第一章「地下深くからの憎しみ」 第24話「本当の姿」
ゆたかの体の中で、黒い力がぶつかり合う。
——怨念
——そして神鬼丸の意思
「ぐっ……!」
膝をつく。
体の内側から引き裂かれるような感覚。
まさきが叫ぶ。
「無茶だ!それ以上は——!」
だが、ゆたかは顔を上げる。
「……止まらねぇ」
歯を食いしばる。
黒い霧が、内側で暴れ狂う。
——奪え
——支配しろ
神鬼丸の声が、直接響く。
「それがお前の本性だ」
ゆたかは目を閉じる。
「……違う」
拳を握る。
「俺は——選ぶ」
その瞬間。
黒い霧の中で、“核”を掴む。
怨念の核。
だがその奥に——
もう一つ、異質な“何か”がある。
「……これは……?」
違和感。
人間の感情じゃない。
もっと冷たい。
もっと古い。
その瞬間——
視界が弾ける。
暗闇。
だがそこは、土の中ではない。
もっと広い。
もっと深い。
ゆたかは“それ”を見た。
巨大な影。
人の形をしていない。
無数の顔のようなものが浮かび、
無数の声が重なっている。
——欲しい
——喰いたい
——満たされない
その中心に、ひとつの存在。
貴族の姿。
だがそれは——
ただの器だった。
「……藤原義丸……」
その名が浮かぶ。
だが次の瞬間、理解する。
違う。
「……違う……」
声が震える。
「あれは……人間じゃない」
その“何か”が、ゆたかを見た。
一斉に。
無数の目が、向く。
「……見たな」
低く、重い声。
それは神鬼丸の声ではない。
もっと深い。
もっと本質的な“何か”。
ゆたかの背筋が凍る。
「……なんだよ……お前……」
返答はない。
ただ——
強烈な飢え。
それだけが伝わってくる。
次の瞬間。
現実に戻る。
「はぁ……はぁ……!」
ゆたかは地面に手をつく。
全身が震えている。
まさきが必死に声をかける。
「どうした!?何が見えた!?」
ゆたかは顔を上げる。
目には恐怖があった。
「……あいつ……」
言葉が詰まる。
「……神鬼丸じゃない……」
沈黙。
神鬼丸が、ゆっくりと笑う。
「気づいたか」
一歩前に出る。
「我は“神鬼丸”」
そして——
「だが、それは名に過ぎぬ」
空気が震える。
黒い霧が、さらに濃くなる。
「器は変わる」
「だが“本質”は変わらぬ」
ゆたかの目が見開かれる。
「……何度も……繰り返してるのか……?」
神鬼丸は答えない。
ただ笑う。
「人の欲、恨み、絶望」
「それらが尽きぬ限り——」
ゆっくりと腕を広げる。
「我は滅びぬ」
その言葉は、事実だった。
まさきの顔が青ざめる。
「……倒しても意味がないってことか……?」
ゆたかは立ち上がる。
震える足で。
それでも——
目は逸らさない。
「……違う」
低く言う。
「なら」
拳を握る。
「その“本質”ごと叩く」
神鬼丸の目が、わずかに細くなる。
「……ほう」
ゆたかは構える。
黒い霧が、静かに流れる。
「終わらせる」
それは宣言だった。
だが同時に——
理解している。
これはただの戦いじゃない。
——もっと大きな存在との戦い
第一章の裏側にあったもの。
それが、ほんの一端だけ姿を見せた。




