第一章「地下深くからの憎しみ」 第8話「黒い力の兆し」
夜が更けると、村の空気はまるで重い布で覆われたようになった。
歩くたびに土の下から、低く響く振動が伝わる。
ゆたかとまさきは、工事現場の中心に立ち、黒い霧が漂う現場を見渡す。
「昨日より、力が強くなってる…」まさきが呟く。
霧はゆっくりと形を変え、腕や脚のように伸び、攻撃の準備をしているようだった。
コン……コン……
地下から響く音も、規則的でありながら、圧力と意思を伴うものになっている。
ゆたかは蹴りの構えを取り、地面に手を置く。
「…奴の力、増幅してるな」
まさきは呪符を振り、霧に対抗する。
しかし、霧の一部が彼の足元に絡みつき、冷気で全身が震える。
「まさき!」ゆたかが駆け寄り、蹴りで霧を吹き飛ばす。
霧は一瞬散ったが、すぐに別の形を取り、作業員の周囲を包む。
悲鳴と共に、作業員の体が微かに浮き上がったように見えた。
まさきは目を見開く。
「…やっぱり、ただの怨霊じゃない…操られてる」
ゆたかは霧を凝視する。
——土の奥深くで、黒く巨大な影がうごめいているのを感じた。
——間違いなく、地下の怨霊を操る、黒幕の意志だ。
「くそ…奴の力の一部か」ゆたかは拳を握る。
突然、霧の中から低く呻き声が聞こえた。
「…人の心を…食らう…」
言葉の輪郭はまだはっきりしない。
だが、恐怖と怒りが混ざった威圧感が、村全体に広がった。
まさきは刀を握りしめ、冷静に呪文を唱える。
風が舞い、呪符が光を放つ。
霧はしばらく形を保ったまま抵抗する。
ゆたかは地面を蹴り、黒い霧を吹き飛ばす。
霧は地面に吸い込まれるように沈んだが、音は止まらない。
「……まだ、奴らの力は衰えていない」ゆたかは小さく呟く。
まさきも同意する。
「地下の怨霊だけじゃない、背後に何かいる…」
二人の背後、村の暗がりから、かすかな笑い声が聞こえたような気がした。
——それは黒幕の影、神鬼丸のものだ。
——まだ姿は見えない。
——だが、存在は確かに、地下の怨霊を通して村を支配し始めている。
ゆたかは深呼吸し、蹴りの構えを再び取る。
「…やるしかないな」
コン……コン……
地下からの音は、さらに大きく、規則的に、
村全体に恐怖を刻み込むように響き渡った。
——これは、戦いの始まりに過ぎない。
——黒幕の力が、静かに、しかし確実に増幅しているのを、二人は肌で感じた。




