5. ジャン・ヴェベールの決意
「――その後は事前に計画した通り、少将の死を偽装したってわけ。
かなり練りに練っていたから、隠し通せる自信はあったんだけど……
まさか息子さんにバレるとはねぇ」
オランドはやれやれといった様子で、両手を広げて首を振った。
右手にあるココアシガレットの箱の中には、もう白い棒が1本しか入っていない。
食べ始めた時は未開封だったのにも関わらず。
「その話は……本当なんですか?」
「本当! ……って言いたいけど、信じないよね?
あいにくこの話が真実だっていう証拠を持ち合わせていなくてね。
判断は君に委ねるしかないかなぁ」
オランドは悲しそうな顔をして、口に残っていたシガレットを全部食べてしまった。
今までの話は彼の作り話かもしれない。
ジャンを同情させるために、ありもしない事実を並べている可能性は十分ある。
だがオランドは自分の犯行がバレたときに、逃げようという素振りを一切見せなかった。
それどころか、自分はやるべきことをしたと思いこんでいる。
抱いていた恨みを認めながらも。
正直オランドは何を考えているか分からない節が多過ぎるが、彼の告白に嘘はない。
そんな気がした。
ジャンは徐に立ち上がると、オランドの正面に立った。
そして覚悟を決めて、彼に向かって日記を見せびらかす。
「……あなたの話、信じますよ。
だけど、あなたを許した訳ではありません。
オレはこの日記を大切に保管します。
そしてあなたの弱みとして使わせていただきますよ。
もしあなたが今後軍規違反を犯したり、オレに何かしたら……
これを上層部に提出しますので、ご覚悟を」
そう言ってジャンはオランドが呆然としている隙に、最後のシガレットを奪い取った。
そしてあっと声を上げる彼の目の前で、口に入れてボリッと大きな音を出して噛み砕く。
ジャンは小悪魔のような笑みを浮かべたまま完食し、オランドを一瞬黙らせてしまった。
「楽しみに取っておいたのにぃ……うぅ……
君って、意地悪な上に変なところで頭が回るタイプなのぉ……?」
「ははっ、よく言われます」
オランドは少し涙目になっていた。
どうやらかなり厄介な相手に秘密を知られてしまったと後悔しているらしい。
だがこれで不問にしようとしているのだから、安いものだろう。
しばらくオランドはしょんぼりしていたが、突然気持ちを切り替えたかのように真面目な感じになった。
「でも、本当にそれでいいの?
ボクは君のお父さんを殺したんだよ?
そんなに穏便に済まされると、逆に落ち着かないんだけどぉ」
まあ、そう思うのも当然だろう。
本当なら今すぐ軍に突き出すべきだ。
でもジャンは、そんな気力は起きなかった。
「だって、真偽はともかく全て包み隠さず話してくれたじゃないですか。
むしろ、教えて頂いたことに感謝しているくらいです。
あなたの話を聞かなかったら、オレは父と同じ道を辿っていたかもしれませんから」
それだけではない。
元々ジャンにとって父親は、遠い存在だった。
今やっと父のことを深く知ることはできたし、ジャンのことを息子として愛していたこともわかった。
なのにどうしても、赤の他人のような感じは抜けない。
そのせいか、憎悪をオランドに抱くことはできなかった。
「……父も、あなたのおかげで救われたと思うんです。
もしあなたに刺されなかったら、自分が間違っていることに気付かなかったでしょう。
死に際の僅かな時間ではありますが、人に戻れたことに安堵したんじゃないですか?」
ジャンは空を眺めた。
丁度視界の先には、オリオン座が輝いていた。
特に中央の三ツ星がキラキラと光っており、とても綺麗に見える。
オランドは清々しいジャンを見て、複雑な笑みを浮かべた。
「君……名前と年齢は?」
「ジャン、年は15です」
「はぁ!? うそでしょ!?
その年でそんなこと考えられるの!?
うっわぁ……将来大物になれるんじゃない?」
ジャンはわざとらしく鼻を鳴らした。
オランドも反抗するように大きなため息を漏らすと、懐中時計を確認した。
「おっと、もうこんな時間。
話したいことは全部話したし、ボクはそろそろお暇しようかな。
これ以上道草食っていたら、折角抜け出したのに誰かに連れ戻されるかもだし」
そう言うとオランドは立ち上がった。
ジャンもこれ以上外にいる理由がなくなったので、家に戻ることにした。
2人は向き合いながらすれ違い、それぞれの向かうべき場所へと歩く。
そんな時、オランドがふと思い出したかのように振り返った。
「あっ、そうそう。
お父さんの最期の言葉、教えていなかったね。
知りたい?」
ジャンは立ち止まり、肯定するように振り返った。
オランドはそれを見て、穏やかな笑顔を見せた。
「――『兵器になるな。人間であり続けろ』」
そう言ってオランドは、背中を向けて暗闇に溶け込んでいった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
本作品は連載小説「黄金が再び輝く時」のサブストーリーとなっております。
本編では7年後に少佐に昇格したジャン・ヴェベールと、少将になったオランドが登場します。
2人とも中々に個性的でありながら、物語を動かす主要人物として活躍しています。
彼らがこの後どのような未来を歩んでいるのか気になる方は、是非本編へ足を運んでいただけると幸いです。
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