を贈ろうと決めている。


 扉の前で立ち止まった。いざ会うとなると、何を言えばいいのか分からない。魔王を前にした時よりも、よほど緊張している自分がおかしかった。


 そう思って家の入り口に差し掛かった、その時。


 ガラッ


 独りでに戸が開いた。


 いや。


 違う。


 出てきたのは知らない男。


 浅黒い肌。金髪で耳に銀細工の飾り。上等だが乱れた上着から、分厚い胸板が半分ほどはだけている。


 思考が止まった。


 男は俺を見て、一瞬目を細めた。


 上から下まで品定めをするように見回すと、腰の聖剣に目を落とす。


「へえ」

 ニヤリとする。

 心臓が一度、大きく跳ねた。


「どうしたの?」

 奥から懐かしい、聞き慣れた声がした。

 三年前と変わらない、小鳥の囀りのような、澄んだ綺麗な声。


「マリナ。来いよ、お客さんだ」

 男は彼女の名を当然のように呼んだ。余裕を含んだ顔で、ニタニタと意地悪く笑っている。


 俺は頭がうまく回らなかった。目を白黒させながらも、男を無視して、開け放された戸の奥、薄明かりの部屋の先を見た。


「あっ……」

 そこにはマリナがいた。


 三年間、ずっと会いたかった人。


 自分がこの世界よりもずっと大切に思ってきた人。


「アイク……」

 彼女は肩を露わにしながら、布団の上でシーツを纏うようにして座っていた。



挿絵(By みてみん)



 彼女は三年経っても変わらず美しかった。流れるような亜麻色の髪と、赤みがかった琥珀色の瞳。色白だが健康的な肌。頬にはうっすらと赤みが刺していた。だが、とても再会を喜べる状況ではない。


 言葉が、出なかった。


 口を何度かパクパクさせたが、喉が干からびたように張り付く。


「……ぅ」

 かろうじて絞り出せたのは、言葉でも声でもない。ただの音だった。


「へぇー、君がアイク君かぁ。勇者なんだって? 凄いじゃん」

 静寂を破ったのは、いつの間にか俺の後ろに立っていた男の声だった。


「ほらマリナ、ぼさっとしてないで茶でも淹れろよ。せっかく勇者様が訪ねてきたんだ。おもてなししてやらないと失礼だろ」

 男の声にビクッと、彼女の白い肩が震えた。毛布を掴んだままそそくさと立ち上がって、部屋の隅に消える。


「悪いなぁ勇者様。あいつ、寝起きはいつもああなんだよ。どうしたんだ? 座りなよ」

 それが当然の事であるかのように、男は自分の家のように椅子をすすめた。


 俺は男の目を見られなかった。勧められた椅子が膝に当たっても、ただ床の汚れを見つめることしかできない。


 たった数十秒の事が、永遠のようにも感じられた。


 マリナが服を着て、家の奥から出てくる。


「ひ、久しぶりだね、アイク。どうしたの?」

「おいおい、三年ぶりの再会だろ! もっと嬉しそうにしろよ!」


 手を伸ばせば届きそうな距離にいるのに、マリナの声は今までで一番遠くに感じた。

 下卑た男の笑い声だけが、今この場を支配している。


「ほら、勇者君とちゃんと話さないと」

「え? わっ、ちょっと! やめてよ!」


 男はマリナの方へ向かうと、後ろから腹に腕を回して抱え上げた。そして、俺にすすめた椅子のところにストンとマリナの腰を下ろす。


「……えっと、あの、アイク? こ、これは違くて」


 違う。


 何が違うのかは分からない。

 けれど、マリナはそう言った。


 これは違う。


 そうだ。

 違うのだ。

 きっと、何か事情がある。

 この男は親戚かもしれない。行き倒れていた人を助けたのかもしれない。何か事情があって、仕方なく匿っていたのかもしれない。


 頭の中で、いくらでも理由を探した。


 肩を露わにしていたことも。

 布団の上にいたことも。

 男が当然のようにマリナの名を呼んだことも。

 彼女がその声に怯えるように肩を震わせたことも。


 全部、何か理由があるはずだ。

 そうでなければならない。


「……違うって、何が?」

 でも掠れて出てきた俺の声は、思ったよりも小さかった。


「その……違うの。これは、アイクが思っているような事じゃなくて……」

「俺が、何を思ってるって?」

「ハハっ、流石に無理だろそれは」

「黙っててよ!」


 男が肩をすくめた。けれど。マリナの声に力はなかった。男を拒んでいるというより、これ以上余計なことを言わないでほしいと頼んでいるように聞こえた。


「悪い、今日は帰る」

「え?」


 マリナが顔を上げた。


「帰る。急に来て悪かった」

「待って、アイク。違うの。ちゃんと説明するから」


 マリナが立ち上がろうとした。けれど、男が椅子の背に片手を置いて、それをさりげなく遮った。強く押さえつけたわけではない。ただ、そこにいるだけで彼女の動きが止まった。


「勇者様、話くらい聞いてやれよ。マリナも困ってるだろ?」

 男は笑っていた。薄い笑みだった。俺が何も言えずにいることも、マリナが身動きできずにいることも、全部分かった上で笑っている。


 聖剣の柄が、腰の横でわずかに鳴った。

 無意識に手が動いたのだと気づいて、すぐに指を開く。


「また来る」

「アイク!」


 その声を聞こえなかったことにして、振り返らずに開け放たれた戸をくぐった。


 外に出ると、朝の光が眩しかった。


 村は変わらずそこにあった。畑へ向かう人の声がする。風が草を揺らしている。遠くで子供が笑っている。平和だった。魔王はもういない。俺が守った世界だった。


 それなのに。


 足が勝手に動き、見慣れた家の前で足が止まる。


 三年前、旅立ちの日に戸締まりをした家。いつかマリナを迎え入れるのだと、勝手に未来を重ねていた家。


 中に入ると、埃の匂いがした。薄暗い部屋。冷えた床。使われなくなった食卓。何もかも、俺が旅立った日のまま止まっているようだった。


 俺だけが時間に取り残されている。

 そう思うと膝から力が抜けてその場に座り込んだ。


 もしかしたら、マリナは俺を追って来てくれるかもしれない。男とは間違いがあったにせよ、俺の事をまだ好きでいてくれるなら。理由は何だっていい。俺と一緒にいたいと思ってくれるなら。何度だってやり直せる。


 そんなことを、どこかでまだ思ってしまった。


 思ってしまっていた。


 朝だった空は、いつの間にか昼になっていた。昼だった光は、少しずつ夕方の色に変わっていった。窓から差し込む光の色が変わるたびに、俺は何度も戸の方を見た。


 けれど、来なかった。


 夕方になっても、マリナは来なかった。


 その事実を理解するのに、随分と時間がかかった。


 家の中は静かだった。旅をしている間は常に何かの音が聞こえていた。聖女や戦士の笑い声。魔物の雄叫び。魔王の荘厳な声。戦場の音。悲しみや怒り。喜び。


 それが今は何もない。

 ただ、来ないという事実だけがある。


 夜になっても眠れなかった。


 久しぶりに戻った自分の家は、思っていたよりもずっと冷たかった。布団は古く、床は軋み、窓の隙間から入り込む風が埃を揺らしている。


 マリナと二人で暮らすなら、少し手狭かもしれない。でもしばらくは肩を寄せ合って、二人で眠る。そんな暮らしも悪くない。


 そんなことを旅の途中で何度も考えた。


「馬鹿だな、俺は」

 そう一人でつぶやいた時。


 戸を叩く音がした。


 初めは風の音かと思った。もう一度鳴る。

 小さくて遠慮がちな音だった。


「……アイク」

 息が止まった。マリナ。


 何も考えられなかった。ただ身体が勝手に動いた。戸の前まで歩き、少しだけ躊躇してから開ける。


 夜の薄明かりの中に、マリナが立っていた。


 頬を染めながら、薄い寝間着を一枚だけ纏っていた。


 肩口は頼りなく、今にもはだけそうな胸元を両手で押さえている。


 素足で髪も整っていない。寒いのか、恥ずかしいのか、彼女は小さく震えていた。


「マリナ」

 名前を呼ぶと、彼女はびくりと肩を揺らした。


 それだけで、胸の奥が痛んだ。昼間、あの男の声に肩を震わせていた姿と重なったのかもしれない。あるいは、三年前に泣きながら俺を見送った彼女を思い出したのかもしれない。


「ごめん。こんな時間に」

「……どうした」


 言いたいことは山ほどあった。どうしてあんな男と一緒にいた。どうして追って来てくれなかった。どうしてそんな格好で来た。

 けれど、どの言葉も喉の奥で形を失って、出てきたのはそれだけだった。


 マリナは後ろを一度だけ振り返った。誰もいない。それを確認してから、俺の方へ向き直る。


「あのね。ちゃんと、話さなきゃって思って」

「……」


「昼間は、ごめん。私、混乱してて。アイクが帰ってきたのが信じられなくて。どうしたらいいか、分からなくて」

「……」


「本当に、待ってたんだよ。本当に毎日、ちゃんと待ってた。アイクが帰ってきたら何を言おうとか、どんな顔をして迎えようとか、そういうことばかり考えてた」

「……」


「ごめんね……」


 その声を聞いた瞬間、俺の中で何かが緩んだ。昼間からずっと固まっていたものが、少しだけほどけるような気がした。違うのだと思いたかった。まだ、何か理由があるのだと思いたかった。彼女がここに来たのは、俺に何かを伝えるためなのだと、まだ信じたかった。


「私……弱くて」

 マリナの目から涙が落ちた。


 そして気がつくと、抱きしめていた。


 細い肩だった。三年前より少し痩せていて、腕の中に収まった身体は驚くほど頼りなかった。


 昼間見た光景も、男の笑い声も、手を振り払わなかったことも、もうどうでも良かった。

 ただ今は目の前で泣いている彼女の事を抱きしめて、笑顔にさせたい。


「ごめんな」

 口からこぼれたのは、謝罪の言葉だった。


「もういいんだ……寂しかったよな」


 マリナの身体が震えた。


「俺は帰ることばかり考えてた。お前が待っていてくれることを、当たり前みたいに思ってた。お前がどんな気持ちで毎日を過ごしていたのか、ちゃんと考えてなかった」


 小さく息を呑む彼女の背中に手を回す。子供の頃に、転んで膝を擦りむいた彼女を背負って家まで送った時と同じように。驚くほど自然に、手が動いていた。


 好きだった。


 ずっと、ずっとずっと。


 あの時から。


 そのことが、抱きしめた瞬間に分かってしまった。


 マリナは俺の胸に顔を押しつけて、声を殺して泣いていた。俺はその髪に頬を寄せる。三年間、何度も夢に見た温もりだった。旅の中であと一歩が踏み出せなくなった時に、いつも思い出した温もりだった。


「アイク……ごめんね……」

「いいんだ。きっと、やり直せる」


 俺はただ、帰ってきたら抱きしめるはずだった人をようやく抱きしめている。

 それだけのことを手放せなかった。


 けれど、マリナの指が俺の服を掴んだ時、その力があまりにも弱いことに気づいた。腕の中の温もりが急に遠くなる。


「マリナ……お前はまだ、俺の事を好きでいてくれるんだよな?」


 そう言った瞬間、マリナの身体が固まった。


 ああ。


 分かってしまった。


 ゆっくりと腕をほどいても、マリナは顔を上げなかった。胸元を押さえる手に力が入っている。目元は赤くなっていたが、その表情には怯えがあった。


「あいつに言われて来たのか」

「…………ごめん」


 マリナは俯いたまま言った。


 怒りは湧かなかった。さっきまで抱きしめていた温もりはまだ、腕の内側に残っている。

 ただそこにいたはずのマリナが、急に別の誰かのように見えた。


「その格好も?」


 マリナは答えなかった。


「……ねえ、アイク。あの人も……悪い人じゃないの」

 そういって寝巻きの片方をはだけさせた。

 三年前と同じ、白くて美しい肌だった。


「だからアイク。私の事が好きだったら、中に入れてくれるよね?」


 それはもうマリナの言葉ではなかった。勇者を怒らせると面倒だから慰めてこい。お前に惚れてるから一晩くらい抱かせてやれ。あの男にそう言われて来たのだと、すぐに理解した。


 そうだよ。その通りだ。


 好きだ。大好きだったんだよ。


 俺の方がずっと、ずっと前から。


 聖剣に選ばれた時も、仲間と旅した時も、魔王と対峙した時も。死にかけた時も、諦めそうになった時も、ずっと好きだった。さっき抱きしめた時、本当に好きなのだと思い知らされた。


 その想いを今夜、ぶつけられればどんなに胸がすくのだろう。どんなに惨めな気持ちになるのだろう。

 

 手を伸ばして、マリナの肩に触れる。



 その時、頭の中で不意に魔王の声が蘇った。


『見事だ……勇者……』


 あの言葉が、崩れそうになる心を押し留めた。



「……帰れ」

 声は思ったより静かだった。


 マリナが顔を上げる。


「え?」

「帰れ、と言った」

「アイク、違うの。私は」

「失せろ」


 三度目で、マリナは口を閉じた。

 泣きそうな顔をしていたが、涙は出てこない。


「……ごめんね」

 ただそう言って、彼女は小さく頭を下げた。


 マリナが夜の道を戻っていく。

 汗で張り付いた背中が、暗がりに溶けていく。


 振り返ってほしかった。

 もう一度、戻って来て欲しかった。


 だが、そうはならなかった。


 そうしてマリナの姿が消えた時、自分の中で何かが壊れる音がした。


 ◇


 それからの事は、もうあまり記憶がない。


 翌朝になると、通りを歩く村人たちが噂をしていた。


「マリナも可哀想になあ。三年も待たされちゃ、そりゃ寂しくもなる」

「勇者様だって、今さら帰ってこられてもな」

「あの男、まあ評判は悪いが、ずっと村にいたのはあいつの方だし」


 そこでプツンと意識が途切れて、気がついたら村人たちが炭のように黒くなっていた。


 そこから先は単純だった。


 男の住まいが分からなかったので、マリナの家だけ残して村を焼いて回った。


 男が何か言っていたので、今度はきちんと話した。殺してくれと懇願されるまで、ゆっくり聞いた。


 王都から派遣されて来た兵士も誰一人として帰さなかった。


 戦士、聖女も居たような気がするが、彼らとは特に話す事はなかった。戦士にはかなり手を焼いたが、聖女は最後まで抵抗しなかった。


 見渡す限りを地平線にした後、世界にはマリナと俺だけが残った。



「なんで……私を生かしたの……?」

 二人だけになった世界で、いつかマリナがこんな事を訊いた気がする。


「なんでって……好きだからだよ」

「殺してよ……」

「……」

「ねえ! 殺してってば!」


 マリナは死なない。死ぬ前に、俺が必ず助ける。


 だって、君のために俺は勇者になったのだから。


 君のいる世界を守るために、なったのだから。



END

いつもお読みいただきありがとうございます。


この地獄を、皆様と一緒に楽しみたいと思って書かせていただきました。


救いのない話ではありますが、怒り、やるせなさ、嫌悪感、あるいはほんの少しでも胸に残るものがありましたら幸いです。


よろしければ、感想欄に怒りや悲鳴を残していただけると作者が喜びます。


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