表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

第1話 ドラゴン逆転生



 東京郊外の、とある閑静な住宅街にひっそりと佇む、3階建ての小さなビル。


 オフィスの窓から朝日が差し込み……爽やかな春の一日が始まる……といいたい所だが、俺は重い目をこすりながら机の下からむくりと起き上がって、一心不乱にキーボードを叩き始める。コンビニで買いこんだおにぎりを頬張り、ひたすら作業。そして……ようやく出来上がったシナリオを社内チャットに貼り付けて、力尽きたように机の下へ倒れ込んだ。

 

 そんな生活を、いったい何年続けてきただろうか。

 

 ここはファンタジー世界を舞台としたオンラインRPG「ドラゴンサーバント」の開発スタジオ。学生時代の仲間たちと立ち上げた、この小さなスタジオで生まれたゲームは、今や世界的な人気タイトルに発展する。俺は制作チームのリーダーとして、このゲームの世界観をゼロから作り上げた。

 

 東山リュウジ、28才。――俺の名前は、世間的には天才プランナーと称されているようだ。しかし実際は、ひたすらシナリオを書いて、イベントを設計し、テストして公開する、その繰り返しだ。最高の体験をユーザーに届ける、という一点だけを胸に刻んでそんな日々をただ積み重ねただけだ。

 

 「ドラゴンサーバント」は重厚な世界観が熱い支持を受けている。ドラゴンの血を分けた、7人の召使い「サーバント」によって、世界は滅亡に向かう……その佳境となる「破滅シナリオ」を書き上げ、公開した所だった。


 そのあと、世界は滅亡の危機を乗り越え、そして復興する――その物語、「再生シナリオ」も既にリュウジの頭の中にはできあがっている。それは、長年構想していた壮大な叙事詩――ユーザーに深い感動を与え、唯一無二、伝説のゲームとなると確信していた。

 

 ひたすらこの世界と向き合う創作の日々。それを支えてくれるユーザーと、スタッフたちに囲まれて充実していたが――それはある日、一瞬で崩れ去った。


◇◇◇◇

 

 1階はグッズなどを展示する待合スペース、その奥が管理部門のオフィス。待合スペースの上は吹き抜けになっていて、壁際には階段が設置されている。そして2階は俺たち制作部、3階は開発とサウンドチームのオフィスとなっていた。

 

「リュウジさん!」

 その日、一仕事終えてぼんやりしていた俺の所に、管理部門の女の子が顔面蒼白で駆け込んできた。

「どうしたんだ?」

「吹き抜けの天井が……大変な事に……」


 その尋常じゃない様子に、俺は椅子から跳び上がるように立ち上がり、吹き抜けの天井へ視線を向けた。


 ――吹き抜けのスペース、その天井近くに、黒い影がじわりと浮かび上がっていた。影の奥から、地の底から這い上がるような、低く重い獣の咆哮が漏れ聞こえてくる。

 

「……な……なんなの……あれ……」

 彼女は呆然と、じわじわと広がっていく漆黒の影を見つめていた。


 唸り声はじわじわと大きくなり、やがて影の中から、黒いウロコに覆われた巨大な物体がその姿を現した。長い首、精悍な顔立ち、そして大きな翼をばさりと広げたその存在は――紛れもなく、巨大なドラゴンだった。


「……う……うそ……」

 2階の開発メンバーたちも俺の周りへと集まり、誰もが言葉を失っていた。


 オブリビオン。

 その姿は、リュウジが作り上げた「ドラゴンサーバント」世界のラスボス――全ての始まりと終わりを告げる、忘却のドラゴン――


「……逆転生か……!?」

 思わず、その言葉が口をついて出た。主人公が死んで異世界に転生するのではなく、異世界の魔物が逆に、現代というさらなる異世界に転生して来ている!

 導入したばかりの、破滅シナリオでキーとなるシステムだが……それが現実に? 俺は夢を見ているのか?


 グオオオオオオオッ……!


 オブリビオンが地鳴りのような雄叫びを解き放ちながら、その長い首をゆっくりと真下へ向けていく。喉の奥で何かが燃えるようにぎらりと光り、巨大な顎がゆっくりと、しかし確実に開かれていった。


「まずい……!」


 次の瞬間――轟音とともに、ドラゴンの口から灼熱の炎が奔流となって放たれた。壁を、床を、空気ごと焼き尽くすような猛火が、瞬く間にオフィスを飲み込んでいく。


「きゃああああ!」

「うおおおおっ!」


 悲鳴がオフィス中に響き渡り、黒煙が視界を瞬時に塞いでいった。一階はすでに火の海と化しており、もはや降りることなど不可能だ。俺は肺が裂けるような大声でフロア全員に向かって叫んだ。

 

「1階へ降りるのは無理だ! 順番に窓から飛び降りろ!」

 大声でスタッフに指示を出す。


 人生のすべてをかけて築き上げてきた「ドラゴンサーバント」と、このスタジオの仲間たち。


 こんな所で失ってたまるか!

 

「リュウジ! どこに行くんだ! 早く来い!」

 声の主は浅利ヨシアキ。学生時代からの盟友で、このゲームのメインデザイナーだ。

「3階を見てくる!」

 スタッフ全員が避難するのを見届けた後、階段を駆け上がる。3階のフロアに辿り着くと、そこで立ち尽くしている男がいた。矢野ケンジ――彼も学生時代からの仲間、エンジニアチームのリーダーだ。

 呆然と固まっているケンジの両肩を掴み、俺は怒鳴るように叫ぶ。

「もう下には行けない! 屋上だ! みんなを連れて屋上に行け!」

「リュウジ!」

 フロアの全員が屋上へ向かう。そこから避難はしごで降りられるはずだ。

 その時だった。ごうごうと渦巻く煙の奥から、耳に飛び込んでくる声があった。

 吉田ユリの悲鳴――彼女も学生時代からスタジオを支えてくれた、サウンドチームのリーダーだ。忙しさのあまり、お互い深く話すコトはなかったが、俺は彼女を特別な存在だと思い始めていた。


 サウンドチームの席は一番奥、防音壁に囲まれた部屋の中。逃げ遅れてる可能性が高い! 俺はもくもくと立ち昇る煙をかき分け、必死に奥へ向かおうとする。


 「助けて!」

 混乱の叫び声のなかに、ユリの声がはっきりと聞こえる。俺は混乱の中、周りのスタッフに屋上へ逃げるよう叫びながら、さらに煙の奥へと突き進んでいった。

「ユリ! どこだ!」

 しかし、3階もすぐに猛烈な勢いの炎に包まれ、飲み込まれていった。

 

 その瞬間――視界が白くなり――その後の記憶はない。


新作開始!

毎週日曜8時更新の予定です。

評価ポイント、ブクマが多いと更新頻度上がります(たぶん)!

応援お願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ