4. オランドが見た最期
ヴェベール少将が怪我を負ったまま逃げた後、ボクはすぐ部下に彼の後を追わせた。
本当はボク自身が探しに行きたかったんだけど、あいにく戦いの真っただ中でね。
少将の代わりに指揮を執らないといけなかったから、そこはぐっと堪えたよ。
幸いにも、その時の戦いはあっけなく終わったよ。
結果はこちらの大勝利。
犠牲になった兵士も、僕の予想よりも遥かに少なくてすごく安心した。
でもほっとしたのも束の間だった。
直後に部下が駆けつけて、「少将を見つけた」って聞かされてね。
居ても立ってもいられなくなって、ボクは他の指揮官に撤収の仕事は投げたよ。
そんで部下に連れられるまま、雪山の中を歩いたんだ。
彼のいた場所は、そんなに遠くはなかった。
拠点からたったの数百メートルしか離れていなかった気がする。
ヴェベール少将は森の中で、木にもたれかかっていたよ。
その時は意識はあったけど、もう限界だったみたい。
彼はボクを目視したけど、顔は一切動かさなかった。
下の雪は真っ赤に染まっていたし、既に時間の問題だったと思う。
さすがに辛そうで、ボクでも良心が痛んだよ。
ボクは部下に離れるように伝えて、二人っきりになった。
その後少将を観察した後に、ナイフを手にして近づいた。
彼をもう楽にさせてあげようと思ったんだ。
その時にさ、少将は信じられないことを言ったんだ。
「すまな……かった……」
思わず動揺したよ。
危うくナイフを落とすところだった。
もちろん、足は止まったけど。
最初は聞き間違えかと思った。
でも少将をよく見ると、小刻みに唇を震わせていたんだ。
まるで全神経をそこに集中させているかのようにね。
「私、は……道を誤ったん……だな……
人として……あるべきものを、全て……捨ててしまった……
だからお前は……こんな、ことを……」
何も言い返せなかった。
よく見たら、彼の右手にその日記とペンダントが握られていたんだ。
そこでボクは察したよ。
少将は逃げてから今まで、自分なりに裏切られた理由を考えたんだなって。
「策略家は……兵士を、死地に向かわせる……殺人鬼……
故に、人の心が残っていれば……判断を、誤る……
だから私は……すべてを捨てた……
家族、友情、良心……すべてを……」
そう、彼の言う通り。
ボク達は兵士を駒として扱わないといけない。
だから冷酷無慈悲にならないといけないんだ。
少将はそれを分かっていて、感情というものを全部切り捨てたんだ。
だから結果重視の判断しか、彼はできなくなっていたんだよ。
ボクはそう解釈したね。
「だが……やり、過ぎた……
考えれば……すぐにわかることだ……
部下に、慕われない上司は……信頼されない……
碌な目に、合わないのは……当たり前だというのに……」
うん、ボクも納得した。
その時は何も言えなかったけど。
部下をばんばか切り捨てる上司なんて、裏切られるのは当然でしょ?
彼はそれを死地でやっと分かったみたい。
かなり後悔していたみたいだけど、何も知らないで死ぬよりは全然マシだよね?
だけどふと気になってさ、どうしてそう思ったのか聞いてみたんだ。
すると少将はね、持っていたペンダントを地面に落としたんだ。
本当はボクに差し出したかったらしいんだけど、もう力が残ってなかったみたい。
だから僕は彼に近づいて、代わりにペンダントを拾って開けたんだ。
……そこにはさ、家族写真が入っていたよ。
少将と君、お母さんの3人でね。
君が来ていた制服がかなり真新しかったから、撮ったのは入学式の時じゃない?
ボクは初めて知ったよ。
あんな人間味のない少将が、家族を大事に思っていたなんてね。
……その表情、もしかして君も知らなかった?
ハハハ! じゃあずっとその気持ち隠してたんだね。
彼は兵器じゃない、一人の人間だったんだ。
だけど軍人であろうとするあまりに、大事なものを全部捨てちゃった。
そんな……哀れな大人だったんだよ。
「マル、ク……」
そんなことが頭を巡っていたら、少将に初めて名前で呼ばれたよ。
ボクが「はい」って返事をしたら、一言だけ呟いてね。
……そのまま、事切れたよ。




