第一章「地下深くからの憎しみ」 第4話「過去の影」
夕暮れの村は、昼間よりさらに静かだった。
風の音もなく、山の影が家々を覆う。
ゆたかとまさきは、村の図書館へ向かっていた。
目的は、過去の事件の記録を調べることだ。
「昭和…いつの時代か」ゆたかが呟く。
「ここらへんで、借金を巡った殺人事件があったらしい」
図書館は薄暗く、埃の匂いが立ち込めていた。
新聞の古い記事をめくると、見出しが目に飛び込んできた。
“村人の借金問題で悲劇 若い男が行方不明に”
“数日後、村外れの山林で遺体発見”
記事には、名前も写真もない。
だが文章から、生前の怨念が滲み出しているように感じられた。
「……これ、ただの殺人じゃないな」まさきが言う。
「怨念、残ってる……絶対」
ゆたかは紙面を指でなぞる。
読み進めるほどに、胸の奥がざわつく。
——生前の男は、借金を踏み倒した村人に怒り狂い、逆に殺され埋められた。
——生前は剛力で酒と女が好き、酔えば暴れる。
——弟が優秀で、常に比較される人生だった。
ゆたかの頭に、昨日から聞こえている**コン……コン……**という音が蘇る。
「これ……土の中で、ずっと怒ってるやつだ」
「怒りと恨みが残ってる…」まさきは唇を噛む。
ふと、窓の外に目をやると、夕闇の山裾に、黒い影が揺れたような気がした。
——人の形ではない。
——でも、存在を主張しているような動き。
ゆたかは息を呑む。
「……見間違いじゃない」
まさきも、目を細める。
「昨日の現場も、そうだった」
二人は顔を見合わせる。
この村には、単なる怨霊ではなく、**“生きた感情が地下に封じられた何か”**が存在している。
そしてそれは、工事で掘られた瞬間、目を覚し始めたのだ。
図書館の奥の棚に、一冊の古びた日記があった。
表紙は擦り切れ、文字もかすれている。
ゆたかがページを開くと、そこにはこう書かれていた。
「私は裏切られた…弟の才能の影に生きながら、酒と女で慰めを求めた…
だが村は、私を土に埋めた…怒りは消えぬ…」
文字から滲むのは、生きたまま封じられた憎しみ。
読み進めるほど、胸の奥がざわざわと冷える。
「……やっぱり、工事で掘ったのはヤバい」
ゆたかは小さくつぶやいた。
その瞬間、背後から、低くかすれた声が響いた。
「…よく…来たな…」
振り返っても誰もいない。
だが、確かに、誰かの気配があった。
まさきは咳払いをして呟く。
「地下にいる…奴が、声を出してる…」
ゆたかはゆっくりと息を吐いた。
目の前の日記、背後の気配、村全体に漂う不穏な空気——
全てが、**“静かな脅威”**として二人を包んでいた。
コン……コン……
——地面の奥から、また音が響く。
——まだ、目覚めたばかりだ。




