2. 血の付いた日記
王暦1017年1月10日。
自分の人生を自問自答するために、此度の戦いの出来事を詳細に書き記そうと思う。
場所はビクティマ帝国領土、ウトゥルモ。
目的は首都への侵略のための道の確保。
我々チュテレール軍と敵ビクティマ軍の数はそれぞれ1万。
兵力差は均衡していると言えた。
今回は平地戦だった。
この場合、戦略が全てものをいう。
だから軍師と称えられる私が行くに相応しかった。
作戦は、私と同じく頭を使って戦うマルク・オランド中佐と立てた。
結局は複数の部隊を囮にした方法を編み出した。
詳細に書きたいところだが、今の私にそんな時間はない。
1つだけ書き留めておくなら、確実に勝利するが被害が大きいやり方を取った事だろう。
オランド中佐は最初、猛反対していた。
「いくら何でも非人道的すぎる。
ボクならもっと被害を出さずに勝利できる方法を取るよ?
例えばこんな感じで――」
そこからは彼の綺麗事を聞かなかった。
オランド中佐はいつも、被害を最小限にすることにこだわっている。
だが私は勝率のみを重視していたため、聞く価値がないと思ったのだ。
私は彼の話を無理やり切り上げて、自分が立てた作戦を軍全体に共有した。
オランド中佐がその時どんな顔をしていたのか、何を考えていたのか知らない。
むしろ、興味なかった。
そして今日、雪が降る中戦いが始まった。
私とオランド中佐は近くの高台から戦場を眺めていた。
そんな時に、兵が異様な行動を取り始めた。
私が立てた作戦では、囮となる複数の部隊がそのまま敵陣に突っ込む予定だった。
しかし作戦とは全く違い、軍全体が一斉に動き出し左右に別れたのだ。
大慌てで部下に確認を取るように命じた時、私の背中から猛烈な痛みと異物感が突然襲ってきた。
恐る恐る下を見ると、腹部からナイフの刃が突き出ている。
背後にいる犯人は……オランド中佐だった。
「悪く思わないでね、ヴェベールさん」
私はナイフが引き抜かれるのと同時に、雪の上に倒れ込んだ。
辛うじて動けなくもないが、出血が酷い。
手当しないと自分は死ぬと、確信が持てた。
私は声を振り絞って近くの部下に、自分の手当とオランド中佐の拘束を命じた。
だが誰も動かなった。
既に彼の息がかかっていて、これが計画的な犯行だということを私は理解した。
私は睨みながら、「これは明らかな軍規違反だ」とオランド中佐を責め立てた。
しかし彼は冷静にこう返した。
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ。
いくら勝率が高いからって、他にも方法があるのに毎回多大な犠牲を払うのは大問題だ。
ボク以外にもそう主張した人いたと思うけど、あなたの地位と頭で全部押さえ込んでいたでしょ?
だったらこうなるのも自然じゃない?」
私には理解できない弁明だ。
だけどここで悩んでもしかないのも分かった。
だから私は、刺し傷の痛みに耐えながら刀を抜いた。
そして私の邪魔をする数名の兵を斬り伏せて、一目散にその場から逃げ出した。
そして今私は、戦場の近くの森の中でこの日記をしたためている。
ただでさえ凍えそうな雪の中、体力を温存することに専念すべきだろう。
それにいずれ私が残した血痕と足跡を辿って、オランド中佐は私のもとにやってくるはず。
それでも私にはどうしても腑に落ちないことがあった。
私の何がいけなかったのか?
国のためを思い全力を尽くしたのに、どうしてこんな目に合わないといけない?
それがどうしても分からなかった。
オランド中佐は私利私欲で動くような奴じゃない。
それにかなりの面倒くさがり屋だから、こんな大事件を引き起こすのにはそれなりの理由があるはず。
彼の言葉の意味は分かる。
私が軍人としても非道すぎて、目に余ったと言いたいのだ。
でも、成果を上げている私のどこか問題なのか?
その点が、いくら考えてもわからないのだ。
だから私は、死を覚悟してここに全てを書くことにした。
あの裏切り者を罰するための材料となることを期待しているのもある。
だがそれより、頭を整理して彼の行動の意図を読み解きたかった。
でも、ダメそうだ。
寒さのせいか出血のせいか、思考が鈍ってきた。
もう起き上がる体力すらない。
このまま私は、ここで何も分からないまま死ぬのだろう。
せめて、せめてこの日記が――
(ここでゴーティエの日記は終わっていた)




