第一章「地下深くからの憎しみ」 第20話「反撃開始」
山を下る足音は速かった。
ゆたかとまさきは、一切の迷いなく村へ向かっていた。
風が強い。
空は曇り、昼のはずなのに光が弱い。
そして——
遠くに見える村は、まだ黒い霧に覆われていた。
「……間に合えよ」
ゆたかが低く呟く。
まさきも頷く。
「状況は悪化してるはずだ」
預言者は来ない。
だが——
言葉は残っている。
“喰らえ”
ゆたかは拳を握る。
「……やるしかない」
村に入った瞬間、空気が変わる。
重い。
冷たい。
まるで、村全体が生き物のように二人を拒絶している。
コン……コン……
再び聞こえる音。
だが以前とは違う。
ゆたかは足を止める。
「……位置、分かる」
まさきが驚く。
「感じ取れてるのか?」
ゆたかは頷く。
「霧の流れ……全部、本体に繋がってる」
——修行の成果。
二人は迷わず現場へ向かう。
現場は、地獄だった。
作業員は倒れたまま動かない。
子どもたちは意識を失い、呼吸も浅い。
そして中央には——
あの“本体”が立っていた。
以前よりも大きく、歪み、
黒い霧をまとっている。
「……戻ってきたか」
低い声。
ゆたかは前に出る。
「……終わらせに来た」
本体の口が歪む。
「……また壊れるか?」
その瞬間——
一気に距離を詰めてくる。
だが——
「見える」
ゆたかが動く。
蹴りを放つ。
今度は——
当たる。
鈍い衝撃。
本体の腕がわずかに弾かれる。
まさきが目を見開く。
「通った…!」
だが、本体はすぐに反撃。
腕が振り下ろされる。
ゆたかはそれを避ける。
「遅い」
前より明らかに動きが見えている。
まさきも同時に動く。
呪符を叩き込み、霧を削る。
「今ならいける!」
ゆたかは踏み込む。
だが——
次の瞬間。
本体の周囲の霧が一気に膨れ上がる。
「……甘い」
声が重なる。
——神鬼丸。
霧が一斉に襲いかかる。
だがゆたかは、逃げない。
「……来い」
腕を広げる。
まさきが叫ぶ。
「ゆたか!?」
霧が体に入り込む。
冷気、怒り、絶望。
だが——
今度は違う。
ゆたかは目を閉じる。
「……ここだ」
霧の中の“核”を掴む。
その瞬間——
霧の流れが止まる。
そして——
一部が、ゆたかの中に吸い込まれる。
本体がわずかに揺れる。
「……なに?」
まさきが息を呑む。
「……成功してる」
ゆたかの目が開く。
その瞳は、まだ人間だ。
だが——
奥に、わずかな闇が宿っている。
「……これが」
拳を握る。
「力か」
そのまま踏み込む。
蹴りを叩き込む。
今度は——
確実に効いた。
本体の体が歪む。
「……ぐっ…!」
初めて、苦しむ声。
まさきが叫ぶ。
「いける!押し切れ!」
だがその瞬間——
地面が大きく揺れた。
コン……コン……
いや——
ドクン
大きな鼓動。
黒い霧がさらに濃くなる。
そして——
本体の背後に、あの影が立つ。
「……面白い」
神鬼丸。
その声は、はっきりと響いた。
「人が、我が力に触れるとはな」
ゆたかは睨む。
「……次は、お前だ」
一瞬の静寂。
そして——
神鬼丸は笑った。
「まだだ」
黒い霧が一気に膨れ上がる。
「お前はまだ、“足りない”」
圧力が増す。
まさきが歯を食いしばる。
「くっ…まだ終わってない…!」
ゆたかも構える。
「……ああ」
だが今度は違う。
——逃げない
——折れない
“戦える状態”に、確実に近づいている。
戦いは、まだ終わらない。
だが——
反撃は、確実に始まった。




