第一章「地下深くからの憎しみ」 第11話「怨霊の正体」
工事現場の夜は、まるで村全体が息を潜めているかのような重さに包まれていた。
ゆたかとまさきは、地下の怨霊と戦った後、息を整えながら地面を睨みつける。
「奴…完全には消えないな」まさきが低く呟く。
霧は地面の割れ目に吸い込まれるように引っ込み、形を変えながらも、まだ怨念は残っていた。
ゆたかは蹴りの構えを解かず、額の汗を拭う。
「地下の怨霊…だけじゃない、背後に何かある」
そのとき、地面の奥からかすかな声が響いた。
「…義丸…」
ゆたかの脳裏に、母の言葉が蘇る。
「藤原義丸…平安の昔に生きた男…怨霊になってもなお、人を惑わせる存在…」
まさきが眉をひそめる。
「…あの黒幕か…? 直接俺たちに語りかけてるのか」
地面の割れ目から、黒い霧が再び立ち上る。
だが今回は、霧の中に顔の輪郭が浮かび、明らかに人間の形をしている。
怒りと憎しみが混ざった表情。
それが、ゆたかたちを見下ろすように動いた。
「…奴は…ただの怨霊じゃない…」ゆたかが小さく呟く。
まさきも頷く。
「生前の意思が残ってる…操る力もある…」
怨霊はゆっくりと地面から姿を現す。
身にまとった霧はまるで黒い鎧のように見え、腕には異形の力が宿っている。
そして、低く唸る声が地面の奥から響く。
「…我が名は神鬼丸…義丸の力を以て、この世を支配する…」
ゆたかは目を見開く。
「黒幕…奴の名前…生きていた時からの怨念か…」
まさきは刀を握り、冷静に呪文を唱える。
しかし霧の形は、二人の呪術を容易にかわし、攻撃を返す。
力の差を肌で感じる。
ゆたかは蹴りを放つ。
霧は跳ね返るように揺れ、形を変えて二人を取り囲む。
それでも、怨霊の正体が少しずつ明らかになることで、恐怖は一層増していた。
「…奴、地下だけじゃなく、村全体を操っている」
ゆたかは冷静に分析する。
「これは…戦いの次元が違う」
地面の奥で、黒い霧が蠢き、音はますます規則的に、黒幕の意思を伴って響く。
——神鬼丸、黒幕の影はまだ姿を隠している。
——しかし、存在感は圧倒的で、怨霊と一体となって村を支配し始めている。
ゆたかとまさきは互いにうなずき、決意を新たにした。
「…奴の正体は掴めた。次は、奴の力の源を断つ」
地下深く、黒い霧の中で、怨霊は静かに、しかし確実にその力を増幅させていた。




