第一章「地下深くからの憎しみ」 第3話「土の下の囁き」
日差しが昼を迎えたにもかかわらず、奈良の村は重苦しい空気に包まれていた。
ゆたかとまさきは、工事現場に到着すると、すぐに異変に気づく。
重機のそばに数人の作業員が倒れている。
「なんだ……こりゃ」
額に手を当てると、汗がべたつく。体温計が示すのは、異常な高熱。
「昨日の子どもと同じだ……」ゆたかは低く呟く。
作業員たちはうめき声をあげ、口々に意味不明な言葉を漏らす。
「…し、地下が…怒ってる…」
「…手を…出すな…」
まさきは眉を寄せる。
「幻覚じゃない、これは……霊の影響だ」
地面を指差すと、土がところどころ不自然に湿っていた。
雨は降っていないのに、湿気がまるで地下から染み出しているようだ。
「匂いもおかしい……」まさきが顔をしかめる。
土の匂いの中に、どこか鉄と腐った匂いが混じる。
その匂いは、ゆたかの記憶を一瞬で過去に引き戻した。
——昭和の時代。借金の踏み倒しに怒った村人たちに殺され、土の中に埋められた男の存在。
「…この場所だな、根っこは」
ゆたかは低く呟くと、重機の向こう側に視線を走らせた。
コン……コン……
再び、音。
昨日と同じ、地面の下から響く音。
重さとリズムを持った打撃音。
だが、今回ははっきりと複数の地点から聞こえる。
「増えてる…」ゆたかが息を吐く。
音の方向に向かって歩く二人。
地面が微かに振動している。
歩くたび、土の中から低い呻きが響く。
「おかしい……動いてる……?」まさきが呟く。
突然、作業員の一人が飛び上がった。
「うわあああ!」
彼の目が虚ろになり、声が裏返る。
「——地の下が、怒っている……」
手を伸ばして何かに触れようとするが、空振り。
まるで見えない何かに操られているようだった。
ゆたかは素早く間合いを取り、陰陽術の呪符を取り出す。
紙に書かれた神符が風に揺れると、作業員の苦しみが少し和らぐ。
だが、完全に止めることはできない。
コン……コン……
地面の奥から、さらに音が増えていく。
音は、低く、規則的で、人の手で叩かれているような不気味さだ。
「……まだ、完全に目覚めてはいない」ゆたかは小さくつぶやく。
「でも確実に怒ってる……そして広がってる」
二人は視線を交わす。
目の前の現場は、ただの工事現場ではない。
地下に眠る怨念が、村ごと覆い始めていた。
背後の山の方で、カラスが一羽、長く鳴く。
その鳴き声が、いつもより人間の声に近く聞こえた。
ゆたかはふと、背筋が凍る感覚に襲われた。
——これは、単なる過去の怨霊の怒りではない。
——もっと大きな、黒い何かが関わっている。




