第一章「地下深くからの憎しみ」 第7話「黒い影の囁き」
夜はさらに深く、村は闇に沈んでいた。
だが、ただの闇ではない。
黒い気配が村全体を覆い、空気を重くしていた。
ゆたかとまさきは、工事現場の周囲を歩きながら、倒れた作業員の様子を確認していた。
「…昨日より悪化してる」まさきが眉を寄せる。
作業員たちの意識は回復しかけていたが、再び熱が上がり、呻き声を上げる者が増えていた。
「子どもたちは…?」ゆたかが訊くと、村の女性が顔を青くして駆け寄る。
「小学校…保健室にまた何人も倒れて…」
声が震える。
「でも…ただの熱じゃないんです。目が…目が虚ろで…」
まさきは目を細め、地面を見下ろす。
コン……コン……
音は地下から、規則正しく、しかしどこか邪悪なリズムで響いてくる。
ゆたかは拳を握り、蹴りの構えを取った。
「奴…まだ生きてる」
二人が現場に戻ると、黒い霧がゆっくりと立ち上がり、作業員や村人の周囲を漂っている。
触れるだけで、体温が奪われるような冷気が広がった。
まさきは呪符を掲げる。
「ここまで強い…怨念じゃない、これは…」
ゆたかは地面に視線を落とす。
——土の中、さらに深いところで、もう一つ別の黒い影が蠢くのを感じた。
霧ではない、形を持った存在。
——まさきもそれに気づいたらしい。
「ゆたか…地下にもう一体いる…」
ゆたかは唇を噛む。
「俺たちの相手は、この村の怨霊だけじゃない…」
霧の中で、低く、かすれた声が響く。
「…掘るな…邪魔するな…」
声の裏に、別の意志が潜んでいる。
まるで、地下の怨霊を操る黒い存在——黒幕の気配だった。
その瞬間、作業員の一人が突如、黒い霧に飲み込まれそうになる。
ゆたかは即座に蹴りを放ち、まさきも呪符で支える。
だが、力を振るっても、霧はすぐに形を変え、再び攻撃してくる。
「…奴ら、学習してる」ゆたかは眉をひそめた。
「地下に潜む怨念、そして背後にいる“誰か”…」
コン……コン……
地面の奥から響く音は、まるで誰かが計画的に動かしているかのように規則的だった。
ゆたかは目を閉じ、母の言葉を思い出す。
「地下には怒りが眠っている。目覚めさせてはいけない…」
——その怒りは、単なる村人の怨念ではない。
——遥か昔から続く、黒幕の存在が絡んでいる。
闇の中、黒い霧は村全体を包み、作業員、子ども、村人——誰も逃げられない恐怖を作り出していた。
ゆたかとまさきは、互いにうなずく。
「…次は、やつの正体を突き止めるしかないな」
夜空にカラスが一羽飛び、長く鳴く。
その声は、地面の奥で待つ黒幕に向けられた呼びかけのようにも聞こえた。
コン……コン……
地下深くで、黒い影が目を覚ましつつある。




