金ピカを眺めていただけなのに、社会問題になった
今日はいい日だ。
巣の奥はひんやりしていて、外から差し込む光がきらきらしている。
ドラゴンは大きな体を丸め、目の前に積み上がった金色の山をじっと眺めていた。
つめたい。
触ると、少しだけぬるくなる。
ドラゴンは前足で金貨をそっと押した。
ざらざらと音を立てて崩れ、また別の形に積み上がる。
「……きれいだなぁ」
意味はない。
ただ、光るものが好きだった。
金貨を一枚つまみ、頬に当てる。
ひんやりして、気持ちいい。
しばらくすると体温が移って、ぬるくなる。
それもまた、楽しい。
ドラゴンは金貨を積み、崩し、また積んだ。
ときどき、巣の天井から差す光を反射して、自分の体まで金色に輝く。
「……あ」
腕を動かすと、ウロコの上を金色の光が流れた。
「金ピカだ」
なんだか、自分までおもちゃになったみたいだ。
ドラゴンは少しだけ、嬉しくなった。
「なくならないといいなぁ」
それは、とても小さな願いだった。
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同じ頃。
王都の会議室では、誰一人として座れていなかった。
「金の流通が止まっています」
報告官の声は震えていた。
「正確には、“消えている”のです。
各地の鉱山、運搬路、保管庫――共通点は一つ」
地図の上に、白い印が打たれていく。
「白い影が、必ず目撃されている」
沈黙。
「……つまり」
大臣の一人が、喉を鳴らした。
「奴は金を集めている、と?」
「はい」
「目的は?」
「不明です」
別の男が声を荒げる。
「そんなはずがあるか!
金は国家の血液だ! 流通を止めれば、経済は死ぬ!」
「つまり……」
誰かが、言葉を選びながら呟いた。
「経済戦争、ですか」
会議室の空気が、一気に重くなる。
「白いドラゴンは、我々の仕組みを理解している可能性がある」
「いや、理解していない方が恐ろしい」
「金を独占し、世界を餓えさせる気だとしたら?」
机の上に、最新の報告書が置かれた。
そこには一枚の挿絵があった。
金貨の山の中央に座す、白いドラゴン。
その体は、溢れる金の輝きを映し、まるで――
「……純金で鋳造された、神像のようだ」
誰かが、そう呟いた。
「自らを集めた富と同じ色に染める……」
「欲望そのものを、身に纏っているのか」
「いや、これは警告だ」
「警告?」
「“世界の富は、我のものだ”という……」
誰も、こうは考えなかった。
――ただ、触って遊んでいるだけだとは。
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一方、その頃。
ドラゴンは金貨の山にごろんと寝転がっていた。
背中がひんやりして、気持ちいい。
少し動くと、金貨が音を立てて転がる。
それが楽しくて、もう一度動く。
「……まぶしいなぁ」
光が反射して、目を細める。
金ピカの中にいると、自分まで金ピカになったみたいだ。
「ここ、好き」
ドラゴンは満足そうに目を閉じた。
その一方で。
人間社会は、静かに、しかし確実に追い詰められていった。
最強のドラゴンの日常と、
人間たちの阿鼻叫喚は、今日もすれ違っている。




